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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第三章 『悲嘆のメルクーア』
35/71

35.錬金道具

「さて、本番といこうか」


 そう言い出すティールにシンは呆れたように目を細める。


「何が? もう俺の剣の実力は十分にわかっただろ」


 言いながらそれすら違うとシンは思った。

 そもそもシンの力量など剣を交えるまでもなくわかっていたはずなのだ。おそらくは興味本位でのことなのだろうが、他にも真意はあるだろう。しかし、それはシンにはわからない。

 ただ、どちらにせよこれ以上剣を打ち合うことに何の意味もないだろう。


「本番だと言っただろう。剣ではなく錬金術を使え」

「……錬金術を? どういう意味だ?」

「本気を出せということだ。全力での戦いがしたい。アイシスとやったようにな」


 言っていることはシンにも理解できる。

 シンの剣の腕などたかが知れている。剣士ではないのだから。しかもアイシスよりも弱いシンと戦って得られるものなどない。

 だから、シンが戦うのであればそれ以外の力を使うしかない。それはもちろん錬金術の力だ。

 だけど、シンに言わせればそれも的外れだ。


「そもそも俺たち錬金術士は戦うものじゃない。そんなやつと戦ったってしょうがないだろ」

「それは嘘だな」

「なに?」


 ティールはシンの言葉をはっきりと否定する。


「お前は言っただろう。錬金道具には二つの種類があると」

「あ、ああ。それが?」


 誰にでも使えるものと、錬金術の才が必要なもの。

 錬金道具にはその二つがあると説明をしたのは間違いない。


「それはつまりお前たちのための、お前たちが戦うための道具があるということだろう」

「……」


 シンは答えなかった。

 それは無言の肯定。

 ティールの言うとおりだ。

 たとえば攻撃用の錬金道具がある。それは誰でもが扱えるものだけではないのだ。シンたち錬金術士が使うためのものもある。

 自分たちが戦うときに使うための錬金道具だ。

 つまり、錬金術士とは戦うことを想定したものだということだ。


「……確かに、俺たちも戦うことはあるさ。でも戦士ってわけじゃない」

「そうだろうな。だがそこは別に重要じゃない。戦えるか戦えないか、それだけだ」


 言いたいことはわかる。

 ティールはどうしても戦いたいのだろう。

 その理由はわからない。アイシスの師であるという自分の力を確かめたいのか、あるいはただ自分が戦いたいだけなのか。

 もしくは、シンの知らない別のなにかがあるのかもしれない。


「で、俺が戦わなきゃいけない理由があるのか?」

「いや、ない。俺が戦いたいだけだ」


 シンは呆れたように目を細める。

 いろいろと考えていたことが無駄になった気分だ。

 シンが思っていたことも間違いではないだろう。ティールにだってなんらかの思惑があり、それのためにシンを試したいという考えがあるはずだ。

 だけど、一番大きい理由は戦いたいというだけなのだ。ただのわがまま。


「……あんたにとって面白い結果になるとは思えないけどな」

「そのときはそのときだ。……そうはならないだろうが」

「たいした自信だ」


 シンはちらりと静かに眠るアイシスに視線を移す。


「少し離れる。アイシスに当たるとまずいからな」

「ああ、それがいい」


 二人はアイシスの眠る場所から離れると距離を取って向かい合う。

 あまりに近すぎると一瞬で戦いが終わってしまうというのはどちらもわかっているからだ。


「先手はやろう。……この距離でもまだ俺に有利すぎる」

「だろうな。なら、遠慮なくそうさせてもらおうか」


 シンは精神を集中させるように大きく深呼吸すると剣を構える。

 それを見たティールの目がぴくりと動く。この期に及んで剣を使う意味がわからなかったからだ。だが、ティールはそれ以上の反応は示さなかった。

 ある意味ですでにシンに信頼のようなものを抱いているのだ。意味もなくそのようなことをするはずがないと。


「行くぞ」


 シンは大きく剣を振りかぶると、それをティール目掛けて力いっぱいに投擲する。

