表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第四章 『反攻の討竜戦』
50/71

50.再戦

 その光景に誰もが目を疑う。

 目の前の出来事を信じられるものはいなかった。


「―――魔道士、撃て!」


 誰よりも早く我に返ったのはミネヴァだった。

 何が起こったのか、それをいち早く理解したミネヴァはすぐさま号令を発した。

 その意図を飲み込めたわけではない。それでもここに集められたのは精鋭の部隊、すぐさまミネヴァの言葉に従い竜に向けて魔法を放つ。

 今までと同じように。

 だが、結果は違う。これまでは一発たりとも竜に当たることはなかった。その全てが竜鱗の魔法障壁によって弾かれてしまっていたのだ。それが、今回はその全てが当たったのだ。一発も阻まれることはなかった。

 それはつまり、竜鱗が消失したことを意味する。


「……当たった?」


 それは誰ともない呟き。

 意図もなく口から漏れてしまっただけの言葉。

 ざわめきが広まっていき、やがてその現実に理解が追いつく。それで竜にたいした傷がついたわけでもない。その衝撃に身動ぎ程度に体を揺らしたにすぎない。

 だけど、これまでとは確実に違う現実。

 その歓声を遠くに聞きながら、シンはふらりと体を揺らめかせる。


「―――だいじょうぶ?」


 そのシンの体をアイシスはそっと支える。


「だいじょうぶさ。知ってるだろ? いつもと変わらない。心配はいらない」

「それは、そうだけど……。心配はするよ……」


 シンの言いたいことはわかる。いつもこうなる。そして、それで何かが起こったことはない。これまでも大丈夫だった。

 それでもアイシスは心配そうに顔を歪める。


「いまのは、なに? あれも……錬金術なの?」


 呆然とするようにネリアはアイシスに尋ねる。

 それはネリアの理解の及ばない力だった。錬金術かと尋ねたことにもなんの根拠もない。ただ、シンがやったということはきっと錬金術なのだろうと思っただけだ。

 その疑問にアイシスは困ったようにほんの僅かに苦笑する。


「そう、なんだと思います。……おそらく」

「おそらく?」

「私にもわからないのです。これは、シンだけが使える力だから」


 それが何なのか、その理解についてはアイシスもネリアと大差ない。

 これまでに何度かそれを目にしたことはあるものの、シンが何をやっているのかいまだに理解することはできていない。

 だからこそ心配なのだ。

 シンが言うには魔力が空になってしまっているだけらしい。実際、こうなってもしばらくすれば回復していたし、間違ってはいないのだろうとアイシスも思う。

 だけど、本当にそれだけなのかはわからないのだ。どれだけシンの体に負担が掛かっているのか、他にどんな代償があるのか想像もつかない。

 そしてシン自身もその力を完全に把握しているわけではない。どういう理論なのか、なんとなく想像はできるものの、わからない部分も少なくない。

 だからアイシスを心配させないようにと、なるべくこの力は使わないようにしている。


「―――ネリア」

「隊長」


 そうしているうちにネリアのもとに駆け寄ってきたのは数名の騎士だ。

 彼らは聖騎士隊の中でも選りすぐりの精鋭たちだ。隊長であるタムンを筆頭にいずれもネリアに勝るとも劣らないだけの剣の腕を持っている。

 特にタムンは、トーラス最強の戦士とうたわれるネリアと並び、最高の騎士と称えられるほどの腕前を持つ。剣の腕に限れば間違いなくネリアよりも上だと認められている。


「やっとあの日の雪辱を果たすことができそうだ」


 ここにいる聖騎士たち、そして後方から援護する魔道士たち、いずれもどちらもこの場に立つことが許されているのは実力のある精鋭だけだ。それは半端な実力の者たちでは足手まといにしかならないと判断されたからだ。

 そして、それだけの実力を持った精鋭だということは、その大半は前回の戦いにも参加していたものたちということになる。

 ネリアもそうであるし、隊長のタムンもそうである。

 そして、それは何もできなかった者たちということでもある。

 一人アスナに全てを押し付けて自分たちは何の力になることもできなかった。その屈辱が今も心から離れないのだ。

 その屈辱を晴らす機会が今ここにある。

 以前は竜鱗に阻まれて剣が通ることはなかった。だけど今は違う。その竜を護る物理障壁は消え去っているのだ。残されたのは堅い鱗だけ。それならばきっと斬り裂くことができるはずだ。そして、斬り裂かなければならないものだ。


「―――行くぞ」


 機を窺っていた聖騎士たちは、タムンの号令に従い竜に向かって駆け出す。ネリアもまたその後ろに続く。

 降り注ぐ魔法の雨に紛れて接近したタムンは開戦を告げるようにその剣を力の限り振り下ろす。


「うおぉぉおおおおおお!」


 その腕に凄まじい衝撃。

 その感触からは異常なほどの竜の硬さ、そして、生物としての格を感じることができた。そして、僅かではあるが、皮膚を斬り裂く感触も。

 竜は聖騎士たちを敵と認識したのか、即座に反撃へと移る。

 竜が振り回す鋭い爪。重く速いそれはかすめただけで命を奪われてしまうほどに凶悪だった。それだけは受け止めることもできない。

 だが必死で間合いから離れたとて安心することはできない。爪の間合いはそれほど広くはないものの、竜の速度自体が異常なのだ。巨体に見合わない身軽さで一気に近付いてくる。

