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2-3.流れてきた人

2-3.流れてきた人



 昨日の嵐で流れてきたルイスは、寝る場所に困っていると身振り手振りで伝えてきたので、フーラは迷わずイタチ族が住処にしているほら穴を目指した。


 森の中に入れば、夕べは住処で大人しくしていた動物たちが活発に活動している。


 朝は気持ちよさそうに歌っていた鳥たちは、枝から枝へと追いかけっこをしている。その下でリスたちは木の実を採集している。

 レオニア山から流れてきた川の下流ではシカやアライグマが水浴びをしている。


 それはどこの森の中でもよくある光景だ。


 しかしルイスは少し進むごとにあらゆる方角にカメラを向けてシャッターを押していた。


 何故なら、どこの森にもない光景が広がっていたからだ。

 水浴びをするシカたちに並んで洗い物をする角の生えたシカ獣人やしましまのしっぽが垂れたアライグマ獣人。

 その他にも枝にぶら下がるキツネザル獣人や木に上って果実を取ろうと腕を伸ばしているジャコウネコ獣人など、ありとあらゆるところに獣人たちが自然にそこに生活していた。


 フーラにとってみれば日常である光景を、ルイスは信じられないような目をしてそれらを眺めている。それと同時に、その瞳はきらきらと輝いていて、どこか楽しげだった。

 ルイスがここを気に入ってくれたみたいで、フーラもなんだか楽しくなる。


 そわそわと森の中を眺めるルイスに、フーラがにこにこと笑いながら[うれしい?]と尋ねると、ルイスは少し照れたように笑って[うれしい]と返してくれる。



 そんなやりとりをしているうちに、川の中流付近にあるイタチ族の縄張りに近づく。

 川の中ではミンク獣人やカワウソ獣人たちが川遊びをし、その近くでアナグマがアリの巣を掘っている。

 そのみんなに挨拶をしながらフーラが何気ない様子で大きな荷物を背負うルイスを連れていると、それぞれ夢中になっていた獣人たちはきょとんとした顔でルイスを眺めている。

 それもそのはずで、イタチ族の獣人でもない別種族の人で、天敵かどうかも分からない得体の知れない人なのに、フーラが何の警戒もなく連れているからだ。みんなどう対応してよいか分からず、その場に立ちつくすばかりだった。



「おいフーラ」



 そんな中、声をかけてきたのは川から上がったばかりのルタだった。

 呼ばれてフーラが振り返れば、ルタはルイスを不審な目つきで睨み付ける。

 その視線を受けてルイスは少し面食らっている。


「ルタ、どうしたの、そんなに怖い顔して」


 しかしフーラはどこか気の抜けたような反応を返す。

 その様子にルタはますます眉間にしわを寄せる。


「どうしたじゃねーよ。なんなんだよそいつ。あんまりこの辺じゃ見ない種族だな」


 ルタはそう言いながら、ルイスを上から下までまじまじと観察する。

 ルタがそうやって観察している間に、他の獣人や動物たちが3人の周りに集まってくる。

 ルイスはみんなに見られて、居心地悪そうに体を震わす。


「そりゃそーだよ。だってそいつは大陸から来た人間らしいし」


 と言って割り込んでくるのは、海岸にいたときからフーラにすっかり忘れられていたエンパッサーだ。

 エンパッサーの言葉に、ルタは目を開き驚いた表情をする。周りのみんなも「ええ」と、戸惑いの声を上げる。


 しかし、そんな不穏な空気になってもフーラは一人だけ何故か楽しそうだった。


「そうなのよ、ルタ! この人、大陸から来たんですって! ルイスっていうの。寝る場所に困っているみたいだから、ここに連れてきたの」


 フーラは嬉しそうに少し興奮気味に話すが、その反面ルタはどんどん機嫌の悪い顔をする。それもそのはず、昨日散々言っていたように、ルタは大陸の人間を嫌っているからだ。


「何でそうなるんだよ! 大陸の人間ならそいつは野蛮なんだぞ! 何しでかすか分からないんだぞ!」


 ルタは大声で怒鳴り出す。その声に他の獣人や動物たちはぶるっと体を震わせる。

 さすがにフーラもこの反応にむっとする。


「そんなことないわ! 彼とっても優しいのよ。何もしないわ! それにこれ、見て!」


 と、フーラはルイスの手に持つカメラを指差した。

 何の会話をしているのか、とにかく自分が疎まれていることしか分からないルイスは、突然フーラの指が右手に持つカメラに向けられてきょとんとする。

 フーラはルイスを見上げると、さっきここに来るまでの間に教えられた数々の言葉を駆使して、ルイスにお願いした。


[カメラ、すごい。みんな、みる]


 ルイスは一瞬目をぱちくりとさせたが、すぐに言いたいことを分かってくれたのか、カメラのレンズをルタに向ける。

 いきなり道具を持ち出してきたルイスに、ルタは何をされるかと身構える。カシャッっという音と共に、ルタはルイスを威嚇するように歯ぎしりするが、ルイスは気にした様子はない。

 ルイスは撮れた写真を確認すると、それをルタに向けた。

 再び道具を目の前に出されて少し首を引いたルタは、画面に映った自分の姿に面食らった。訳が分からず、その場で固まってしまっている。


「ほら、みんな、これすごいのよ。ここの面にルタが映ってるの」


 その場で固まったルタをそのままほっといて、フーラはルイスのカメラを指差しながら他のみんなに言う。

 みんなは相変わらず戸惑っていたが、好奇心旺盛なイタチ族の獣人たちは恐る恐るルイスに近寄ってくる。

 その様子にルイスは柔らかく笑って、カメラの画面をみんなに見せる。

 その中に映るルタの姿に、みんなは「ほえぇ~」と呆けた声を上げる。


「これね、自分の見た景色をこの中に切り取るみたいなの。 すごいでしょ? 人間の発明よ!」


 フーラが嬉しそうにみんなに言えば、みんなの目に感心の色が濃くなる。

 ルイスは再びカメラを集まってきた獣人の一人に向けて写真を撮ると、またそれを彼らに見せた。

 撮られたアナグマ獣人の男の子はそれを見てとても嬉しそうにする。

 そうすればミンク獣人の女の子がルイスに飛びついて撮って欲しそうな仕草を見せる。他の獣人たちも、すっかり好奇心が警戒心に勝ったのか、興味津々にルイスを見る。


 言葉は何もないけれど、ルイスはイタチ族の獣人たちとすぐに打ち解けていた。

 その様子を見てフーラも自分のことのように何だか嬉しくなった。



「ふん、俺は認めねーからな」



 しかし、すっかり和んだ空気にそぐわない素っ気ない声が、ぽつりと響く。

 ルタはみんなの様子が気に入らないようで、機嫌を悪くして川の方へ戻っていった。

 そんなルタの様子に獣人たちは目を丸くしたが、すぐにルイス歓迎の空気に戻った。


 フーラもルイスがみんなに歓迎されるのはとても嬉しいことなのだが、仲のいいルタにああいう態度を見せられるとどこか残念な気持ちになる。

 ひとり川に入っていくルタを眺めていたら、エンパッサーが上から飛んできて肩に止まった。


「仕方ないよフーラ。ルタは頑固者だからね」


 果たしてエンパッサーはフーラとルタのどっちの味方をしているのか分からないが、どうやら今はフーラを励ましてくれているみたい。



「フーラ、早くこっち来て何て言ってるか教えてー!」



 少し感慨に浸っていたら、ルイスを囲む獣人たちが嬉しそうにフーラを呼んだ。

 呼ばれてそっちに戻れば、この短い間でルイスはすっかりみんなに気に入られていた。



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