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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第一章 『二人の錬金術』
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07.自信

 ミネヴァとネリア、シンが二人を奥の部屋に押し込んだのとちょうど入れ替わるように店の扉が激しい勢いで開かれる。


「シン! シーン! いるー?」

「……いるよ。少しは落ち着け」

「だって……だって!」


 シンが大きくため息をつくと、それにつられるようにアイシスも深呼吸する。


「―――で、どうしたんだ?」


 少し落ち着いたアイシスに静かな声で尋ねる。


「そ、そうなんだよ! 昨日お客さんが来てね。それで困ってるんだよ……」


だが、それもつかの間、思い出したかのように慌てふためくアイシスを見てシンはもう一度深くため息をつく。

 そこでやっと自分の様子に気がついたのか、アイシスは少し恥ずかしそうに口ごもる。


「え、ええとね。昨日頼まれた仕事なんだけど……」

「竜秘玉、か?」


 シンのその言葉にアイシスは目を見開く。

 それでも、すぐにそれがどういうことなのかを理解し、こくこくと頷く。


「そっか、もうここにも来てたんだ。それは……そうだよね」


 考えるまでもなく当然のことだ。竜秘玉は錬金術でしか作れない。そしてアイシスに作れないと言われたならばシンの店に来るしかないのだから。

 そして、あの二人の焦りようから見るに、すぐにここに来たというのは当たり前のことだろう。


「でも……シンにも創れない、よね?」

「まぁな。なにせ素材がないからな」


 一番の問題はどうしてもそこになる。

 ただ、実際には問題はそれだけではない。素材さえあればどうにでもなるのかと言われればそういうわけでもないのだ。


「……もしかしたら、素材はどうにかなるのかもしれない」

「どういう意味だ?」


 アイシスの言葉にシンは目を細める。

 シンの知る限りにおいて成竜の素材を入手する方法はないからだ。


「うん、彼女たちなら、自分で用意できるかもしれない。……もしかしたら、だけど」

「へぇ、そうなのか……」


 シンは奥にいる二人について思考する。

 二人が何者なのかシンは知らないが、シンの見立てでも二人は貴族だろう。それもかなりの高位の。

 いくら身分が高かろうが竜素材は簡単に手に入るようなものではないが、絶対に手に入らないということもない。そういう意味でアイシスの言うようにもしかしたらという可能性はなくもない。


「で、それでどうしたんだ?」


 もしかしたら用意できるかもしれない。というのならそれはそれでいいはずだ。

 であるならばアイシスがここまで慌てて飛び込んできた理由がない。


「だって、本当に持ってこられても……私に竜秘玉なんて創れないよ……」

「……ああ、なるほど、そういう話か」


 それは単純な話。

 邪竜の呪いを打ち消すほどの竜秘玉というものを創るのはとても難しいのだ。

 死者すら蘇らせるとうたわれるそれは、伝説の錬金道具とすら言ってもいいかもしれない。

 それほどのものは並どころか一流の錬金術士ですら創れる保証はない。

 それはアイシスにとっても同じだ。仮に彼女たちが錬金素材を用意できたとして、竜秘玉を創り上げる自信がまだ彼女にはないのだ。


「じゃあ、諦めるか?」

「……」


 しばしの無言。

 そして、アイシスはゆっくりと首を横に振る。


「―――お母さんを、助けたいって言ってた」

「そっか。ああ、ならできるだけのことをやってみよう。……俺も、全力で手伝うから」

「……ありがとう」


 その言葉にアイシスは安堵の息を漏らす。

 そして、やっと落ち着いたように小さく笑顔を浮かべる。


「……で、結局どうするか、なんだけど」

「うん。……何か方法あるの?」


 その問いにシンはなんとも言えない表情を浮かべる。

 直接的にそれを解決する方法はシンにもない。だけど、今できることは一つ頭に浮かんでいる。


「ブラックドッグ、を使おうと思う」

「ブラックドッグ?」


 その提案にアイシスは首を傾げる。それが何を意味するのかすぐにはわからなかったからだ。

 しばらく考えてぽつりと漏らす。


「……スラファトの闇滴?」

「そう」


 その答えに満足したようにシンは頷く。

 だけど、アイシスは少し腑に落ちないというように眉を顰める。確かにブラックドッグの素材を使えばスラファトの闇滴を創ることはできるが、それの効果を鑑みてこの状況を解決できるとは思えなかったからだ。

 シンが何を言いたいのかはわかる。でも、おそらくそれでは力不足ではないかと。


「言ったろ? 全力で手伝うって」

「え? う、うん。でも―――あっ。そっか……」


 言われて思い出す。自分だけではできないが、シンの助力があれば可能だと。

 通常のそれではなく、極めて高品質なスラファトの闇滴であるならば。


「ってことで、明日にでもマーガレットの森に入ろう」

「うん、それはいいんだけど……」

「ん? 何か問題ある?」


 アイシスは首を横に振る。

 明日にでも、というのを否定するつもりはない。早ければ早い方がいいとアイシスも思っているからだ。

 でも、だからこそ二人で行くことには賛成できない。


「シンには素材を用意しておいてほしいの。……他にも必要になるでしょ?」

「それは、まぁ、そうだけどさ」


 効率を考えるならばそのアイシスの考えは正しい。

 これから二人でブラックドッグを狩りに行くのならば、そこから帰った後にいろいろと準備をしなければならない。

 だから、役割分担をしたほうがいいというのは当然のことだとも言える。

 それはわかる。だが、とシンは渋い表情を浮かべる。


「……実はちょっと前に聞いたんだけどさ、今サナノスがいないらしいんだ」

「サナノスさんが?」

「仕事を受けて遠出しているらしい。だから……」


 サナノスとは二人が素材を採取するときによく頼る冒険者である。

 この街でも特に優秀な冒険者であり、経験も豊富で熟練の冒険者として多くの者たちからも頼りにされている。強さという意味においては並み外れたものを持っているというわけではないが、猟師の家の出ということもあり、戦うことだけでなく幅広い知識を持っている。

 強いというよりも、冒険がうまいのだ。

 そういった部分は二人にとっても非常に頼りになる。二人のことをよく知っているサナノスは二人に合わせるのもうまく、あまり意思表示のうまくない二人の意を汲んで柔軟に対応してくれる。

 なによりも、錬金術士というものを理解してくれているのが大きい。

 新しく冒険者を雇うとなると、そこから説明しないといけないのだから。

 その見知らぬ冒険者にアイシスのことを任せるというのは少しばかり不安がある。そこまで融通の効くものかどうか見極めも難しい。心配だからできれば自分もついていきたいというのがシンの思うところだ。


「いや、待てよ……」


 そこでシンの頭に一つの考えがよぎる。


「ちょっと心当たりがある。もしかしたら、って程度だけど」

「そう、なの?」

「ああ。それでだめだったら俺も行くよ。確かに別々の方が効率はいいかもしれないけど、さすがにアイシス一人に任せるのは心配だから」

「……うん。ありがとう」


 さすがにサナノスがいないというのは不安だったのか、アイシスは安心したように息をつく。おそらく一人でやってできないことはないだろうが、それでも一人というのは少し自信がなかった。

 もちろん、シンと二人でというのがアイシスにとっても望ましいことではあるが、今は優先すべきことがある。


「わかった。……じゃあ、明日、またここに来るよ」

「ああ。そういうことでよろしく」


 アイシスは軽く笑顔を浮かべて頷くと、来たときとは裏腹に落ち着いた様子で静かに帰っていった。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『08.錬金術』09/08 21:00投稿となります

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