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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第五章 『虚飾の錬金術士』
57/71

57.謁見

「久しいな、王女よ」


 リオヴァルガ帝国、その帝都にある王城、その玉座から見下ろすのは皇帝ジブナート・テム・ラ・ハルス。

 声をかけられたミネヴァはゆっくりと顔を上げる。


「ご無沙汰しております、陛下。以前にお会いしてからもう三年になるでしょうか」

「ふっ、三年か。月日の流れは早いものだな。……それで?」


 にこやかな声が一転、冷たいものに変わる。

 その威圧するような声に周囲に控えるものたちにも緊張が奔る。だが、それを向けられるミネヴァは顔色一つ変えることなく平然と皇帝に向き合っていた。

 要件自体は当然すでに伝えている。それを前提としてこのような謁見の場を設けられているのだから。


「先に申し上げたとおり、この国から我が国に放たれた暗殺者についてです」


 それは先日のミネヴァによる尋問によって得られた情報だ。トーラス王国の貴族であるシン、彼に向けて放たれた刺客はこの国の手のものだった。

 それについての責任のありかについて話し合いの場を要求したのだ。


「ふむ、それを差し向けたのが我だと?」

「そうは申しておりません。ですが、少なくともこの国の上層部が関わっているのは間違いないかと」


 皇帝が鋭い目で睨みつけるも、ミネヴァからはすぐにそう返ってくる。

 おそらくは確信に近い情報を得ているのだろうことはわかる。そうでなければここまで強気に出ることはないはずだ。

 それ自体は理解できる。ここに至る流れもおおよそ予想どおりだ。

 だけど、一つだけ気になることがある。

 この場には国の重臣や近衛など、数十人もの精鋭が集められている。その理由はミネヴァの隣にある。

 あらかじめミネヴァから申し出は受けてある。護衛として一人供をさせると。

 それはいい。第三王女であるミネヴァはこの国においてもそれなりに有名であり、同時にその右腕である聖騎士ネリア・マル・アルエスもまた名を知られている。だから、彼女を護衛として置くのは誰にでも推測できたことだ。

 だが、今ミネヴァの隣にネリアはいない。

 そこにいるのは一人の男。それが何を意味しているのか、何者なのか、誰にもわからなかったのだ。

 その場にいる全員がその男を警戒していた。


「貴様の右腕はどうした?」

「彼女は私の半身。ゆえに彼女にしかできないことを任せております」

「その男が代わりになると?」

「……どうでしょう? そうであればよいと思いますが」


 探るようなやり取りにしびれを切らしたのか、一人の貴族の男が声を上げる。


「―――それは何者だ? 得体の知れぬ男を連れてきているのだからそれくらい説明すべきでは?」


 そのあまりにも直截で不躾な物言いに皇帝は僅かに眉を顰めた。誰にも気付かれない程度に。

 それはあまりに理不尽な言い分ではある。ミネヴァはあらかじめ言っていたのだから。一人護衛を伴に置くと。何もおかしなことをしたわけではない。だからこれは言いがかりにすぎない。そして、この場においてはあまり芳しくない物言いであること。

 それが、焦りから来ていること。

 だが、それを見抜いたミネヴァは口角を上げる。そして、隣の男にちらりと視線を送る。

 男はそれに好きにしろとでも言うように小さく鼻を鳴らす。


「彼には私が直接請い来ていただきました。こちらは私の婚約者候補でもあります」

「婚約者、候補?」


 予想外の言葉に問いかけた貴族は鼻白む。だがすぐに切り替えると責めるように声を荒げる。


「候補などと他人にすぎないだろう。婚約者であるならともかく、そんな者はこの場にふさわしくない」


 それ自体に問題があるわけではない。一人護衛を連れてくると了承を得ているのだからそれが誰だろうと構わないはずだ。身分が問われるはずもない。これはただ、ミネヴァに対して難癖をつけているだけにすぎない。

 だけどそれに大した効果はない。その程度は織り込み済みなのだから。

 ミネヴァはすぐさまそれに対して反論しようとする。

 が、それは隣の男に遮られる。


「―――婚約者で構わない」

「……え?」


 ミネヴァにだけ聞こえるようにぽつりと呟かれた声にミネヴァは驚愕のあまり絶句してしまう。

 ミネヴァがその瞳を覗き込むと、その男、ティールはからかうようににやりと笑う。ただ、その言葉は本心だとも理解できた。

 本当にそれでいいのかと確認するように目で尋ねると、男は小さく頷く。

 そのミネヴァの動揺を勘違いしたのか、貴族の男は勝ち誇ったように嗤う。

 ミネヴァは一つ咳払いすると、その貴族の男に告げる。


「失礼、訂正します。彼は私の婚約者です。婚約者であればよろしいのですよね?」

「……は? なんだと? ふざけるな。今言っていたではないか、候補にすぎないと。嘘をついたとでも言うのか?」

「いいえ、候補でした。先程までは。ですが今、正式な婚約者となりました」

「そ、そんなことが認められるわけないだろう!」


 ミネヴァは大げさにため息をつく。呆れたように。心中でほくそ笑みながら。


「陛下、この国の貴族はいつからそのような権利を持っているのでしょうか? 他国の王族である私の婚姻を認める認めないなどと」


 その言葉に貴族の男ははっとしたように目を見開くと、苛立たしげに歯噛みする。

 ただ、反論はできない。

 皇帝は冷たい目で男を一瞥だけするとミネヴァに尋ねる。


「説明はしてくれるのだろうな?」

「簡単なことです。彼が婚約者候補だったのは彼の了承が得られていなかっただけのこと。ですから、彼の了承によって自然とそれが成立することになっただけです。ゆえに今、彼は私の婚約者となりました」


