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スターリーカイザー -STARRY KAISER-   作者: 星川 雪将
星影の皇帝
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Phase1.5 With God,All Things Are Possible. PartⅡ

 もはやこれまでと思っていたスバルは瞼をぎゅっと閉じていた。しかし、いつまでも落下は続く――否、瞼を開いたスバルは自分が青白い球状の光に包まれ、逆さまで宙に浮いているの事に気づいた。そして、目の前には夜空の如く真っ黒な機械の巨人――見たことのないタイプのDFが鎮座していた。なんとか体勢を整えて辺りを観察していると、巨人の肩に立つ、純白の薄いキャミソール姿の銀髪の少女と目があった。夜天の星のように暖かいオレンジ色の瞳に見入っていると、少女は鈴の音のような美しい声で、スバルに声をかけてきた。


 「ずっと待ってた。貴方がここへ来ることを。星の覇権をかけて戦う覚悟を持つ者よ――」


 「な……何を言って……」


 「天宮スバル、私と契約して、力を手に入れませんか? 神の力と、この機兵が……迷える貴方の未来を照らしましょう」


 スバルは憧れたかつての光景――戦場を舞う少女とDFのことを再び思い出した。疲労困憊のスバルは目の前の状況を理解しようと、なんとか頭を動かして思案したあと、少女に問いただす。

 

 「その契約とやらに、俺にデメリットや失うものはあるのか? そもそも神の力って……君は何者だ? それに俺のことを知っているのか?」


 「契約したら貴方は普通の人間ではなくなり、普通の人間の生活には戻れなくなる。私は貴方に、この世界を動かしてほしいと思ってるの。そもそも……貴方は自分の命以外失うものなんてないんじゃなくて?」


 スバルが落ちてきた上層から大勢の足音が聞こえてくる。追手達がすぐそこまで来ている――スバルは自分に残された時間が僅かしかないことを悟った。


 「助けてあげないよ? 契約しなきゃ。あと私の事については秘密」

 

 少女はいたずらっぽく微笑む。その仕草にスバルはドキッとしそうになったが、今自分が命の危険にあることを思い出し、結論を出そうと思考した。

 ――ここで殺される位なら、助かる可能性が少しでもあるならば、契約してもいい、とスバルは決心した。

 

「くッ……。助けてくれ! 俺にその力を貸してくれ!」


 その姿を見て微笑んでいた少女は、しかし途端に意地悪そうな顔をしてスバルに言い放つ。


 「でも貴方、もう死ぬつもりだったんじゃないの? 大事な人皆死んじゃって、何を理由にこれから生きるの?」


 「そ……それは……」


 少しの沈黙のあと、少女は再びスバルと目を合わせ、彼に問う。スバルと彼女との間には物理的距離があるはずなのに、その声はまるで耳元で囁かれたように聞こえるのだった。

 

 「聞かせて……貴方の心の奥深くに秘めた、絶望と願いを。力を、何のために使いたいのかを」


 ――俺の心の奥に秘めた願い、それは、普通の生活でも、この現状から抜け出すことでもなく――。

 スバルは一呼吸置き、きっと少女を見据え、精一杯叫んだ。

 

 「俺は親父と姉さんを殺した、ティターニアの奴らが憎い! 俺の居場所を奪ったあいつらを、地上から追い出してやりたい! 俺はあいつらへの……復讐がしたいッ! そのためならこの命を賭けて、何だってやってやる!!! もう普通の人間の生活など、どうでもいい!!! 俺と……天宮スバルと契約しろォッ!!!」

 

 スバルの叫びは薄暗く静かな部屋を揺るがすように響き渡り、少女を驚いたような顔にさせた。少女はその言葉を聞き終えるとフフッと微笑んだ後、満足そうな表情を浮かべ、ふわりと浮いてスバルに近づいてきた。そして一粒の涙を零し、彼の頭を抱擁した。

 刹那、スバルは理解した――自身に神の息吹が流れこんで来ていることに。そしてこれが契約なのだと。

 

「この機兵と私の名は……《アークトゥルス》。貴方の願い、しかと聞き入れました。天宮スバル、《神の代行者》として、世界を突き動かすのです――」

  


***



天宮スバルを探しだすための部隊――世界共同党の下部組織の兵士達八人は、スバルとは別の場所から地下に侵入し、男の叫び声が聞こえた倉庫のような部屋の扉の前まで来ていた。


 「先程上にいるメンバーから、ターゲットが転落したと思われる下層から男の叫び声と、続いて妙な発光現象が見えたと報告があった。各人、注意されたし」


 通信を聞いた兵士達は暗視ゴーグルをオンに切り替え、タイミングを合わせて倉庫の中へ突入した。ライフルを構え周りを見渡すと、そこには異様な光景が待ち構えていた。

 