 それに、攻撃は上だけではない。爪の届かない距離であっても振り回される強靭な尾は長い間合いで地を這い飛んでくるのだ。爪のような鋭さこそないものの、それもまたまともに受けてしまえば致命傷は免れ得ない。

 そして、さらに離れた場所まで逃げたならば強力な炎が放たれることになる。

 どこにいても安全な場所はない。ほんの少しでも選択を誤ってしまえばそれだけで命が失われてしまうのだ。

 もしも援護のための魔法が放たれていなければまともに戦闘をすることすらできないだろう。

 そして、誰もが当然のように気付いていた。このままでは勝てないと。これでは殺しきることはできない。

 少しの傷を与えるためだけに神経をすり減らし体力を消耗させる。その繰り返しではすぐに限界が訪れる。


「……切り札を使う」


 隊長であるタムンは苦渋の決断を下す。

 すぐさま前を部下に任せて退くと、後方に合図を送る。するとこれまで絶えることなく降り注いでいた魔法がぴたりと止む。

 それは総攻撃を仕掛けるためだ。

 それまでの時間稼ぎを部下たちに託すと、懐に手を入れこぶし大の球を取り出す。正式な名称は知らない。ただ、それも国宝の一つであり、極めて強力な聖なる力を発することができるとのことだ。

 その光の球に力を注ぎ込む。

 その間、聖騎士たちは何の援護もなく竜の前に立ちふさがる。あくまでかく乱でしかないため、攻撃よりも守りを重視した立ち回りではあるが、それでも安全とは程遠い死と紙一重の攻防だ。

 限界はすぐに訪れた。爪で引き裂かれる者こそいなかったものの、一人二人と、その尾に吹き飛ばされる。

 タムンは僅かに目を細める。確かに致命傷ではない。死ぬほどではないはずだ。だけどその衝撃は戦闘不能になるに不足ないものだったように見えた。おそらくは動くことはできないほどの。

 にもかかわらず、倒れた聖騎士たちが立ち上がっているのだ。足をよろめかせながらではあるが、それでもしっかりと両の足で立っている。

 タムンにはわからない。理屈に合わない。誰かが何かをしているのかもしれないとは思ったが、それだけだ。

 やがて準備が整ったタムンは後方に合図を送る。それに合わせて後方から魔法が放たれる。これまでとは違い、援護のためではなく攻撃のための一点集中の魔法だ。

 それが胸元に直撃すると、竜はその衝撃に体をよろめかせる。

 その隙にタムンは竜の足元に潜り込むと、光の球を下から軽く放り投げる。そして、全ての力を込めてその球に剣を叩きつける。

 その球は溜め込んだ聖なる力を解き放つと同時に、今直撃した魔法に込められていた魔力を巻き込んで爆発を起こす。

 至近距離からその奔流に飲み込まれた竜の体は聖なる力に侵されて一時的に弱体化したはずだ。


「―――今だ!」


 タムンの言葉と同時、一人身を隠し機を窺っていたネリアはその瞬間に飛び上がる。下に気を取られている竜を上から襲うためだ。

 だがその気配に気付いたのか、あるいは本能的なところから来る勘のようなものか、竜の眼はネリアの動きを捉えていた。

 その反応のあまりの速さにネリアは顔を歪める。どうするべきか一瞬迷う。千載一遇の機会であるのはわかっている。だけどこのままでは届かない。返り討ちに合う可能性の方が高いはずだ。


「そのまま突っ込め!」


 声が聞こえた。

 その意図はわからない。だけどその声に従う。ネリアにはわからないがシンが言うならそれでいいのだろう。

 その声に呼応するように握りしめた剣に何かが反応する。それはわかった。きっとアイシスが何かをしたのだ。

 竜と目が合う。

 ネリアは剣を盾にするようにそのまま竜の口から放たれた炎の中に突入する。

 熱と痛みに身構える。

 だけど、それが襲いかかってくることはなかった。ネリアの体に届いてはいなかったのだ。

 何かが炎を阻んでいた。

 ネリアは驚愕に目を見開く。これは剣の力だ。確かにミネヴァからも聞いていた。この剣は持ち主を護る力を持つと。だけどネリアはそこに期待はしていなかった。もちろんその言葉を疑っていたわけではないが、あくまで気休め程度のものだと考えていたのだ。ほんの少し、自分の生き延びる力を助けてくれる程度だと。


「これは……竜鱗?」


 そのものではないはずだ。だけど、ネリアにはわかる。これは竜鱗とほとんど同じものだ。シンとアイシス、どちらによるものか、あるいは両方の力を合わせたのか、ネリアにとってこれは想像を絶するものだった。

 一度とはいえ、古竜の闇の炎を完璧に防いでみせたのだ。

 その炎の先、ネリアには竜ですら驚いているように見えた。


「―――はぁぁぁあああああああ!」


 ネリアはその勢いのままに竜の首に全霊の一撃を叩き込んだ。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『51.援軍』10/21 21:00投稿となります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