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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第四章 『反攻の討竜戦』
45/71

45.準備

 ミネヴァはひとり戦いへの準備を進めていた。

 物資を集め、各部署への連絡をとり、多くのものたちの中心として動き回っていた。

 そもそもミネヴァにそのような義務はない。

 もちろん、王族として国のため民のために働くというのは当然のことではあるが、それは上役としての話であり、下から上がってきた話を精査するというのが基本となるため、このように自身が走り回るのは異常とも言えた。

 それはミネヴァ自身としても頭の痛いところであった。

 こうして自分が自分がというのは規律的にもあまりよろしくないということは重々承知しているものの、結局のところ誰かに任せて仕事を振るよりも、自分でやってしまった方が早く簡単なのだ。

 万能姫とうたわれているだけあって、何でもできてしまうミネヴァにとっては、自分でやるよりもできる人間をわざわざ探す方が負担に思えてしまうのだ。

 それにミネヴァの特殊な立場もあった。

 変わり者として認識されていたミネヴァは、その自分の立ち位置を理解してこれまであまり国の上層部との交流を深めることをしてこなかった。一部の人間に自分が煙たがられていることは自覚していたから。

 せいぜいが母のつながりで軍部とはそれなりに親しくしていたくらいだ。だが今回の件において軍の関係には聖騎士であるネリアにまかせており、ミネヴァが担っていたのはそれ以外の部分が大きい。

 そして、しばらく経った日のことだった。ミネヴァのもとに一人の男が訪ねてきた。

 それは国宝の剣の製造を依頼していたドトールだった。


「おっしゃっていただければこちらから伺いましたのに」


 ミネヴァがそう言うと、ドトールはわずかに顔をしかめる。


「……王女様に剣を取りに来させるわけにはいかんだろ」


 ミネヴァは苦笑を浮かべる。

 確かに言っていることはもっともであるが、ぶっきらぼうなその口ぶりからは礼儀というものは感じられなかった。

 もちろんその態度自体は以前に会ったときと同じであったし、そもそもミネヴァはそれを全く気にしていなかったため何も問題はなかったが、ただこうしてドトールがここまで来たことが意外だった。


「これがその剣ですか……。見事なものですね」

「……どうだろうな」


 ミネヴァの簡素で率直な感想にドトールはわずかに不服そうに眉を動かす。

 だが、ミネヴァから見れば述べたように見事な剣だとしか思えず、彼が何について納得していないのか全くわからなかった。

 その反応がむしろ意外だったのか、ドトールは驚いたように目を見開く。


「……必要であれば鞘は後から別の誰かに頼むといい」

「ああ、なるほど。そういう意味でしたか」


 言われて理解した。

 ミネヴァの言に間違いはない。一目見て素晴らしい剣だと思った。

 だけど、それは剣としての出来だ。ミネヴァであるからこそその本質を見抜くことができたものの、国宝として飾ることを考えたならばその見栄えはあまりにも無骨にすぎる。

 ドトールもそれは自覚している。

 残念ながらというべきか、この芸術の国においてドトールの剣はその華美さにおいて明らかに劣っている。それはドトールも不得手としており、この国に来た目的の一つがその美しさというものを学ぶためでもあった。