 「……!? ……なんだこれは……!」

 

 同じ顔、同じ服装の人間――二〇人の天宮スバルが、倉庫の一階や二階、荷物の影などあらゆる方向からこちらに銃口を向けていた。兵士はゴーグルで生体スキャンをしたが、確かに幻覚とか映像ではなく、すべて本物の人間だった。黒き機兵の手のひらに座るスバルが高圧的に糾問する。


 「動くな。そして俺の質問だけに答えろ。君たち、動きからしてどうやら帝国の《粛清部隊》のようだが、俺を殺すならどんな風に殺すつもりだったのか教えてくれよ。俺に爆弾を括りつけて、怯える顔を嘲笑いながら吹き飛ばすつもりだったのかい――先日の淡路島でやったように! それとも生き埋めにしたり、DFで轢き殺そうとしてたのかい――体制に反抗的なティターニア帝国民に対して、お前らが年中やっているように!」


 スバルの放つ威圧感と二〇丁の銃口に怖気づきながら、一人の兵士が口を開いた。


 「……お、お前がクローンだって聞いてたから、俺達の蹴りに何発耐えられるか試してから殺そうと思ってた。……ホ、ホラ、正直に言ったんだから、もうその銃おろしてくれよ!今からでもちゃんと上に連絡してから組織に戻ってくれば、お前の命は心配ないだろうから……俺が話をつけてやるよ」


 兵士達は全員銃を下ろし、敵対心がないという意思表示をした。この様に相手を騙そうとするのは、スバルにとって過去何度も見た光景だった。スバルは溜息をついたあと、少し微笑んで言った。


「そうだな。住むとこないし、あいつらの所に戻るよ。だがお前達には……ここで死んでもらう」

 

 兵士達に殺意のこもった眼差しを向け、冷たく言い放つ。瞬間、兵士たちは背を向け走りだしたが、スバルは冷酷に自分のコピー達に命令を下す。


 「殺せ」


 一拍も間を置かず四方八方から銃弾が放たれ、兵士達に向けて降り注ぐ。断末魔、発砲音、銃弾が壁や床に当たる金属音が部屋中にほとばしる。たっぷり三秒間鉛の雨を浴びて、八人の兵士達は一人残らず蜂の巣になってしまった。倉庫に再び静寂が戻ってくる。

 

 アークトゥルスの手のひらに座っていた《本物のスバル》は、最初その光景を見終えても呆然とした表情をしていた。だが次の瞬間には、悪巧みを思いついた少年のように、ニヤリと笑った。スバルの背中に立つ銀髪の少女は母親のように優しく微笑み、スバルの顔を覗いていた。

 

 神なる存在と契約し、覚醒した超能力――自分の寿命を引き換えに、人間のコピーを作り出し、それを使役する――これがスバルが手にした力だった。スバルを抑圧し、利用し、強要し、果てに殺そうと画策してきた、悪意あるすべての人間達、悪意まみれのこの世界で生き残るための力がここにある。否、スバルの思い通りに世界を翻弄し、更なる地獄に変える事ができる力が――。


 (――俺はニセモノだ。DNAは劣化コピー――ニセモノだ。家族も直接血のつながりのないニセモノ。俺を管理しようとした奴らとの関係も、今までの人達との関係も、結局は深みのない全部ニセモノの人間関係だったんだ。だけど、それでも……俺に残されたホンモノは――)


 「この命は全て俺のモノだ。そして俺の名は……天宮スバル! 世界を壊すために生まれた男だッ!」


 絶望と失意の水底に沈んでいた青年、天宮スバル復活の時であった。それがこれから様々な人達を巻き込み、いつの間にか幸せにし、或いは深く傷つけ、意図せぬ方向へ世界の潮流がねじ曲がっていく事になろうとは、スバルはこの時は思ってもいなかった。


 天宮スバルに残された寿命は、あと――三〇年と二八〇日。

ここで第一章終了です。まずはここまで読んでいただき、ありがとうございました。主人公が活躍するのはこれからなので、一回の投稿につき二〇〇〇から四〇〇〇文字と、第一章はなるべく短めにまとめたつもりですが、いかがでしたでしょうか。以降は一回の投稿につき四〇〇〇文字以上を目指して書きたいと思っております。


第二章では、力を手にした主人公が学園を自分のものにする過程と、もう一人の主人公の紹介を描きます。ロボット同士の戦闘を期待していた人には誠に申し訳ございませんが、近いうちに書きたいと思っております。あと、少しだけお色気シーンもあります、多分。


改めて、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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