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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第四章 『反攻の討竜戦』
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48.作戦

「……どうにか間に合ったみたいだな」


 安心したようにシンは息をつく。

 シンたちの見立てでは、戦闘が始まるまでもう少し時間があるはずだった。それが予測していたよりも進軍が早く、すでに交戦していたため密かに冷や汗をかいていたくらいだ。

 もっとも、その要因の一つはシンたちにあった。

 シンはドラゴンゾンビと戦うための、アイシスが創った傷薬をあらかじめミネヴァたちに渡していた。そして、それと同時に戦いに役立つであろういくらかの錬金道具も支援物資として提供していたのだ。試作品のようなものも含めて。

 幸いにもというべきか、それによってミネヴァたちの進軍はシンたちの想定よりも順調に進みすぎていたのだ。


「……申し訳ありません。我々も少し気が逸っていた部分があったかもしれません」


 申し訳なさそうに目を伏せるミネヴァに対してシンは気まずそうに目をそらす。


「いや、責めるつもりはないんだが。……というか別に姫さんが謝ることでもないだろうに」

「そう、かもしれませんね。……それで、どうしてここに?」


 そう尋ねられたシンはそれが意外だったのか、少し驚いたように目を見開く。

 ミネヴァの目を覗き込むと、期待と不安が入り混じっているのがわかる。

 そして、魔法を撃ち込まれている竜を見上げる。


「言っただろ? 竜鱗はなんとかするって」

「それは……」


 ミネヴァは言葉に詰まる。

 いろいろな想いが頭を駆け巡る。

 確かに以前からシンはそのようなことは言っていた。この竜が古竜であるだろうと予測していた時点で、聖剣では竜鱗は破れないだろうかもしれないということは想定されていた。だからこそ、ネリアはすでに命を賭けることを考えてもいたのだ。

 そしてあくまで話の流れとしてシンはその場合になんとかすると言っていた。

 期待はしていた。自分たちに打つ手がなかった場合にはそれを信じるしかないのだから。

 ただ、ミネヴァからするとそれをどこまで真に受けていいものかというところであった。もちろん、シンたちを信用していないというわけではない。だけど、立場もある。無条件に全てを任せるというわけにもいかないのだ。


