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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第一章 『二人の錬金術』
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08.錬金術

 アイシスが店を去り、その気配が消えた頃にミネヴァとネリアの二人はゆっくりと奥の部屋から姿を現す。

 その表情には疑問ともなんとも言い難いものが浮かんでいる。


「何か言いたそうだな」


 シンがそう尋ねると、ミネヴァはうんざりだとでも言うように大きくため息をつく。


「ええ、そうですね。……どれから聞けばいいのかという感じです」

「まぁそうだろうな」

「ただ、一つわかりました。彼女が自らを天才などと名乗っていたのはあなたの仕業ですね?」


 ミネヴァがそう尋ねると、シンはそれを肯定するようににやりと笑う。

 昨日、店を訪ねたときとはまるでアイシスの様子が違っていた。

 もちろん、店で客と接する場合と、親しい相手とで態度が変わることは当然ではあるが、それを考慮しても今日ここに現れたのは別人と言ってもよいぐらいのただの少女だった。

 それが本来の彼女の姿なのだろう。

 違和感自体は昨日からあった。少し話をすればわかるが、彼女は必要以上に自分を大きく見せようとするような性格ではないのだ。自分を天才などとうたうような人間ではないだろう。

 もちろん、理由があればそういうこともあるだろう。ただ、彼女の発想ではないはずだ。


「アイシスはどうしても自分の評価が低くてね。せめて少しでも自信が持てるようにとそうするように言ったんだ」

「……その必要があると?」

「そういうこと。俺とアイシスにも目的があるからな。ただここで店をやっているだけ、ってわけでもないんだ」

「なるほど……理解しました」


 目的はわからない。彼らが何をなそうとしているのか。

 だけど、それに意味があるのであれば自分のような外野がどうこう言うことでもないのは間違いない。


「アイシスのこと、心配してくれたのかな?」

「そういうことになりますね。……一応は」


 ミネヴァの答えにシンは軽く微笑むと一つ頷く。そして、次の質問が来る前にと話を切り出す。


「で、さっきアイシスと話してたことなんだけど、君たち二人にアイシスの仕事を手伝ってもらいたいんだ。素材の採取を」

「ああ、先程話していた。……ブラックドッグでしたか?」

「そうそう。その討伐の話ね」


 奥の部屋で話は聞いていた。盗み聞きをするまでもなく話は筒抜けだったため、おそらくシンがわざと二人に話を聞かせていたのだろうという想像はついていた。


「先程彼女は拒否していましたが、あなたが同行するのではいけないのですか?」

「いけなくは、ないんだけどね。その方が時間の短縮になるし、君たちにとっても都合がいいだろう?」


 その方が効率がいいとアイシスは言った。それはひとえに二人のためだ。ミネヴァの素性を知っているアイシスからすれば、二人には時間の余裕がないことはわかっている。

 それは、もちろんミネヴァの王女としての立場のこともあるが、それだけではなく、ミネヴァの母の命の時間も限られているからだ。

 アイシスの見立てでもまだいくらかの時間は残されているが、その時が近づいてくれば焦燥で心の平静も保てなくなるだろう。

 だからこそ、二人のためにも少しでも時間を短縮しようとしているのだ。


「おそらくは一週間くらいは早くなるんじゃないかな?」


 簡単に見積もって三週間ほどがかかる。

 マーガレットの森にブラックドッグを討伐に行くことに一週間、素材の下準備をするのに一週間、そして、ブラックドッグの素材からスラファトの闇滴を錬金するのに一週間。

 だけど、アイシスが討伐に行き、その間にシンが素材の準備をしていればその一週間が短縮される。

 一週間にすぎない。だけど、アイシスはその短い時間を重要だと考えたのだ。


「素材を採って来ても一週間はかかるのですか?」

「うーん、どうしてもそのぐらいはね。まぁ創るのはアイシスだから、彼女がうまくやれば一日二日くらいは短くなるかもしれないけど」

「そう、ですか……」


 そう答えながらもミネヴァは視線を店内に彷徨わせる。

 だとすれば一つ疑問があるからだ。


「あなたが作るのではないのですか?」


 アイシスの店を訪れたときにそこで並んでいた商品を見たミネヴァはそれを一級品だと判断した。おそらくはアイシスがそれを作ったということで、そうであるならば彼女の腕も一流ということになるだろう。

