ストロンとカイン
ある日、悪いドラゴンがお城に住んでいるきれいなお姫様をさらっていきました。王様はお城の近く、街に住む皆にお姫様を助けて欲しいと願いました。
王様の願いを二人の兄弟が引き受けました。熱い心を持った力持ちなストロンと優しい心を持った器用なカインです。
二人は鎧を着て剣を持つと、悪いドラゴンがいる洞窟へと向かいました。洞窟へは険しい山を越え、広い草原を越えた先、深い谷の底にあります。
街から歩いてきた二人はまず山の麓へとたどり着きました。二人は山の向こうへ行くために山を登ります。
山を登る途中、二人は木によりかかるようにして座っているおじさんに出会いました。おじさんのすぐ横にはたくさんの袋があります。袋の口から木の実があるのが見えました。
おじさんはふぅふぅと息を切らしています。疲れているようです。
「お二人さん、ちょっといいかね?」おじさんは二人に尋ねました。
「どうしましたか?」カインが老人に聞き返します。
「私と一緒にこの袋を山の麓にある村まで持って行ってくれないかね?」おじさんは二人にお願いします。山の麓へ行くには山を戻ることになります。
「俺たちは山の向こうへ行ってお姫様を助けなくてはいけないんだ」ストロンはそう言いました。
「私はこの人と一緒に袋を持って行くよ。先に行ってくれ」カインはそう言いました。
カインの言葉を聞いたストロンは別れをつげて山を登っていきました。
ストロンを見送るカイン、彼はたくさんの袋を背負っておじさんと一緒に麓へと歩いていきました。
山を登っていたストロンの前に大きな岩がありました。大きな岩は道を塞いでいて先へと進めません。
しかし、力持ちのストロンは岩を少しずつ動かして前へ前へと進んでいきました。
やがて山の頂上にたどり着き、ストロンは山の向こうへと降りていきました。
ストロンが広い草原の前まで来ると後ろから彼を呼ぶ声が聞こえます。
「おーい、ストロン」それはカインの声でした。
「驚いた。どうやってそんなに早くここまで来たんだ?」ストロンはカインに尋ねます。
「あのおじさんをふもとまで案内したら近道を教えてくれたんだよ。彼は山の事を良く知っていたんだ」カインはそう説明しました。
「また一緒に行けるな」ストロンは草原を指差します。
「ああ、一緒に行こう」
ストロンとカインは二人で草原を歩き始めました。
草原を歩いている途中で二人は馬車に乗った太った男に出会います。馬車は止まっていて、動きません。馬は汗を流し、ヒュー、ヒューと息を切らしていました。
「そこの二人、ちょっと待て」太った男は二人を呼び止めます。
「何かご用でしょうか?」カインは聞き返します。
「あっちの方に村がある。そこから水を持ってこい」太った男が指差した方向は二人の行く方向と別の方向です。
「俺たちはお姫様を助けなくちゃいけないんだ。そんな暇はない」ストロンは言いました。
「私は水を持ってくるよ。馬が可哀想だ」カインはそう言いました。
二人はまた別れます。
ストロンはドラゴンの洞窟の方へ歩いていきました。
カインは村の方へ歩いていきました。
広い草原をストロンは歩き続けます。日が暮れて、夜になっても歩き続けました。
暗い草原の中にきらりと光るものがたくさん現れました。
ストロンは剣を抜きます。
光るもの、それは狼の目でした。いつの間にかたくさんの狼がストロンを囲んでいます。二十匹はいます。
たくさんの狼はストロンをじっと見ながら、周りをうろうろ動きました。
一匹の狼がオォーン、と雄叫びを上げます。
すると周りの狼が一斉にストロンに飛びかかります。
ストロンは前にいる狼を斬り落としながら前へと進みます。そのまま前へと走り始めました。
