バケモノ、ではない
掲載日:2026/11/01
秋の穏やかな一日。
今日は、村の文化祭だ。
還暦過ぎの純三は、村の文化祭の会場である体育館に入った。
すると、ピンクのバケモノが数人立っているのが見えた。
いやそれはバケモノではなかった。
数ミリは厚いんじゃないかと思える化粧の物体だ。
「あら、純三さんも来たんだ」
こう、純三に話しかけるのは、厚化粧のバケモノだ。
彼は聞いた覚えのある声に、怖かったがバケモノをよく見ると
近所のおばさんだった。
「えっ、ええ」
純三は心の動揺を悟られない様、表情を変えないのに苦労した。
「私、これから創作ダンスを踊るんだ。見ててってよ、ね」
おばさんは、ピンクのカーテンみたいな布で、手作りしたらしきワンピースを
着ている。スパンコールの青いスカーフは、金蠅の羽根のよう。
頭には原色のハチマキを巻いている。
純三は、出番の前にばっちり衣装を着てスタンバイしているバケモノ、いやおばさんに
「は、はい。見させてもらいます」と、応えるのがやっとだった。
ステージにはジャズだかロックだか分からない、激しい音楽が流れる。
照明で怪しさは増す。
幕が開き、怖い顔をしたバケモノが踊り狂う。
純三は、引き気味だったが、真剣に踊るおばさんに、
彼女の普段は見せない、生きるエネルギーを感じるのだった。
村は今年も豊作だ。
読んで頂き感謝です




