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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第四章 『反攻の討竜戦』
44/71

44.鍛冶師

 シンに国宝の剣を託した後、ミネヴァとネリアはアイシスの店に向かった。

 そして、シンに依頼したことと同じ話をし、シンに了解を得られていることを告げるとしばし友人としての時を過ごした。

 王宮に戻った二人は、シンからの連絡を待ちながら、来たるべき戦いへの準備を進めていた。

 それからしばらくの時が経った頃、シンとアイシスの二人がミネヴァのもとを訪れた。

 それ自体に問題は何もなかった。二人はミネヴァたちが注文をしたものを持ってきてくれた。もとは剣であったそれは一つの金属の塊に再構成されていたが、その質の高さはミネヴァが一目見ただけで息を呑むほどだった。

 ただ、その早さには驚いたと告げると、シンは誤魔化すように苦笑を浮かべていた。

 それはミネヴァたちの知るところではなかったが、セルフェンの街からこの王都への移動に錬金道具を使っているため、その時間が短縮されているからだ。シンとしてはその特殊な道具についてあまり公にはしたくなかったのだ。

 そして二人はその金属と共に以前に言っていた聖なる力を持った薬を大量に預けるとそのままふらりと帰っていった。

 ミネヴァとネリアは二人から受け取った金属を持ち、ある鍛冶師のもとを訪れていた。

 その鍛冶師、ドトールは有名でこそないが、一部の人間には名工だと知られている傑物だ。


「……これで剣を打ってくれって?」

「はい。お願いできますでしょうか?」


 鍛冶師は顔をしかめる。

 こうして金属を持ち込み、それで剣を打ってくれという仕事はあまりない。だけど。ないわけではない。だからそれ自体に何か問題があるかというとそんなことはない。

 問題はこの持ち込まれた金属だ。

 ドトールは自分の実力には自負があるし、それなりの経験を積んできた。最高の剣を打ったというほどの自信はいまだないが、それでも自分の剣は名剣と呼んで差し支えないものだと思っている。

 そして、そのための高品質な金属、素材も見てきた。

 それでも、これほどまでのものは見たことがない。特に、そこに込められた力には目を見張るものがある。

 しかも、その依頼は国宝として聖剣を打ってほしいというものだ。


「国宝ってのは、どういうことだ?」

「ああ、申し遅れました。私の名はミネヴァ・ソル・ミスラと申します」

「ミスラ……」


 ドトールは記憶をたどる。ミスラという名は当然知っている。それが何を意味するのかも。だけど、ミネヴァと名乗られてすぐに思い当たるほどにこの国の中枢に詳しいわけではない。


「俺に頼むってことがどういうことかわかっているのか。……わかっているのですか?」

「もちろん、承知しています。それがどういう意味なのかも。……ああ、無理に敬語を使わなくてもけっこうですよ」

「それは、助かるが……」


 それにはドトールの性格上の話ももちろんある。いかに腕が良かろうと彼は高度な教育を受けて来たわけでもない。だから貴族や王族に対する言葉遣いを身に着けているわけではない。

 だが、何より言葉自体にそこまで慣れていないということが大きい。


「あなたがこの国の人間でないことは把握しています。確か、まだこの国に来て数年といったところなのですよね?」

「……ああ、そうだ」


 ドトールはトーラスの人間ではない。

 彼は西の果て、セイギッタの出身だ。海と山に囲まれたゆえか、多くの特殊な鉱物が採れ、そのおかげか鍛冶などはトーラスと比べて遥かに進んでいる。

 ドトールの腕もそこで磨かれたものだ。


「だけど……他国の人間に国宝なんか打たせていいのか?」

「そうですね。良いか悪いかで言うならば、やはりあまり好ましくはないのかもしれません。国宝というからにはこの国の中で生み出されたものであるほうが良いのでしょう。……正直に言うのであればこの国の職人に任せたいところです」


 その方が国宝としての威厳が保たれるというのは間違いないだろう。

 他国の人間が打った剣をありがたがって国宝にするなど恥だと考える人間も中にはいるかもしれない。それによって余計な口を挟まれるという手間もあるだろう。

 だけど、現実問題としてそれどころではないのだ。

 飾り物としての剣であるならばそれでいい。その方が良い。幸いにもというべきか芸術の国であるここではより美しく華やかな剣を打つことができるだろう。そういった部分においては決してドトールに劣ることもないはずだ。

 ただ、今必要とされているのは見るためのものではない。実戦で使うためのものなのだ。

 ミネヴァはちらりと隣に視線を向ける。

 そして、その剣を使うのはネリアだ。ならばこそ彼女のためにも、自分のためにも最高の剣を用意する必要がある。

 だからこそ、自分の知る限り最高の鍛冶師であるドトールに頼むのだ。


「……まぁそういう話であれば理解はできる」


 完全に腑に落ちた、というほどではないが、その言い分はわかる。使うものであれば何より性能が重視されるという当たり前のことだ。

 いろいろと不都合があろうともまずはそこを優先したいというのはドトールにもわかる。


「で、剣を使うのはそのお嬢さんでいいのか?」

「はい。その予定です」


 ドトールは眉を顰める。

 もちろんドトールは自分の目に自信がある。自分が打つ剣、それを使う者の力量がわからなければ話にならないからだ。その意味で眼前の小柄な少女が極めて優れた剣士だということも理解している。