ストロンの後ろからたくさんの狼が追いかけてきます。
ストロンは追いついてきた狼を走りながら一匹ずつ斬っていくのでした。
走り続けて朝になる頃にはストロンを追いかける狼はもういませんでした。
ストロンは狼に何度か、かまれましたが、着ていた鎧のおかげで怪我をせずにすみました。
ぼろぼろになった鎧を着ながらストロンは広い草原を抜けました。
その時、後ろからストロンを呼ぶカインの声がします。
カインは太った男と一緒に馬車に乗っていました。
馬車がストロンの近くまで来るとカインは馬車を降りました。すると太った男はカインに別れを告げて、馬車を走らせました。
「鎧がぼろぼろだけど大丈夫かい?」カインはストロンに聞きます。
「大丈夫だ。それにしても狼の群れに会わなかったのか?」
「会ったけど太った男の人が持っていた干し肉を狼に投げた隙に逃げたんだよ。彼は商人でいろんな物を持っていたんだ。飲み水だけは無かったけどね」カインはそう説明し、ストロンにとても長いロープと怪我に良く効く薬を見せました。
二人は深い谷へとたどり着きます。谷を降りた先にドラゴンの洞窟があります。
「これを使って降りよう」カインはとても長いロープを取り出します。
ロープの片側を谷の近くにある木にくくりつけて、もう片方を谷に落とします。
二人はロープを伝って谷を降りていきました。
二人は谷の底にたどり着きます。そこで二人はうぅぅ、といううめき声を聞きました。
うめき声のする方へ向かうとそこには立派な鎧で全身を包んだ人をがいました。顔は兜で見えません。
「大丈夫ですか?」カインは鎧を着た人に尋ねます。
「手を滑らせて谷に落ちてしまった。鎧のおかげで死なずにすんだがな」鎧を着た人はそう言いました。
「怪我に良く効く薬を持っています。薬を塗りますから兜と鎧を脱いでください」鎧を着た男は頷き、兜と鎧を外しました。
兜の下にあったのはなんと大きな白い髭を生やした老人です。鎧の下はやせ細った体にしわのある細い腕や足でした。
「おじいさん、どうしてこんなところへ?」カインは老人に薬を塗りながら聞きました。
「私は昔、隣の国で英雄と呼ばれていた男だ。私のひ孫がドラゴンにさらわれたのでここまでやってきたのだ」
「お姫様以外の人もさらっているのか!」ストロンは顔を熱くして言いました。そして谷の奥へと歩き始めました。
「ストロン、待ってくれ!」カインは呼び止めます。
「こうしている間もドラゴンは悪い事をしているかもしれない。急いで倒さなくてはいけないんだ」ストロンは歩みを止めることなく奥へと進んでいきました。
カインはストロンを追わずにおじいさんの看病をしました。
ストロンはドラゴンの洞窟の前へとやってきました。
ドラゴンの洞窟はとても大きく、その高さは二階建ての家ぐらいあります。
ストロンは自分の持ち物を確かめます。狼に噛まれたボロボロの鎧と狼をたくさん斬ったボロボロの剣です。
ストロンは後ろを振り向きます。ストロンの後ろには誰もいない谷があるだけです。時折、ビュー、と風が吹いていました。
ストロンは首を横に振って洞窟の奥へと進んでいきました。
洞窟の奥は天井から太陽の光が差し、中を明るく照らしていました。
ストロンは太陽に照らされたドラゴンの姿がはっきりと見えました。
一階建ての家ほどの大きさがある赤いドラゴンです。人を人のみできるほどの大きな口をしています。木を簡単に切り裂くことができそうな爪をしています。岩を簡単にこなごなにできるであろう太く長い尻尾をしています。そして、どこまでも飛んで追いかけることのできる翼を持っていました。
ドラゴンのすぐそばにお姫様と女の人がいるのが見えました。
ドラゴンは鼻をひくひくと動かしたあと、太く長い首を動かしてストロンの方へ大きな瞳を向けました。