 だが、今回この剣を依頼されてその部分に挑戦することはしなかった。国宝として美しさも求められることはわかっていたが、敢えてそこに手をつけなかったのだ。

 それは自分の作品として全力を尽くすため、本領を発揮するためであったが、理由はそれだけでもなかった。

 ミネヴァが持ち込んだ素材、その意思が剣としての強さを求めていると感じたからだ。持ち手を護るための力を欲していると感じたからだ。

 これは戦うための剣、だから飾り物としての国宝にはそぐわない。


「……だが、最初は疑問だった。なぜ死地に、と」

「死地、ですか?」

「あの素材を王女様のところに持ち込んだのは、あれを用意したのは誰だ? ……おそらくは、あのお嬢さんの知人だろう」

「そうですね。あれはネリアの友人が用意してくれたものです」


 だからこそドトールは疑問だった。

 あの素材から打つ剣は彼女にしか使えないものだということはすぐにわかった。だけど、なぜ彼女にしか使えないものにしたのだろうかと。


「この剣は平時に用いられるものじゃない。通常の剣では敵わない強大な敵、どうにでもできない戦場で振るわれるものだ。……なのに、彼女にしか使えない」


 つまり必然、ネリアが死地に赴き先頭で剣を振るう必要があるのだ。

 なぜ、親しき友人をそのような死地にいざなうのか、ドトールには最初その理由がわからなかった。

 だけど剣を打つうちにすぐに理解した。きっと逆なのだと。

 この剣があるから彼女は戦うのではない。戦うから剣があるのだ。


「そのとおりです。……この剣があろうとなかろうと、彼女は死地に赴くことになります。ネリアはこの国最強の聖騎士なのですから」

「ああ、そうなんだろうな」


 であるならば彼女にしか使えなくとも何も問題ないのだ。どちらにせよ彼女は戦うのだから。


「きっとこれを用意した者もそれを知っていたのだろう。だからこそこの剣はこういうものになっている」

「こういうものとは?」

「ああ、これは……この剣の本質は敵を討つためのものじゃない。もちろん、それだけの力は十分にある。切れ味も確かなものだ。だが、その本質は護る剣。その使い手を死なせないための剣だ」


 この剣を構成する素材。それに秘められた力は持ち手を護る。

 彼女が死地に赴くことを承知したうえで、敵を倒すことではなく、彼女の無事を第一に考えたものだろう。

 あるいは剣としては正しくないのかもしれない。敵を討つことを第一にすべきなのかもしれない。だけど、ドトールはその歪んだ想いに好感を覚えた。

 ドトールはその込められた願いをそのまま形にしただけなのだ。ドトールの認識としては何もしてないと言っても過言ではない。


「この素材を持ってきたやつは天才だよ。俺としてもいい経験になった。……言っては悪いがこの国でそんな経験ができるとは思っていなかった」


 ドトールがこの国に来てそれなりの鍛冶師を見てきた。

 そこで見たものはこれまでのドトールが打ってきた剣とは全くの別物だった。ドトールの国では剣とは武器でしかなかった。ただ殺すためのもの。

 だけどこの国では違う。芸術の国と称されるだけのことはあった。強さのみを求めるのではなく美しさを忘れることはなかった。そういった概念はドトールにはないもので、それをとても新鮮に思っていた。

 そこに学ぶところも大きかったし、逆に、自分とは相容れないと感じる部分もあった。

 だけどこの剣は違う。それを望まれたものではない。そういった美しさを考えたものではない。

 そして、ドトールの考えるものともある意味では異なる。

 これは持ち手があって初めて完成するものなのだ。

 ドトールにもない概念。おそらくは他国の人間なのだろう。

 ただ、凄まじいまでの才が感じられた。


「そう言われれば私も悪い気はしませんね」


 いまださほど名を知られていない友人ではあるが、シンもアイシスも紛れもなく天才のはずだ。そんな二人を褒められてミネヴァも嬉しく思っていた。


「そういうわけで、俺の手柄とはとても言えないが、自分でも満足できる仕事はできたはずだ。後はこの剣をお嬢さんに渡してくれ」

「ええ、確かに受け取りました」


 ミネヴァは手渡された剣を握りしめる。

 その感覚に眉を顰める。

 この剣が凄まじい力を秘めているというのはわかる。こうして握りしめるだけでそれは伝わってくる。だけど、先程ドトールが述べた使い手を護る剣だという言葉の意味はわからなかった。


「……残念ながら王女様には無理だ。その剣の力を引き出すことはできない」

「そのようですね。私にはわかりません。……私も戦えたらと思ったのですが」

「たぶん……いや、なんでもない」


 ドトールには思い浮かんだことがあったがすぐにそれを否定した。

 それを告げたところでどうにもならないのだから。

 だけど、それだけでミネヴァには伝わってしまった。

 少しだけ寂しそうに笑みを浮かべる。

 きっと二人が考えたのだろう。まかり間違ってもミネヴァがこの剣を振るうことのないように。おそらくはそれもネリアのみに使える剣とした理由の一つなのだ。ミネヴァが命を落とすことのないように。

 ミネヴァは王女であり、戦士ではないのだから。

 それが寂しくて、そして、少しだけ嬉しかった。


「じゃあお嬢さんによろしくな」

「ええ、ありがとうございます」


 ドトールが去り、少しの日が過ぎた。

 そして、戦いが始まった。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『46.恩』10/16 21:00投稿となります

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