「そうか。……ちょっと手を出してくれ」

「手を?」


 ネリアが差し出した手を握るとしばし目を瞑る。


「……なるほど」


 そして目を開き手を離すと、ためらうようにため息をつく。


「聞いておきたいんだが、彼女より強い使い手はいるのか?」

「―――いません」


 ミネヴァはその問いに即答する。

 隣にいる少女は紛れもなくこの国で最強の剣士なのだ。

 それはミネヴァの母からも託された。

 ミネヴァの母アスナは順調に回復している。すでに日々を鍛錬に費やしているし、十分に剣を振ることもできている。だけど、以前のところまでは届いていない。

 それについてアスナはもうかつての自分の領域まで届くことはないと言った。それは負傷や呪いの影響が全くないというわけでもないが、アスナ自身すでに全盛期を終えて自分が衰えているということを理解しているからだ。これ以上、強くなることはないだろうと。

 だからネリアに託した。

 彼女はすでに自分を超えていると。


「そうなると……少し問題はあるな」


 ドトールは嘆息する。

 ここまでの話自体に問題があるわけではない。

 この持ち込まれた金属は特殊ではあるが自分であれば扱えるはずだ。その凄まじい力に見合うような剣を打つことができる自信がある。

 そして、その聖剣を彼女であれば扱うことができるだろう。見た目こそ少々小柄な少女であるものの、卓越した剣士であることはドトールにもわかる。

 だけど、だからこそ問題がある。


「その剣を国宝にするのはいい。……いいんだが」


 おそらく、出来上がった剣は彼女しか扱えないものになるだろう。


「それは、どういった意味でしょうか?」


 ミネヴァは首を傾げる。

 使えない剣、という感覚がいまいち理解できないのだ。

 尋ねられたドトールだが、こちらもまた黙して顔を歪める。これも感覚的なものになってしまうため説明ができないのだ。

 だから、理由ではなくその現象だけを伝える。


「彼女くらいの剣士、聖騎士であれば剣の力を万全に引き出すことができるはずだ。だけど、彼女より劣るものであれば……せいぜい半分以下、というところだと思う」

「それはどういう……。半分、ですか……」


 ミネヴァは一瞬尋ねようとするが口を噤む。ドトールにとってもそれが精一杯の言葉なのだろうということは伝わったからだ。

 そして、半分という言葉に少し考え込む。

 実際問題として、剣がどのようなものになるのかミネヴァにはわからない。だけど一つだけ確信がある。それは以前よりも強力な剣が出来上がるということだ。

 仮にその剣をうまく扱えないとしても、半分程度の力が出せるのであればさほど悪いことでもないのではないだろうか。

 それに、どちらにせよ当面はネリアが使い手となるのだから問題は起こらない。

 国宝という性質上、将来になにかしらの問題が発生する可能性はあるが、そのときはそのときだ。


「後のことは、後の誰かに任せましょう」


 そう言ってミネヴァとネリアは剣をドトールに任せてその場を後にする。

 そして帰りの道すがら、ミネヴァはぽつりと呟いた。


「ごめんね、リア」


 何に対する謝罪かわからず、ネリアは首を傾げる。


「あなたへの負担が大きくなってしまう。こうなってはあなたが戦わざるを得ないのだから」

「……それでいい」

「そう……ならいいのだけど」


 ネリアからすればむしろそれは喜ばしいことだ。

 あの日、自分は何もできなかった。アスナが戦うのを、無茶をするのを見ていることしかできなかった。何の役にも立てなかった。

 ネリアはそれについてあまり表に出したことはなかった。さすがにミネヴァは感じ取ってはいるが、それでもその想いの深さまでは理解していない。

 雪辱を果たすため、自分がその第一の剣となれるのであれば望むところだ。


「……そういえば、あの方には連絡した?」


 思い出したようにネリアは尋ねた。

 唐突な話題にミネヴァは一瞬なんのことだろうかと戸惑うが、すぐにそれに思い当たり頷く。


「ええ。……半分はそうせざるを得なかったというところもあるけど」

「アイシスが関わってるから?」

「そうね。それでも来ていただけるかはわからないわ。……彼にそこまでの義理はないだろうし」


 仕方ない、というようにミネヴァは苦笑を浮かべる。

 そんな様子にネリアはむっとしたように口を尖らせる。


「……婚約者なのに」

「婚約者候補、よ。ただの候補にすぎない彼にそこまで求めることはできないわ」

「でもそれはあっちの―――」


 ネリアの反論を遮るようにミネヴァは首を横に振る。

 そこでネリアは諦めたように深く息をつく。


「私たちは私たちのできることをやりましょう。……それだけよ」

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『45.準備』10/15 21:00投稿となります

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