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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第四章 『反攻の討竜戦』
52/71

52.勝利

 自分がやる、その言葉を聞いてティールはネリアの瞳を覗き込む。

 ティールから見てもネリアは強い。その実力には間違いはない。だけど、それだけではまだ足りない。

 それ自体はいい。ティールが疑念を持ったのはそこではない。問題はネリアがどういうつもりでそう言ったのかだ。死を覚悟しての自己犠牲の心や、あるいは自棄になっているのだとしたらそれは止めなければならない。

 だけど、ネリアの瞳にその色はなかった。

 ちらり、とアイシスの方を窺う。

 ティールの意図を理解したのか、アイシスははっきりと頷く。


「そうか、アイシスがそう言うのであれば信じよう。だが、力不足は理解しているか?」


 ネリアにそう尋ねると自信を持った表情で頷く。

 それを見てティールは小さく笑う。ティールからすればそれがあからさまな強がりだというのは一目瞭然だった。ただ、不思議にも思った。全く勝算がないようにも見えなかったからだ。


「わたしにも切り札くらいある」

「そうか、ならば任せよう。かく乱は俺がやる」


 ティールはアイシスに視線で合図を送ると、剣を構えて竜へ飛び込む。

 ネリアはあっさりとそう言われたことに一瞬ぽかんとした表情を浮かべるも、すぐに準備に取り掛かる。

 実力の差はわかっている。剣の腕で比べたならば今のネリアではティールに全く歯が立たないだろう。

 だけど、何もできないわけではない。ネリアにはネリアの力がある。

 それは聖騎士としての聖なる力だけではない。

 もう一つの力、錬金術の力だ。

 以前にシンに言われた錬金術の才能、それがあることはネリアも自覚している。あれ以来、ネリアは錬金術について学習を続けていた。そこで得た知識から、自分はかなり高い才を有していることも理解できた。

 シンの言うとおり、修練を積めば、錬金術により様々なものを創り出すことができるだろうことも正しいのだろう。そしてそれは、つまり長い期間そのための訓練を積まなければならないことも意味する。

 ネリアにはその時間はなかった。やるべきことがある。聖騎士として、そして護衛としてミネヴァの傍で戦わなければならない。

 だから、ネリアはそれを諦めた。

 ただ、錬金術の全てを諦めたわけではない。できることもあった。

 ネリアがやったことは主に三つ。

 錬金術について知識を得ること。シナヴァの眼を鍛えること。そして、錬金道具をうまく使えるようになることだ。片手間ではあったが、それでもそれなりにその有用性を実感することができた。

 ネリアは自身の胸元にそっと手を当てると体内に意識を集中する。

 ここに集められた聖騎士、それが少数であることにはもう一つ理由があった。それはアイシスに提供された錬金道具の数がそれだけだったからだ。

 アイシスが創ったのは身体能力を引き上げる錬金道具、その試作品だった。以前に創ったものから副作用を限りなく薄め、それでいて効果をそのままに。それが理想ではあったが、残念ながら出来上がったのは多少効果が落ちてしまう試作品だ。

 それでも実用に耐えうるだけの性能は持っているし、副作用もなく子供でも扱えるものとなっている。

 ここにいる聖騎士はそれを使っている。もちろん、ネリアも。

 だからこそ多少なりティールや竜の動きについていくことができているのだ。

 誰にでも使うことができる錬金道具、だけど、聖騎士たちの中で唯一ネリアだけがそれ以上を引き出すことができる。

 シンやアイシスほどにはうまくやれないだろう。それでも、ほんの僅かな時間であれば今のネリアにも可能なのだ。


「……限界解放。大翼よ羽ばたき世界を駆けろ―――アルテアの神酒」


 体の中を巡る力が解き放たれる。

 錬金道具の性能を限界まで引き出す力。錬金術の奥義とも言うべきその業をネリアは修得すべくネリアは鍛錬を重ねていた。この戦いのための切り札として。

 アイシスは納得したように頷く。以前にそれの使い方についてはネリアに教えていた。もちろん、教えただけで簡単に使えるような力でもない。だけど、ネリアであればきっと使いこなせるはずだと思っていた。