「何しに来た?」ドラゴンは低い声でストロンに尋ねます。
ストロンは剣をドラゴンに向けて叫びました。
「おまえを倒して、お姫様達を返して貰うぞ!」
「そのぼろぼろの剣で倒すだと? 笑わせる」ドラゴンはストロンに歩み寄ります。
「無理です! お逃げください!」お姫様たちはストロンに叫びました。
しかし、ストロンは逃げずに剣をドラゴンの首へと突き刺そうとしました。しかし、ぼろぼろの剣は硬い筋肉でできているドラゴンの首に突き刺さることなく、折れてしまいました。
ドラゴンはストロンほどある大きな前足でストロンを地面に押さえつけました。ストロンは暴れます。岩をも動かすストロンですが、ドラゴンの前足が動くことはありませんでした。
ドラゴンは前足の押さえる力を少しずつ強くしていきました。ストロンの鎧は壊れ、体からみしみしと音がなります。ストロンは息ができず、苦しくなっていきました。
「つまらない」そう言うとドラゴンは口を大きく開けます。剣のように鋭い牙が何本もあります。ドラゴンは口をストロンへ近づけていきます。
「やめてください!」お姫様は顔を両手で覆い隠し悲鳴を上げます。女の人は石を持ってドラゴンに投げますが、ドラゴンは気づくことなくストロンに口を近づけていきます。
「ぐわあああ!!」ドラゴンの大きな悲鳴です。ドラゴンの右目に立派な剣が刺さっていました。剣を刺したのは立派な鎧を着たカインです。
「大丈夫かい?」カインはドラゴンの返り血を浴びたストロンに手を差し伸べます。
ストロンはカインの手を借りて立ち上がります。二人はドラゴンの方へ体を向けました。
目を刺されたドラゴンは暴れ回ります。ドラゴンの尻尾が洞窟の壁を叩き、床を叩きます。そしてお姫様達に迫ろうとしていました。
「危ない!」カインはお姫様達を庇います。カインはドラゴンの尻尾によって吹き飛び、壁にたたきつけられます。カインの体がボキっとなりました。カインは立ち上がろうとしますが、体を動かすことができませんでした。
暴れていたドラゴンは荒く鼻息をあげながら、カインの方を見ました。そして雄叫びを上げながら突進していきます。
ストロンは突進するドラゴンの尻尾を掴みました。ドラゴンの血を浴びて力がわき上がるのを感じていたストロン。ドラゴンの突進を止めました。そしてドラゴンを投げ飛ばします。
ストロンは投げ飛ばしたドラゴンの目の前まで来て、右目にある立派な剣を掴みます。ストロンはそのまま剣でドラゴンを切り裂きました。
切り裂かれたドラゴン、動くことはもうありませんでした。
ドラゴンの洞窟の奥から四人が出てきます。ストロンと娘に支えられたカインとお姫様です。洞窟の入り口には白い髭の老人がいました。老人は四人の元へと走ります。
「ひ孫よ、無事で良かった」老人は娘にそう言いました。
「おじいさん、あなたのくれた鎧と剣のおかげで助かりました」カインは老人に頭を下げて感謝しました。
「こちらこそ、ひ孫を助けてくれてありがとう」老人は娘に支えられたカインに感謝します。
「さあ私たちは隣の国へ帰ろうか」老人は娘に言いました。
「ひいおじいさま、この方と一緒でもよろしいでしょうか?」娘は頬を赤らめながらカインを支えます。
「もちろんだとも!」老人は喜んで、快く受けました。
その後、カインは隣の国で英雄として老人のひ孫と共に幸せに暮らしています。
一方のストロンはお姫様と一緒に城へと戻りました。
お姫様を助けたストロンも英雄になりました。そして王様にこう言われました。
「ストロンよ、姫と結婚してこの国の王になってくれ」
ストロンは王様の提案を快く受けて、お姫様と幸せに暮らしています。
めでたしめでたし




