Phase1.4 With God,All Things Are Possible.
スバルを乗せたトレーラーは道路の人達にお構いなくスラム街を突っ走り、寂れた公園の駐車場までなんとか逃れていた。二人の男が溜息をつきながら車内から姿を現した。
「あれはさすがに逃げないと死ぬ所だったぜ。おーい少年、生きてるか!?」
車の運転手と助手席にいた男は、スバルの安否を確認しようとするが、返事がない。辺りを見渡すと、後方の地下駅の中へ彼が入っていくのがチラリと見えた。男はすぐさまリンクチョーカーで仲間に連絡を取る。
「こちらトレーラー、例のクローンが逃亡した。スラム街捜索の応援を頼む」
「了解。スラム街アジトから《粛清軍》を二〇人、捜索に向かわせる。ターゲットが他の政治組織に入られると面倒だ。場合によっては殺しても構わない」
通信を終えると、二人の男は運転席付近から銃を取り出し、楽しそうな顔でスバルの後を追うのだった。午後一時過ぎ、スバルの知らない所で、狩人達が動き出す。
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大通りのデモ隊は散り散りになり、現場は凄惨な状態だった。DF同士の戦いはより激しさを増し、周囲の建造物は燃え、ガラスや破片が飛び散り、人種関係なくあらゆる人々を巻き込んでいった。周りの人達など構わず続く戦闘は、DFの左腕を破壊され、尚且つ二対一の大西が圧倒的に不利な状況だ。
「腕一本無かろうがテメェラなんかどうとでも――」
迫り来る敵に銃を連射するが、両手持ちの銃を片手で扱っているが故に、銃口が反動でブレてなかなか当たらない。そして前方と右側からのレーザーブレードによる二つの斬撃が、大西機の右腕、胴体と大西のいるボックスを真っ二つに引き裂いた。切断部から派手に火花を散らし、大西機は崩れ落ちる。
「ざまあないぜ! ……ん、お仲間がいたのかよ」
喜び勇んでいた共同党のDFパイロットは、大型駐車場から飛び立ち、現場に駆けつけてきた横田機と上空のハルカ機――スピカの方を見据える。横田機は逃げ惑う人々を守るように立ちふさがった。それに反応して二機のDFが横田機に近接攻撃を仕掛けようと距離を詰めてくる。
「横田さん、人々の護衛と救助をお願いします。この二機は私がなんとかします」
「分かりました。添星さんなら、そいつら程度一瞬で片がついちゃうでしょう」
ハルカと鋭利なフォルムに紅白のDF、スピカは空より大通りへ垂直に舞い降り、毅然と二機のDFの前に立ち塞がった。
突如スピカの背中に備え付けてあった槍のような物体が二本、吸い込まれるように何処かへ消えた。スピカの胸部の前に浮いていたハルカが右手を広げ突き出すと、ハルカの目の前の空間が、小石を投げいれた水面のようにぐにゃりと歪んだ。共同党所属の二機は目の前の異変から危険を察知し、後方へ高くジャンプして一度距離を取ろうとしたが、もう遅かった。
「遠隔操作で動かしてるなら、遠慮は全然いらないよねッ!」
歪んだ空間から飛び出してきたのは、さっきまでスピカの背中に備えられていた巨大な金属の槍であった。驚異的な速度で異次元から射出された槍は、空気摩擦でオレンジ色の閃光となって、空中の二機の胸部を正確に射抜き、粉砕した。
「流石、質量砲の異名は伊達ではありませんね。ホントに一瞬でした」
「いえいえ。それと……タイヨウさんを乗せたトレーラーの行方も気掛かりですが、まずはけが人の救助が優先ですね」
けが人の救助活動、重要人物天宮タイヨウの消失――午後一時半、街中の騒乱はまだ終わらない。
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スバルは地下駅に入ったあと、かつて父親に教えてもらった、空中都市ニッポンに張り巡らされた地下道路の存在を信じて、階段を使い更に下の階へ降りていく。幸運にも地下二階あたりに着くと、入口のようなものをすぐに見つけることができた。しかし――。
(もう追手が来ている! 逃げだす所をみられたかッ!)
スバルはもはや行き着く場所などを考えずに、ただ一心不乱に地下道路を駆け出した。どこへも行くあてなどなく、自分がどちらへ進んでいるのかさえ分からない。左の角を曲がろうとした時、スバルの右腕のあたりを何かが掠めた。そして追手が銃器で武装しており、今の銃弾は自分を狙ったものだと気づいた。デモ前の運転手の励ましの言葉から察するに、向こうはスバルを失う位なら、殺してしまうつもりなのだろう。生きて逃げ切れる可能性は更に小さくなった、とスバルは確信する。
(冗談じゃない! 俺は……生きるって決めたんだ。姉さんの言うとおりに、できればもう親父の名前を傷つけないように……)
エレベーターを見つけたスバルは銃撃をなんとか掻い潜り、中に転がり込む。早く閉まれ、と頭のなかで強く念じながらボタンを連打する。閉まる扉の奥に追手の顔がチラリと見え、バンバン、と二発の銃弾が打ち込まれたが、ギリギリのタイミングでエレベーターのドアは閉まり、下の階へと動き出した。
汗びっしょりのスバルは息を切らしてエレベーターの床にへたり込んだ。同時に疲労による腹痛と吐き気に苛まれる。おまけに先ほど銃弾が掠めてできた傷から、血がどろどろと流れ出し、右腕を真っ赤に染めていた。スバルはクローン故に、体の強さは普通の人間のそれに比べて明らかに劣っていた。スバルは自分の弱さと現実の過酷さに苛立ち、左腕の拳をエレベーターの壁に叩きつけて叫んだ。
「くそっ……どうしてこうなっちまったんだ! どうして俺はこんな奴なんだよ! 弱くて、偽物で……一人ぼっちで……」
――最下層、地下五階です。扉が開きます。
機械音声が響き、扉が開くと、先程よりも暗い世界が待っていた。スバルは右腕に負った傷を抑え、フラフラとエレベーターの外へ歩き出した後、近くの鉄の柵に背中から寄りかかった。そして暗くて気付かなかった――鉄柵がボロボロに錆び付いていて事に。不意に背中を支えていたものがなくなり、はっとスバルが声を出した時にはもう遅く、背後の深い闇の中へ頭から落ちていった。
(半端な形で生きる覚悟なんかして、親父のフリして皆を騙そうとして……これがその末路……報いなんだな。親父、姉さん……俺には生きるなんて事、難しすぎたよ)
スバルは悔しくて涙を抑えられなかった。だからせめて、訪れるであろう最後の時まで、スバルは家族に懺悔を続けるのだった。




