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スターリーカイザー -STARRY KAISER-   作者: 星川 雪将
星影の皇帝
3/7

Phase1.3 街の中の戦争

 正午、主催者の合図とともにデモが始まった。舞台となる大通りは、左側には近未来的な日本人の居住区、右側には建物の整備や清掃が行き届いてない移民のスラムという風景の、境界線のような場所である。スバルが乗った大型街宣車――トレーラーも反重力装置でふわりと浮き、少しずつ動き出す。すぐに一〇〇〇人は優に超える民衆が声を上げ始めた。


「移民全てに参政権と居住権を! 空中都市ニッポンは日本人のためだけの居場所ではなく! 地球に住む全ての人間達が! 等しく平和な生活を享受する権利がある場所である!」


「地上から食料などの資源を吸い上げ、更には宇宙開発をも独り占めする空中都市は! 欲に溺れた倒すべき権力者達である! 世界平和の為には! 共に幸せを分かち合わなくてはならない! 先進国という名の古き時代の栄光に溺れる者たちは! 今のニッポンに居るべきではない!」


 平等、世界平和、権利――博愛主義者や変わったインテリが好みそうな言葉を並べ、声を張り上げ人々は街を練り歩く。数と音の暴力とも言えるその光景に、日本人街の人々は怪訝そうな顔で見つめたり、あるいは興味なさそうに先を急ぐ人達もいる。デモの様子を報道するマスコミの数も増えてきた頃、スバルの乗るトレーラーの無線から声が聞こえた。


「そろそろだ。例の奴に仕事させろ」


 運転手が声で合図をすると、トレーラーの上側が開き、スバルが立っていた台が上へ登ってゆく。そして、デモ隊全てを見渡せる高さになった時、マスコミや観衆の注目は天宮タイヨウに扮したスバルに集まった。そして人々のざわめきが大きくなっていくのがスバルから見て目に見えて分かった。ここからは練習なしの一発勝負、しくじることは許されない状況だ。


 「もしかして天宮さんじゃないのか!? 奥羽で死んじまったはずじゃあ……」

 

 「あいつはきっとよく似た別人だ! 天宮氏は名誉の戦死をなされたはずだ! それによく似てるが、まるで若いころの彼じゃないか!」

 

 観衆のざわめきは更に大きくなり、次第に歓迎するような歓声も聞こえ始めた。それでも、スバルは表情を崩さない。 


 (親父……すまん。姉さん、俺は生きるよ)

 

 覚悟を決めたスバルは父親の顔を思い出し、彼の厳しくも余裕を構えた表情と声を真似て演説を始めた。


「このデモを見ている日本国民と移民の諸君。私は奥羽山脈エリア防衛軍壱番隊、元隊長の天宮だ。私は奥羽の戦場から様々な人達の助けを経て、今日、空中都市ニッポンへ帰ってくることができたのだ!」


  

 ****

 


 「た……隊長……なのですか……?」


 ここは地下組織《松山グループ》のDF格納庫にある、遠隔操縦室である。今回二機の中型DFが監視の任務に就いているが、その内一機は基地からの遠隔操作で動作している。そのパイロットの男、横田はデモに現われた見覚えのある人物の姿に驚愕していた。DFの望遠レンズで周りの人間も自分のように動揺している様子が確認できる。三年前、奥羽山脈エリアがティターニア帝国から奇襲を受けた時、他の隊員を上に撤退させて最後まで山の麓の戦場に残り、上層エリアの反撃の時間稼ぎの為に戦った天宮タイヨウ隊長の勇姿を、確かにあの日見たはずだ。


 「添星さん、貴方も彼の姿を確認できますか? わ、私の見間違えでなければ……」

 

 「はい、街宣車から出てきた人物は、あの天宮氏によく似ています。戦死なさったと聞いておりましたが……三年も過ぎてから現れるなんて……」


 横田と共に任務に就いたハルカは、ビル型大型駐車場の最上階層で自分のDFの肩に腰掛けながらデモの監視をしている。その横に横田が遠隔操作するDFが並び立っていた。ハルカはざわざわとした嫌な予感を胸のうちに秘め、天宮タイヨウと思われる人物を凝視していた。


 「ふーん、これが例の隠し球なのかー。なーんか一悶着起こりそうでヤバそうっすね」


 遠隔操縦室の大型モニターを見ながら軽い口調で口を開いたのは、メカニックの女性、倉嶋だ。そこにいた他のメンバー達は驚きを隠せなかったが、彼女はあまり動揺していなかった。彼女のチームは街の監視カメラにハッキングをかけてデモの周辺を監視していたが、突如としてそこに妙なものが映りこんだ。


 「街宣車前方の交差点左側道路より、高速接近する物体を確認! これは……銃器を武装したDFが一機向かっているぞッ! 肩のエンブレムからこいつは、過激派の郷田組だッ!」

 

