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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第四章 『反攻の討竜戦』
49/71

49.開放

「……私は、後方へ退がります」


 ミネヴァは静かにそう告げる。

 自分がこの場にいてもさほど役に立たないだろうことはわかっているし、そうであるならば後方で魔道士たちの指揮を執った方が助けになると考えたからだ。

 今は目眩ましのために魔法を放っているにすぎないが、ミネヴァがその場にいれば、もう少し効率的にシンたちに合わせることもできるはずだ。多少の援護にはなるだろう。

 三人が頷くのを見届けると、竜に気付かれないようにと気配を消して駆け出した。

 その後姿を見送りながら、シンは器用だなと感心していた。

 そして、シンはこっそりと竜の姿を見上げる。


「……これが、竜か……」


 その声音に不思議な感情が含まれていることを察し、ネリアは僅かに目を細める。

 それはおそらく疑問。

 幸いにも、というべきか、おそらく恐怖という感情はなさそうだった。だけど、何に対して疑問を抱いているのかわからなかった。


「なにかおかしい?」


 率直に尋ねる。

 何かしら不足の事態が起こっているのであればまずそれを解決させなければならないからだ。

 だけど、シンは小さく笑う。

 たいした意味はなかったのだが、深刻に捉えられてしまったことを少し恥ずかしく思ったからだ。


「思ったより綺麗だったから驚いただけさ」


 もちろんそれだけではない。

 シンは竜という存在を知っていたし、それがどのような姿をしているのかも情報としては知っていた。だけどそれを実際に目で見たことはなかった。だからこうして目の当たりにしてその存在感に驚いていたというのも事実だ。

 だけど、一番驚いていたのはそれがあまりにも普通だったことだ。ドラゴンゾンビというものだと聞いていたため、もっと肉体の腐敗が進んでいるものだと思っていたのだ。おどろおどろしい姿をその脳裏に描いていた。にもかかわらずこの竜はまるで生きているかのように綺麗なままだ。

 それはシンの想像するドラゴンそのままだった。

 胸元に奔る深い切り裂き傷がなければ生きている竜と見分けはつかないだろう。


「それが、古竜というもの」

「そう、なんだろうな」


 それくらい古竜というのは格が高いということなのだろう。

 死ですらその肉体を侵すことができないのだ。

 神に近しい存在とまで言われるのも納得できる。


「ところで、ネリアは聖騎士団とか聖騎士隊とかそういうのに所属してないのか?」

「ん? ……してるけどそれが?」

「いや、こういう風に単独行動とっててだいじょうぶなのかなって」


 突然の問いにどういうことだろうかと疑問の表情を浮かべていたネリアだが、シンのその言葉に納得したように頷く。


「問題ない。わたしは姫様の剣。だからミネヴァ様の命令が優先される」

「そういうものなのか……。まぁ、いいならいいんだけど」


 シンにとってはあまり腑に落ちるという話ではなかったが、そもそもそういったことに詳しいわけでもないし、そういうこともあるのだろうと一応の納得をした。

 実際問題として、このような異例の事態に普通の対応ではどうにもならないという面もあるのだろう。


「―――シン」


 後ろから小さく声を掛けられて振り返る。

 目が合うとアイシスがゆっくりと頷く。それは準備が整ったということだろう。

 そしてアイシスはちらりと後方へ視線を動かす。

 おそらくミネヴァの方も動き始めた気配を感じたのだろう。

 シンも了解したというように一つ頷く。


「確認だけど、手はあるの?」

「一応な。やってみないとどうにも言えないけど、自信はあるから任せてくれ」

「作戦は? わたしは何をすればいい?」


 ネリアがシンに尋ねると、シンは視線をアイシスに流す。

 アイシスは一瞬だけ言葉を選ぶように目を伏せるが、すぐにそのままを口にする。


「……シンの前に出て、とにかくシンを守ってください」

「わかった」

「言うまでもなく一番危険ですが、よろしいですか?」

「問題ない。それでいい」

「わかりました。私もできる限りの援護はします。……シン」

「ああ、ネリア頼む。ここから先はすぐに気付かれてしまうはずだからな」


 手に持つ道具に力を込める。

 それにより、込められた力が爆発的に高まり、その瞬間に竜に気付かれる。

 後方支援の魔法によって視界そのものは阻まれてはいるものの、はっきりとこちらを見ている視線を感じる。

 ただ、シンの持つそれから漏れ出る力は確かに凄まじくはあるものの、それはネリアの想定を外れない。極めて強力ではあるもののこれでは足りない。


「安心しろ。これだけじゃない」

「……わかってる」


 ネリアがそう感じていることはシンも当然わかっているし、その上でシンがそう言っているということもネリアは当然わかっている。ネリアが今感じている以上の何かがあるだろうことは想像がつく。