 そこに嘘はない。

 婚約者となる話はほとんど決まっていたと言ってよい。それはティールの承諾以外の全てが整っており、成立はただティールの意思だけに委ねられていた。

 ティールの了承だけが残された条件であり、了承さえすればその瞬間に成立するのだ。


「ふむ、理解した。……それでよいな」

「……は、はい」


 皇帝が睨みつけると、男はおろおろと頷く。


「その暗殺者とやらを捕えたとのことだが、そやつらが我が国の人間だという確証はあるのか?」

「もちろんです、陛下。ここに来るまでに彼らの故郷で家族との面会を済ませてきましたから」

「……なんだと。なるほど、だからか。おかしな道程を通ってきたのはそのためか」


 それは皇帝含め、多くの者が疑問に思っていた。

 なぜかミネヴァたちは真っ直ぐここ帝都に向かっていないのだ。わざわざ遠回りするようにぐるりと南方を進んでここに来た。距離で考えるならば倍程度ではすまないだろう。

 その理由が彼らを家族に会わせるためだ。

 ミネヴァたちは家族に会わせて事の次第を説明した。それによって彼らはただの犯罪者から国の命令に従わざるをえなかった被害者へと変わったのだ。少なくとも、彼らの家族にとってはそれが真実となった。

 もちろん、そうなるようにミネヴァが仕向けたという部分は大きいが。

 そして、それは家族だけでなく、その周辺に暮らす者たちにも大いに喧伝された。

 それによって、国は彼らを簡単に切り捨てることができなくなった。彼らを見捨てることは国への反感を高めることに直結するからだ。そんなことをすれば国への不信が高まる。

 特に、帝都から離れた地域にとってそれはあまりよろしくない事態に繋がりかねない。


「陛下に一つお尋ねしますが、陛下はこの件についてご存知でしたか?」

「いや、知らぬよ」


 陛下が命じたのですか、とはミネヴァは聞かなかった。

 おそらくそれはないと思っていたからだ。

 もしも、皇帝が直接に指揮をとっていたのであればこのような甘い攻撃は仕掛けないだろう。もっと確実は方法をいくらでも用意することができたはずだ。

 あるいは、詳細についてほとんど知らないのではないかと思っていた。


「大変に無礼なことですが、陛下に一つ苦言を呈させていただきます」

「……なんだと」

「この国はとても大きな国です。広く、豊かで、そして強い。この世界において最も優れた国なのでしょう。……ですが、少し大きくなりすぎています。陛下の目が届かないほどに」


 皇帝は目を細める。

 そこには思うところがあった。

 実際に貴族の勝手を見過ごさざるを得ない事態が増えてきているのも事実だ。知らないところで事が進んでいることも少なくない。

 おそらく、今も知らないことがあるはずだ。

 それは皇帝が無能というわけではない。ミネヴァが言ったように、この国はあまりにも大きくなりすぎたのだ。一人の人間がそれを管理することは不可能だと言っていい。

 それについて皇帝自らが全てを把握することはできない。だから、そこをうまく補うための制度を作る必要がある。だけど今まだそれは十分になされていない。


「ですので提案いたします。私どもで彼らに命を下した犯人を見つけ出したいと思います。陛下の手を煩わせることのないように」

「ふん、抜かせ。そのようなことを認めるわけがないだろう」


 皇帝は即座に却下する。

 それもまた当たり前のことだ。それを認めれば他国の王族であるミネヴァに国内において好き勝手振る舞われることになる。犯人探しを口実に。

 そして、トーラスのやり方で裁かれることになる。

 そんなことを許すことはできない。


「そやつらはこちらで見つけ、こちらで裁く。当然のことだ。貴様らの介入など認めぬよ」

「おっしゃるとおりです。……では、その話はそちらに全てお任せしますので、こちらは賠償金を受け取るということでいかがでしょうか?」


 皇帝は一つ首を振り合図を送る。

 それに合わせて一人の男が姿を現す。彼が抱える袋の中には今ミネヴァが言った賠償金が詰められていた。

 ここまでの流れは皇帝にとっても想定どおりだった。

 ミネヴァが無理な要求をしてくるとは思っていなかったし、おそらくは金を請求することもわかっていた。

 これ以上の話を突き詰めても面倒事が増えるだけだ。金で済むならそれでいい。

 ミネヴァはそれを受け取ると中身を検め、そして満足そうに笑う。

 そして、笑顔で告げる。


「―――足りませんね。この三倍お願いします」

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『58.価値』10/28 21:00投稿となります

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