 男性オペレーターからの通信が響き、パイロットの二人の緊張が一気に高まる。幹部から現場へ急行するよう命令を受けた二機は、勢い良くビル型駐車場から宙へ飛び立った。ハルカは青白い光球に包まれると、自分のDFの周りに風船のようにふわりと浮き、ぴったりとついてきていた。

 

 「事が起きてからしか動けないってのは、やっぱり腑に落ちないところがありますね……」

 

 「それでもやらなくちゃ。誰かが止めないと。だから……行くよ、《スピカ》!」

 

 ハルカの声に答えるように、確かに彼女のDFは頷き、その眼をキラリと光らせた。

 

 

***



 昼下がり、天宮タイヨウに扮したスバルの演説は観衆の注目を浴びて続く。スバルもここまでは上手くいっていると確信し、なるべく自信を持って演説するように心がけた。

 

 「ニッポン国民の諸君。どうか今日は私の言葉に耳を傾けて欲しい。ティターニアという人類史上最大の大国を目の前にして滅びゆく運命にあるこの国が、これからどのように生き残っていくべきかなのかを! 私はこの美しい国が、人々が、一片も残らず世界の歴史から消えていくことを憂いている! そしてティターニアも! ニッポンも! 互いに意地を張って戦争を続け、美しい地球を汚し、両国民が憎しみを深めあっていることがとても悲しい! 美しかった奥羽山脈は、戦火に焼かれ今や岩山になってしまった。また先日の両国の激しい対立により、多くの人間が淡路島で命を散らした!」


 (不意打ちで島の皆を、父さんや姉さんを殺したのは……お前達だろ、ティターニアッ!!)


 DFはパイロットの移動手段として背部のボックスに入って操縦することもあるが、基本的に基地などから遠隔操作で動かすため、戦死者は圧倒的に攻めこまれた淡路島側が多いだろう。確かに帝国側もミサイル等で轟沈させられた戦艦の乗組員達や、地下シェルターや建物内に攻め込む兵士達が犠牲になった。それでも、宣戦布告もせず突然淡路島に攻め込み、大事な人達を殺したティターニアを、スバルは同情などせずに心の底から恨んでいた。だからこそこんな文章を読まされることで、腹が煮えくり返ってしまいそうだった。それでも今だけは、偽りの表情(かお)で叫び続ける。


 「奥羽の地獄を見てきた私だからこそ伝えたいのだ……もうニッポンは戦争をするべきではない! そして移民たちと分かりあっていかなくてはいけない! それを始めるためには、移民の権利を認めて対等な関係にならなくてはならない! お互い理解しあえれば、きっと将来良い条件で日本はティターニアへ編入――」


 演説を遮るように、突如前方の交差点より悲鳴が上がった。次の瞬間には、前を走っていたトレーラーの側面に大きな穴が空き、右側へ吹き飛んだ。一機の鈍色のDFが銃口を向けてスバルの立つトレーラーの前に立ち塞がった。スバルの前の車はDFの銃器で撃たれたようで、五メートル程吹き飛んだ後、時間をおいて爆発を起こした。

 血を流し、倒れこんだまま動かないデモの参加者達。大通りの一角を悲鳴と狂乱が一帯を包み込んでいった。


 「奥羽の英雄、天宮だな! 貴様、何故そのようなことを言う! 貴様は帝国に国を売るような弱き者ではなかったはずだッ!」

 

 目の前のDFから拡張音声が流れたと思ったら、背中のボックスが開き、声の主らしき精悍な男が姿を現した。


 「三年前は共に戦えなかったが、その前の北海道では共に戦い、日本再建の誓いを立てただろう! 私を覚えてないのか! あの時の大西だぞッ!」


 「ッ……」


 想定外の自体にスバルは混乱し、言葉が詰まってしまった。五秒ほどの沈黙のあと、後ろから砲撃が飛んできて、轟音と共に大西のDFの左腕を吹き飛ばした。とっさに伏せたスバルは後ろに振り向くと、更に二機の赤いDFがこちらへ向かってくるのが見えた。自動姿勢制御が作動し、大西はなんとか自分のDFから落ちずに済んだが、再びDFの背中の格納ボックス内に戻って臨戦態勢をとった。同時に後方から迫るDFの拡声器から怒りに満ちた声が響く。


 「やはり日本人はデモを武力で制圧するつもりだったのだな! ならばこちらも行かせてもらう!」

 

 スバルの背後のDFはおそらく世界共同党が用意していたものであった。前方に一機、後方に二機のDF――戦いに巻き込まれることを察知したのか、スバルの乗っているトレーラーは急発進してスラム街の中へ走りだした。次の瞬間には、スバルの後方で銃撃戦が始まり、建物や車の破壊し、沢山の人間が巻き込まれていった。スバルはトレーラーの上から振り落とされないように姿勢を低くし、この混乱をチャンスに変えようと考えた。


 (このチャンスを活かして逃げるんだ。あいつらに利用されるくらいなら、どこだろうが一人で生きて、一人で死んでやるさ……!)


 誰かの都合に巻き込まれ、翻弄されるだけの人生――そんなもの、もうまっぴらだとスバルは思った。


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