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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第三章 『悲嘆のメルクーア』
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37.帰省

 今後のことについて話を終えると、ティールは帰っていった。

 それからシンとアイシスの二人はこれまでと同じ生活に戻っていた。

 ティールの言うように、一度メルクーアの家に戻るということに異存はないが、今すぐにという話でもなかった。それに、二人にはさしあたってやらなければならないことがあった。

 そして、それが一段落となった頃に、二人は周囲の知人に家を開けることを挨拶したり、準備を整えたりすると、アイシスの家へと帰ることになった。


「……と言っても、そんなにかかるかはわからないんだけどね」


 アイシスは苦笑しながら言う。

 国をまたぐ旅になる。普通に考えれば行き来だけでもそれなりの日程がかかる道のりだ。

 だけど、自分たちは錬金術士だ。その長い距離を一瞬で移動する方法がある。

 別に急ぐ旅ではない。とは言え、わざわざ自分たちの足で歩く必要もないだろう。

 ただ、行き来に時間はかからないとは言っても、それ以外がどうなるかはわからない。アイシスの両親との話し合いに時間がとられるかもしれない。

 そういったことも考えれば、早く行けるにこしたことはないはずだ。


「じゃあ、使うね?」


 そう言ってアイシスが取り出した錬金道具はアケルナルの門。それは以前にミネヴァの母を助けるためにトーラスの王都へ赴いたときに使ったものだ。

 ただ、あれから多少の改良を加えてはいるが。


「ここは……」


 たどり着いた場所はシンにも見覚えのある場所だった。

 それは二人が出会った場所。森の中の少し開けた空間。


「この辺りは誰も来ないから。……私くらいしか。だから、誰も見たことがなかった。あの日までは」

「それは、悪いことをしたな。秘密の場所に入ってしまった」

「ふふっ、気にしてないよ。……それに、きっと、私は誰かに見つけて欲しかったんだと思う」

「……良かったよ。俺も見つけて欲しかったし」


 それから二人はメルクーアの家、屋敷に向かう。

 ここは屋敷のすぐ近くではあるが、敷地の外に当たる。アイシスがいつもここまで来ていた道をたどればこっそりと屋敷に入ることもできるが、今日はそういうわけにもいかない。

 だから少し遠回りをして屋敷の正面に回り、正門をくぐることとなった。

 当然と言えば当然のことであるが、二人はすんなりと屋敷の中に入ることができた。

 今日という日を指定していたわけではないが、近々ここに帰ってくることはあらかじめ伝えていたし、なんといってもここはアイシスの家なのだから。

 二人は別々の部屋に通された。シンは客室に、アイシスは私室に。そして、しばらく時間が経った頃に二人は応接室に招かれた。

 使用人の案内に従い部屋に入ると、そこにいたのはアイシスの父と母、それに兄と姉がそれぞれ一人ずつだった。

 シンを視界に入れたアイシスの母はすぐに立ち上がると小さく一礼する。


「初めまして。私はアイシスの母、ハーラ・フォン・メルクーアです」


 そう言うとちらりと隣を一瞥する。そして、小さくため息をつくと挨拶を続ける。


「そしてこちらが夫……アイシスの父でありメルクーアの当主であるマウディ・フォン・メルクーア。それにアイシスの姉のジルフィです。……ティールについては改めての説明は不要ですね」