「……可能なのですか?」


 おそるおそる尋ねる。

 そもそもの疑問としてそんなことができるのだろうか。

 そんな不安を一蹴するようにシンは軽く鼻で笑う。


「錬金術にできないことはないさ」


 いつもどおりの言葉。

 ただ、その隣にいるアイシスはなんとも言えないような表情で苦笑を浮かべていた。

 ちらりと目を向けるとアイシスは少しためらいながら口を開く。


「実はまだ完全に出来上がったというわけではないのです」


 アイシスの言葉にシンは不服そうに目を細める。

 それは事実ではある。ここまで時間がかかったのもそのためだ。可能な限り性能を高めるため。時間の許す限り改良に取り組んできた。

 だけど、それはまだ未完成だった。

 ただ、シンからすればそれを敢えて言う必要はないと思っていた。確かに未完成ではあるが、それでも結果さえ出せればそれでいいのだから。

 竜鱗を破壊さえできればいい。

 その意味においては完成しているとも言える。


「未完成、というのはどういう意味でしょうか?」


 ミネヴァは率直に尋ねる。

 アイシスがそう言うということはそれが事実なのだろう。だけど、シンの言い様を見るに効力としては不足ないというようにも聞こえるのだ。


「あー、まあこれなんだけど」


 シンの手にあったのは先端部分が太くなった棒のようなものだった。


「それは……棍、いいえ。槌、ですか?」

「ああ、そうだな。そう思ってくれていい」


 シンは頷くとそれを強く握りしめる。


「未完成、欠点ってのは簡単なことだ。……これが届く範囲まで近づかないといけないってこと」

「それは……」


 ミネヴァはちらりと竜に視線を向ける。

 標的を見失ったことでひとまず竜は落ち着いたのか、凶暴性を潜めてゆっくりと歩を進めていた。

 その身は無数の魔法を浴び続けているが、その全ては竜鱗に阻まれ一撃たりとも届いてはいない。まるで雨の中を進むように平然と歩いていた。

 どうだろうか、とミネヴァは思う。

 ここからはそれなりの距離がある。だけどなんとなくわかる。これ以上近寄るとおそらく竜に認識されてしまうはずだ。

 そのとき、竜がどのような反応を示すのかわからない。気にも留めない可能性はあるが、すぐさま襲いかかってくることだってありうる。

 ミネヴァは一度ぎゅっと強く目をつむる。


「……わかりました。私にやらせてください」


 覚悟を決めてシンにそう告げる。

 だがシンは申し訳なさそうに眉根を寄せる。


「悪いけど、これは俺じゃないと使えない。だからそれが問題なんだ。……か弱い俺がやらなきゃいけないってのが」


 シンは苦笑を浮かべる。

 もちろん、シンも全く戦えないというわけではない。普段から剣の鍛錬をしていることもあるし、素材の採取のために一人で危険を退ける程度には戦えるつもりだ。

 だけど、それは戦闘のための力ではない。あくまで目的を達成するための手段にすぎない。

 そして、その程度の能力で竜に近づくというのは自殺行為にすら近い。


「―――やめたほうがいい」


 そう言ったのはネリアだ。

 ミネヴァが驚いたようにネリアに視線を送ると、ネリアは一瞬ためらうような素振りを見せて口を開く。

 シンの実力不足、それもあるが、一番の問題はそこではない。


「それでは足りない」


 ネリアにもその道具がどういうものかはおおよそわかっている。

 おそらくは壊すということに性能を特化させた道具。

 しかも、その道具が秘める力には凄まじいものがある。今自分が持っている剣に勝るとも劣らないはずだ。その性質上、竜鱗を壊すという能力においては少なくともこの聖剣を上回るのは間違いないだろう。

 もともと聖剣だったものを素材とした剣とは違って、シンの持つ道具にはそこまで良い素材は使われていないはずだ。にも関わらず、この剣と同等の力を持った道具を創り出したシンとアイシスの能力は筆舌に尽くしがたい。

 だけど、それでも無理だろう。

 その程度でなんとかなるほど竜鱗は甘くない。

 ネリアがそう言うと、ミネヴァは迷ったように目を伏せる。

 ネリアの言っている意味はわかってはいても、少しでも可能性があるのならそれに賭けるべきだという思いもあるのだ。


「それに、それでもやるならアイシスがやった方がいい」


 それは単純に戦闘力が高いからだ。

 強いアイシスが持つほうが必然、成功率も高くなるはずだ。そして、優れた錬金術の使い手であるアイシスであればシンでなくとも扱えるはず。

 しかし、アイシスは首を横に振る。


「私には使えないのです」

「……どういうこと?」


 その言葉の意味はわからない。

 アイシスは紛れもなく天才だ。何も知らなかった以前はともかく、多少は錬金術というものをかじった今のネリアにはそれがはっきりとわかる。自分もシンに才能があるとは言われたが、それでもアイシスの才は桁違いのものだと理解している。

 そのアイシスが使えないということがあり得るのだろうか。


「……正直なところ説明は難しいんだ。無理を言っているってのはわかってるつもりだけど。ここは俺を信じて任せてくれないか?」


 どう言うべきか言葉を選んでいたアイシスが口を開く前に、シンはミネヴァとネリアにそう告げる。

 その言葉にミネヴァとネリアは目を見合わせる。そして、同時に頷く。


「―――信じます」


 シンは安心したように少し表情を緩めると、アイシスに視線を送る。

 アイシスは僅かに迷うような表情を浮かべるも、すぐに仕方ないとでもいうように頷く。


「よし、じゃあ援護は頼む。なんとか俺があいつのところまでたどり着けるように。作戦は……任せた」


 驚いて目を見開く二人とは裏腹に、アイシスは諦めたように大きくため息をついた。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『49.開放』10/19 21:00投稿となります

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