 だから、不安は消えないが信じていないわけではない。シンがなんとかすると言ったのだからなんとかなるのだろう。


「―――今っ!」


 号令を掛けたのはアイシスだった。

 アイシスが錬金道具を発動させると同時にシンとネリアは飛び出す。

 その姿を見つけた竜が即座に反応を見せる。一瞬でその二人に目を向けると炎弾を吐き出す。

 驚いたのはネリアだ。

 その炎弾の威力が先程までとは比べ物にならないほどに弱まっているのだ。

 それはアイシスの錬金道具の効果だ。場の属性の聖なる力を強化することで竜が持つ闇の属性を大幅に弱体化させているのだ。

 ネリアはとっさにシンの前に躍り出ると剣に力を込めてそれを薙ぎ払う。だが、簡単に対処することができたのはその一撃だけだった。

 空気が変わる。いや、戻ると言う方が正しい。

 竜によってすぐさまその場の属性は塗り替えられる。

 アイシスの錬金道具による場の属性の強固さはネリアにもよくわかっていた。それをたった一呼吸で無に帰した竜の力に改めて戦慄を覚える。

 だが、竜がそれに気を取られる瞬間を狙っていたのか、その隙をつくように一斉に魔法が降り注ぐ。もちろん、それにたいした効果はない。その全てが竜鱗に簡単に阻まれた。だけど、それは囮としては有効だった。

 そのとき竜が見ていたのは近付いてくる二人だけだった。気配こそ見失うことはなかったものの、視覚的には完全に消えていた。そのため、二人を探すことに意識を割かれてしまっていたのだ。

 だから、他への注意が疎かになる。

 二人を見つけそこへ歩を進めようとした瞬間、竜の足元、その地面が割れる。ぐらりと竜の巨体が揺れる。

 それがアイシスによるものだとすぐに理解する。竜に直接攻撃を与えても意識を割くことは難しい。だけど、その竜が立つ大地は違う。それであれば完全な不意打ちとして成立する。

 その瞬間、背後のシンの気配が明らかに変わったことをネリアは理解した。そしてそれが自分の理解の及ばないものであることを。


「システム『マグヌム・オプス』……リバレート。アクセス―――シン域開放」


 その言葉が何を意味するのか、ネリアには見当もつかなかった。


「なに……これ」


 ぞわりと総毛立つ。

 ただ、ネリアの想像もつかない何かと繋がったことを理解した。そして、シンの手の中にこれまでとは比べ物にならないほどの強大な力が集まっているように感じた。


「いや、違う。……集まってるんじゃない」


 すぐに自分でそれを否定する。

 集まっているわけではない。繋がった何かから膨大な力が流れ出ているのだ。シンがやっているのはそれを束ねているだけだ。そして、究極とも言えるほどにその力を高めている。

 準備が整った。ネリアはそう思った。

 だから体が勝手に反応した。ネリアは足元に気を取られた竜に再び上を向かせるように飛び上がる。そして、その首目掛けて全力でその剣を振り下ろす。


「―――はぁぁああ!」


 もちろん、その一撃は届かない。全力であってもその体に触れることすら叶わない。竜鱗と激突した剣はうるさいほどの音を奏でるだけだった。それでも、それには届きさえすれば竜を傷つけるだけの威力があった。

 命に届きうる一撃。

 だから竜の視線はそちらに向けられる。

 そして、シンはその懐に潜り込む。


「一閃をもって徹し貫け! ―――破界のアルカルロプス」


 シンはその手の棒を竜目掛けて力の限り振り抜く。

 一瞬、世界から音が消えたと思えるほどの鳴動が轟く。

 そして空白の後、ふわりと浮き上がった竜の体が地に落ちたと同時に、再び世界はこれまでどおり音を取り戻す。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『50.戦闘』10/20 21:00投稿となります

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