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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第四章 『反攻の討竜戦』
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47.聖なる力

 竜と対峙したネリアは即座に応援を呼ぶ道具を使用する。

 その手の中にあるそれは、アイシスに渡されていた錬金道具だ。ただ、他にも創るべきものが多数あったため、あくまでもそれは片手間によって創られた試作品にすぎない。

 つまり、そこまで便利なものでもない。

 正確な情報を伝えられるわけでもないし、それほど多人数に届くわけでもない。あくまで簡単な合図を送ることができるにすぎない。

 それでも、王女ミネヴァを含めた重要な人物はこれでおおよその事態を把握しているはずだ。

 意外なことに、竜とのにらみ合いはしばらく続いた。

 ネリアからしてみればわずかでも時間が稼げることは好都合ではあったが、それを手放しで喜ぶ気にはなれなかった。あまりにも不気味すぎる。

 その竜の意図が読めないのだ。

 それはつまり、竜には思考力があることを意味する。ただの屍体であるはずのドラゴンゾンビにそのようなものがあるはずないということはわかっている。だけど、その瞳の奥にどこか知性のようなものがあるようにすら見えるのだ。

 警戒を怠ったつもりはなかった。

 だけど、ほんの一瞬、意識を思考に割いたそのときに竜は動き出した。

 その鈍重そうな巨体とは裏腹な俊敏さで、ネリアの眼前に一足で飛び込むとその凶悪な爪を振り下ろす。

 ネリアは即座に全力で飛び退くと剣を構え、力を込める。

 そのネリアの想定どおり、間合いの離れたネリアに向かって闇の炎弾を吐き出す。


「―――はっ!」


 先ほどカマーゾに放たれたものを遥かに上回る威力だったそれを、ネリアは全力を込めて薙ぎ払う。

 それは失敗だった。

 その一撃に全力を込める必要はなかった。確かに炎弾は強力ではあったが、ネリアの見立てではそこまでしなければ防げないというものではなかった。だけど少し慎重になりすぎた。単なる威力以外の何かの力を持っているという可能性もあったため、結果論だとも言えるが。

 眼前の炎を切り裂いた後、ネリアの視界が晴れた先にはすでに次の炎を吐こうとしている竜が目に入る。

 体勢を整えその二撃目に反撃することは間に合わないと判断したネリアは、手にある剣を盾のように構えると懐からアイシスに渡された薬を取り出す。

 炎を食らいながら傷を回復させるためだ。


「……死ななければ死なない」


 せめてもの抵抗にとネリアは剣に聖なる力を巡らせる。多少なり炎が持つ闇の力を軽減できるはずだと。


「―――魔道士、撃て」


 その覚悟は杞憂に終わる。

 背後から聞こえた声に合わせて無数の攻撃魔法が放たれた。

 もちろん、竜鱗がある以上魔法は通用しない。その一撃一撃は国でも選りすぐりの魔道士による魔法であり、極めて強力なものではあったが、それでもこの竜にとっては目くらまし以上の意味を持たなかった。

 だけどそれで十分だった。

 その隙にネリアは身を隠し、竜の視線から逃れる。


「ありがとうございます。ミネヴァ様」

「間に合って良かったわ。ネリア」


 静かに駆け寄ってきたミネヴァにネリアは感謝を述べる。

 ミネヴァはネリアの全身に視線を巡らせると、少しだけ安心したように息をつく。そして、竜に目を向ける。


「これが、ドラゴン……」


 ミネヴァが竜を実際に目にしたのはこれが初めてだった。その威容に思わず息を呑む。


「……少し、まずいかもしれません」


 だけどネリアは違う。

 そのときは主戦力をとはならなかったが、以前に竜を封印した戦いに参加していた。そして、アスナの傍らにてこの竜の姿を見ていたのだ。

 だからこそ、以前との違いを認識している。


「前よりも強くなっているみたいです」

「……え?」


 ネリアのその言葉にミネヴァは目を見開く。そして、苦々しげにその顔を歪める。

 可能性としては認識していた。極めて小さい可能性であったものの、以前より厳しい戦いとなる可能性はあると。

 それは強くなったというのとは少し異なるかもしれない。正しくは、以前が弱かったのだろう。

 以前の戦いのとき、おそらくはこの竜はドラゴンゾンビとして生まれたてだった。つまり、死にたてだったのだろう。それゆえにいまだ屍竜として万全ではなかったのだ。あるいは寝ぼけたような状態だったのかもしれない。

 だからその本来の力を発揮することができていなかった。

 それが今は違う。封印されていたとはいえ時間が経ったせいだろうか、理由はわからないが今の竜はその持っている力の全てを使うことができている。

 そしてその結果、竜が纏う竜鱗の硬度も以前より高まっているのだ。

 ネリアは手に持つ剣に視線を落とす。

 シンにも言われていた。この剣で竜鱗を打ち破るのは難しいだろうと。そして、ネリアも同じ意見だった。いくら強力な剣であっても単純な威力だけで竜鱗は破れないだろうと。

 それがさらに強固になってしまっているのだ。

 ならば方法は一つしかない。


「―――だめよ、リア」

「でも……」


 それをミネヴァは否定する。

 聖なる力には特殊な性質がある。四大属性の力とは明確に異なる性質だ。

 それは自身の生命力を聖なる力に変換することができるという性質。

 当然の話ではあるが、それは極めて危険な方法だ。生命力を使うという性質上、それを失えば命の危険があるというのももちろんのことだが、それ以外にも重大な問題がある。その強大な力に体が耐えられないのだ。その強大な力を完全に制御することが極めて難しいゆえに。

 以前の戦いでアスナはこの方法を採った。その際に使った生命力はそれほどではなかった。多少の衰弱程度はあれども、しばらく休養を取れば十分に回復できる程度でしかなかったのだ。

 それでも、その程度の力ですらアスナの体は耐えられなかった。

 幸いにも、というべきか呪いを解く際にシンに治療してもらうことで回復することができたが、その腕にはもう剣が握れないほどの負傷が残っていた。

 そして、今眼前にある竜。

 この竜鱗を破るとなると一体どれほどの生命力を注ぎ込まなければならないのか。

 おそらくネリアは死ぬだろう。

 それほどの力が必要になるはずだ。仮に、その生命力が足りたとしてもその凄まじい力にネリアの体が耐えられるはずもない。

 避けられない死。

 さらにネリアは理解している。

 自分の命を犠牲にしてなお、もしかしたらなんとかなるかもしれない、という程度でしかないことを。十中八九、無駄死にに終わるだろうことを。

 そしてそれをミネヴァもまた理解している。だからそんなことはさせられない。ただネリアを死なせたくないという私情もさることながら、貴重な戦力を無駄に散らすことはできないという合理的判断においてもだ。


「……でも、可能性はあります」

「リア……」


 頑ななネリアにミネヴァは表情を歪める。

 ネリアは理解しているのだ。可能性があるのではなく、他に可能性のある方法がないということを。


「方法はあるわ」

「……え?」


 そのミネヴァの言葉にネリアは呆けたような声を漏らす。

 それはネリアにとって予想外の言葉だったからだ。ネリアの知る限り他に方法はないはずだ。


「信じることよ」

「……信じる?」


 それもネリアにとっては理解不能な言葉だった。


「何を? 信じるだけではどうにもなりません。それでどうにかなるなら苦労はありません」

「―――それをどうにかするさ」


 背後から聞こえた言葉に二人は振り向く。

 そこには二人のよく知る姿。シンとアイシスの二人の姿があった。


「それが、錬金術士だからな」

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『48.作戦』10/18 21:00投稿となります

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