「……ご丁寧にどうも。俺……私はシンと申します。今はアイシスと共に錬金術士として店を出しています」


 その程度の情報はすでに聞いていたのか、ハーラの表情からは何の反応も見られなかった。

 シンにとってはそのたどたどしい挨拶が不安ではあったが、そこについても何も言われなかったので一先ずの安堵として胸を撫で下ろす。


「あなたはアイシスの師であると伺っていましたが?」

「……ええっと」


 どう答えるべきかとしばし言葉に詰まる。ちらりとアイシスに視線を送ると、好きに答えていいと小さく頷いていた。


「形としてはそうなるのかもしれませんが、師というほどのものではありません。色々と教えたりはしていますが、師というよりは仲間、のようなものだと思います」

「なるほど、そうなのですね。……では、これまで二人がどう過ごしてきたのかをお話していただけますか?」

「わかりました。……アイシス、どうする?」

「そう、だね。私から話すよ」


 アイシスはこの家を出てからのことを順番に話していく。時間はあるからと、できるだけ丁寧に、誤解のないように。

 その噛みしめるような説明の一言一言を決して聞き逃すことのないようにと真剣に聞き入るハーラの姿を見て、シンは想像していたのとは違うなと感じていた。

 アイシスから話を聞いていて、家族と不仲などではないことはわかっていた。愛してくれているとは言っていた。だけど、疎外感を覚えているアイシスを見るに、もう少し距離感のようなものがあるのかと思っていた。

 だけど、ハーラたちの反応からはそういったものが感じられなかった。

 ただ、確かにシンが思うような普通の家族とは少し違うとも思った。それが貴族というものだからなのか、あるいはこの家特有のものなのかはシンにはわからなかったが。


「……錬金術、というものについて私も少し調べてみました」


 おおよその話が終わったところでハーラが切り出す。

 アイシスの居所については随分前に把握していた。そして、錬金術の店を出していることも。

 それを知ったハーラは錬金術がどういうものなのかを調べることにした。

 だけど、それはあまり芳しくなかった。

 一番の問題はガエメニには錬金術などないということだ。全く存在しないというわけではなかったが、表にその名前が出ることはなく、誰も知らないようなところで密かに点在しているだけだ。それも、そのほとんどが他国から流れてきた人間だ。

 だから、この国では文献すらもほとんど見つけることができなかった。

 隣国、トーラス王国においてはガエメニと比べていくらか錬金術というものも認知されており、それに関する情報や文献なども散見された。だからハーラはそこから様々なものを取り寄せて錬金術について調べることにしたのだ。

 それでも、多忙であるハーラに直接トーラスまで出向く余裕はなかった。だから錬金術というものを目にしたことはないのだ。

 ティールがトーラスにいたのはそれも理由の一つだ。錬金術がどういうものかを実際に目にするために。


「錬金術とは、一体どういうものなのでしょうか?」


 尋ねられたシンは目を細める。

 そう尋ねたくなる気持ちはわかる。だけどそれを答えるのは非常に難しい。

 簡潔に言うならば様々な素材を調合して力のある道具を生み出すことなのであるが、ハーラが聞いているのはそんなことではないのだろう。


「……難しい、ですね。たとえば魔道具とどう違うのかと問われても明確な答えはないでしょうしね」


 僅かに苦笑を浮かべながらシンは答える。

 魔道具と錬金道具、その違いは一体どこにあるのか。

 魔力を使い発動、あるいは起動させるというのはどちらも同じであるし、道具が及ぼす効果についても似たようなものも少なくない。

 錬金術を行使する際にはその才が必要とされるが、大なり小なり才能が要求されるのは魔道具技師であっても同じことだ。

 両者が同じものだとはシンも全く思わないが、その差異について正確に述べることはできない。


「誤解を承知で言うと、魔道具は大量生産を目的としていますが、錬金道具は同じものでも性能にばらつきがあり、その場面ごとに適したものを創るということを目的にしている、ということでしょうか」

「なるほど……」


 シンの説明にハーラは頷く。

 完全に納得したという様子でもないが、いちおうはどういうものか理解できたというところだろう。


「それで、錬金術とは結局何ができるものだと?」

「なんでも、です」


 シンが即答するとハーラは眉を顰める。

 その反応にシンは苦笑して口元を歪める。そういう反応をするのは当然だろうから。


「気持ちはわかります。それはもちろん細かいところを言えば話は変わってくるんでしょうけどね。具体的にこれはどうなんだ、あれはどうなんだ、と言われれば難しいところもあるでしょう」


 だけど、シンにとってもこれは譲れない。


「でも敢えて言います。錬金術はなんでも創れます。―――錬金術に創れないものはない」

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『38.万能』10/08 21:00投稿となります

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