 ティールは背後にあったネリアの気配が爆発的に高まることを感じると、手に持つ剣に力を込める。


「アイシス! 合わせろ」


 そう一言だけ発すると、竜の足元に潜り込む。これまでよりもさらに大胆に、そして危険に。

 それに合わせて竜の爪が振り下ろされる。これまでと同じように。

 それは直撃するはずだった。

 だけどそれはティールによる誘導だった。竜はもはや本能だけで動いている。そしてその仕組みをティールはすでに見抜いている。だから動きを誘うことも可能なのだ。

 それだけではない。本能による竜の行動はある意味では正確だ。だからこそそのティールの誘いに乗ってこそなお必殺の一撃だった。

 それをティールは前に進みながら僅かに身を捩るだけで躱す。ほんの少し生まれた隙間、それは爪一つ分にすぎない。

 ティールが斬り落とした爪一つ分。その隙間に本能だけで動く竜は気付かない。


「おおぉぉおおお!」


 そこに潜り込んだティール。気合とともに放たれた一閃、それは竜の胸を大きく斬り裂く。

 もはや意識も感覚もあるはずもない竜が、まるで痛みに苦しむかのようによろよろと後退る。

 次の瞬間、竜の足を影が呑み込む。たいした効果はない。その程度の足止めはほんの一瞬。だけどティールにとっては大きな隙だった。

 ティールは跳び上がり宙を舞うとくるりと回転しながら剣を持ち直し、その首の断面に突き刺す。


「―――聖光剣」


 下と上、その同時の攻撃の中、ネリアは正面から竜の懐に飛び込む。


「いい加減に……終われぇぇえええええ!」


 全ての力を込めた一閃。

 珍しくネリアの口から漏れた吼えるような激しい声、その言葉どおり、ネリアの剣は戦いを終わらせる。

 鋭敏になったネリアの感覚は、その剣が竜の核を断ち切る音をはっきりと聞いた。

 力を失った竜は、まるで壊れた人形のようにぐしゃりとその場に崩れ落ちた。

 ネリアにも今度は油断はない。

 しばらくじっと竜の姿を注意深く観察する。

 集中していたネリアにはそれがどれだけの時間かはわからなかった。ふと背後から音が聞こえたことで大きく息をついて緊張を解く。

 背後から駆け寄ってきたのはミネヴァだった。

 その姿を目に留めると、ネリアは僅かに顔をしかめる。確かにもはや竜に動く気配はないし、自身も戦いは終わったと感じて入るが、それでも完全に危険がなくなったと断言はできないのだ。

 まだここから何かが起こる可能性がないとはいえない。

 その咎めるような視線を受けてミネヴァは苦笑する。ネリアの気持ちはわかるが、心配していたのはミネヴァだって同じなのだから。

 本当は気が気でなかった。大切な彼女を死地に置きながら自分は安全な後方に隠れている。それにずっと罪悪感を覚えていた。立場だってあるし、能力だって足りない。それはわかっている。自分にできる最善なのだと。だけどわかっていてもそれだけで割り切れるものではなかった。

 そして、それは彼についても同じだ。


「この場に来ていただけたこと、心より感謝申し上げます」

「ああ。まぁ個人的な事情もあったからな」


 ティールはそう言いながらちらりとアイシスに視線を向ける。

 それを見てミネヴァも小さく笑みを浮かべる。

 その視線を受けて、アイシスは不思議そうに首を傾げる。戦闘中だということもあって追求することはしなかったが、そもそもどうしてここに兄がいるのかもわからないのだ。

 それに、二人のやり取りにも違和感がある。


「……もしかして、二人はお知り合いだったのですか?」


 尋ねられたティールは少しだけ気まずそうに視線を逸らす。

 兄のそんな仕草は見たことがなかったのでアイシスはその反応の意味がわからなかった。ただ、それが肯定だということはわかった。

 ティールに変わりミネヴァがその問いに答える。


「実は、この方は私の婚約者候補ということになっているのです。……アイシスさんには伝えておくべきだったかもしれませんね。申し訳ありません」

「あ、いいえ。それは……私が口を挟むことではないと思いますから」


 驚いたアイシスは再び兄に視線を送るも、ティールは視線は逸らしたままだった。

 ミネヴァはそんな二人の仕草に小さく頷く。

 そして、倒れ伏したままの竜に目をやる。竜に何の反応もないことを確認すると、後ろを振り返る。


「戦いは終わりました! ―――我々の勝利です」


 そう終わりを告げた。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『53.死』10/23 21:00投稿となります

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