 だが、ミネヴァの見る限りシンの方が腕は上だ。

 この店には様々な商品が並んでいる。なんでも作れると豪語するように本当に多種多様なものが。

 それは手製のおもちゃのようなものから錬金術で作ったと思われる一級品。

 物を作る者としてシンの方が上位なのだろうと想像がつく。

 それに、先程駆け込んできたアイシスもシンの実力を頼りにしているように見えた。

 であるならば、アイシスに任せずともシンが作ってくれればよいのではないか。


「あー、それはなんと説明したらいいか……」


 シンは先程ミネヴァが巡らしていた後を追うように視線を動かす。

 そして、最終的にその視線はネリアのところで止まる。正確には彼女が背負っている剣のところで。


「ちょっと待ってて」


 シンは一言だけ断ると奥の部屋に行き、そこからすぐに一本の剣を持ってきた。

 そして、その剣を手に取るようにと眼前に差し出す。


「君は相当腕が立ちそうだからね」

「―――っ」


 促されるままに伸ばしたネリアの手が止まる。ぎょっとしたように目を見開きながら。

 隣にいたミネヴァも同じく息を呑む。その剣の持つ威圧感に。

 思い出す。似た感覚をつい最近感じたことを。そして、それに気付く。あのとき祖父に見せられたそれと同じ文字がその剣にも刻まれていることに。


「大丈夫だから」


 安心させるように微笑みながらじっと待つ。彼女がそれを手に取るのを。

 ネリアはちらりと隣に視線を送る。そして、ミネヴァが頷くのを見るとそっとその剣を手に取る。


「これ、は……」


 手にとった瞬間にその剣の価値が変わる。その剣が変わったわけではない。自分の感覚が狂っていたことが理解できただけだ。


「どうしたの? ……だいじょうぶ? リア」

「―――あっ、うん。だいじょうぶ。……だけど」


 呆けていたネリアを心配したミネヴァが声を掛けると、リネアははっとしたように首を横に振る。

 そして、しばらく逡巡した後に、思い切ったように答える。


「これは……がらくた」

「……え?」


 ミネヴァは信じられないとでも言うように目を見開く。これほどの逸品を前にどうしてそのような言葉が出てくるのか意味がわからなかったからだ。

 そして、すぐにシンの方に視線を移す。今のネリアの言葉に気を悪くしているだろうと気付いたからだ。

 だが、その予想に反してシンは笑顔を浮かべていた。そして頷く。それが正解だと言うように。


「……渡しても?」

「ん? ああ、いいよ」


 ネリアはシンに許可を取ると、その剣をミネヴァに渡す。

 ミネヴァもまた恐る恐るというようにその剣を手に取る。

 そして、その瞬間に理解する。ネリアの言ったことが本当に正しいということを。


「重さ、刃、丈夫さ。どれも最低ですね。あらゆるものがちぐはぐです。……これを剣と呼ぶには……」

「これだったら鉄の棒で殴った方が強い」

「ははっ、確かにな。それは言えてる。―――で、俺が創れるのはそういうものなんだ」


 そういうもの。それが何を指しているのかミネヴァにはすぐにはわからなかった。店内に視線を巡らせるとなんとなく理解したようなネリアが目に入る。


「……つまり、偽物?」

「そうとも言う。どちらかというと見た目だけのものって言うべきかな。……俺は、そういうものしか創れないんだ。言うならば虚飾の錬金術士ってとこかな」


 シンには錬金道具が創れない。

 見た目こそ本物そっくり、あるいは本物を超えるものだったとしてもその中身には何もない。何の効果も持たない飾り物。

 何でも創れる。それは嘘ではない。それが見た目だけのものであれば。だけど何の錬金道具も創ることができない。

 そういう意味で言うならば、シンは錬金術士とは呼べないのかもしれない。


「……これほどに凄まじい力を持っているのに」


 ミネヴァは手の中にある剣を見つめる。ネリアの言ったとおりこれはとても剣と呼べるようなものではなくまさにがらくたなのだろう。

 だけど、それと同時にこれには凄まじい力が込められていることも理解できる。そして、それは何の役にも立たない力。


「すごいだけじゃない」

「リア? ……どういう意味?」

「えっと、なんて言ったらいいか、わからないけど。……とてもきれいに並んでる」

「綺麗に? ……どういう意味なのかしら」


 二人の視線がシンに向かう。

 シンはその感覚が正しいというように頷く。


「君にはそれが見えるんだな」

「見える……のかな。わからない」

「それは『シナヴァの眼』って言われてる」

「シナヴァ……?」

「簡単に言っちゃうと錬金術の才能があるってことさ」


 ネリアが言ったきれいという感覚。それはシンからしてもとても正しい。

 この剣には凄まじいと言えるほどの力が込められている。それは単に膨大な力を持っているというだけでなく、様々な種類の力が綺麗に並ぶように最適な形で組み込まれているということなのだ。

 その出来が極めて精緻で美しく、ネリアから見ても完璧と言えるほどなのだ。

 それが、何の効果も持っていなかったとしても。


「わたしに、錬金術の才能があるの?」

「ああ、それもかなりのものだな。鍛えればなかなかのものになるはずだ」

「わたしは騎士」

「だろうな。まぁ才能があっても錬金術が使えるってところまではかなり時間が必要になるだろうから、実際問題としてちょっと難しいだろうけど」


 シンは少しだけ残念そうに肩を竦める。

 半分は本心だ。

 ネリアの才能は間違いない。さすがにアイシスには及ばないだろうが修練を積めば一流と呼ばれる錬金術士になることができるだろう。

 だが、そうはならない。

 彼女の様子から錬金術というものに多少の興味があったとして錬金術士になりたいと言うようには見えなかった。きっと、自分のすべきことを理解しているからだ。

 だから揺らがない。


「まぁそういうことで、明日はアイシスを任せてもいいかな?」


 二人の目からとりあえずは疑問が解決したと見ると、シンは話題を本来の方向へと切り替える。

 ミネヴァとネリアは目を合わせると小さく頷きあう。


「わかりました。その方が私たちにとっても都合が良さそうです」

「ああ、悪いようにはしないよ。……少なくとも俺たちよりは腕が立つだろうしね。アイシスは……まぁとても優秀なんだけどちょっと抜けてるところもあるからよろしく」

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『09.マーガレットの森』09/09 21:00投稿となります

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