 予想外の行動にティールは僅かに瞠目すると、その軌道を見切り剣でいなす。回避しなかったのはそうさせるのが目的だと判断したからだ。


「―――なんだと?」


 ティールは驚きの声を上げる。

 その驚きは真正面から突っ込んできたシンの無謀さにではなく。その腕に今投げたものとは別の剣が握られていたからだ。

 そのシンの剣の一撃を、ティールは冷静に弾く。

 力量の違いゆえか、シンの剣はあっさりと手の中から弾き飛ばされる。

 そして、体勢を崩し、隙のできたシンにティールは攻撃をする。

 その一撃は確実に決まったはずだった。だが、シンはそのティールの剣を盾のような頑丈な籠手で受け止める。

 ティールはまたも驚きに目を見開く。つい先程までシンはこのようなものを身に着けてはいなかったはずだ。

 だがすぐに意識を切り替えると、そのまま剣を振り切りシンをその守りもろとも吹き飛ばす。


「なに? ……いつの間に?」


 そして追撃しようとしたティールの足が止まる。その足下は闇に覆われていた。影でできた沼に取り込まれ身動きが取れなくなっていたのだ。

 シンは剣を振るうと同時にその足下に錬金道具を発動させていた。

 そのような錬金道具を知らなかったというのもあるが、あまりにも剣を意識させられてしまったせいで、下にまで意識が回らなかったのだ。


「―――当たると痛いぞ」


 さらに、シンは吹き飛ばされると同時に空中に一つの錬金道具を放り投げていた。発動されたそれから無数の礫のようなものが降り注ぐ。


「はぁ!」


 下と上、選択を迫られたティールは地面に剣を突き刺すと魔力を込める。そして、魔力を爆発させ影を一気に吹き飛ばす。

 上から降ってくるそれに大した殺傷能力はなく、体で受けても問題はないと判断したからだ。それよりも自由を奪われている現状を脱出することを選択した。

 そしてすぐさま上に視線を向けると、身を躱し、被弾を最小限に抑えようとする。

 だが、シンはさらに追撃する。錬金道具を使い爆炎を発生させる。見上げる程の高さまで届く広範囲のそれを避けることはティールにもできないはずだ。

 ティールはすぐさまそれの意味を理解する。これは攻撃ではない。それなりの威力はあるものの、ティールであれば簡単に薙ぎ払うことのできる程度のものだ。

 つまり、これは目くらましだ。

 正面からのこれで視界を封じ、その隙に右か左に回り込み攻撃をする。それが定石だろう。

 だからこそティールにはシンがそうしないことはわかっていた。

 きっと、これを囮にしながら正面から突っ込んでくるはずだと判断したティールは、正面から迫る爆炎を最低限切り払い、シンの攻撃に備える。


「いない、だと?」


 そこにシンの姿はなかった。右にも左にも動いた気配はなかった。

 ならば考えられるのは上しかない。そのはずだ。

 勘によるものか、どこか違和感を抱きながらも僅かに視線を上へ向けようとしたとき、その背にぞわりとしたものが奔る。

 考えるよりも先に身をかがめる。

 伏せた頭の上を剣先がかすめる。


「……嘘だろ?」


 驚愕の声はシンのものだ。

 ティールの背後に回り込み、意識の外からの躱されるはずのない一撃、それが躱された意味が理解できなかった。

 ティールが咄嗟に後方に放った蹴りを籠手で受け止め、苦痛に顔を歪めながら後退る。


「避けた上に、こんな体勢の悪い蹴りでこの威力か。……化け物め」

「いやさすがに冷や汗を掻いたぞ。どうやった? 高速移動、ではないだろう?」

「……簡単に言うと、空間転移だな」


 そのようなことができるのかとティールは一瞬驚きの表情を浮かべるが、確かにそのぐらいしかないだろうと納得する。後ろに回り込まれた気配を一切感じなかったのだ。

 シンは肩を竦める。


「今のが当たらないんじゃどうにもならないな。……なんにせよ、これで終わりでいいよな?」

「なんだ、もうできることはないのか?」

「この間合いじゃ打つ手はないさ。……どう頑張ってもあと三手で終わりだな」

「―――なんだと?」


 ティールはその言葉に眉を顰める。

 それはつまり、二手は防げるというものだからだ。

 ティールにはここまで来れば、この距離であれば一撃で仕留める自信があった。それを防ぐことができるというのであれば、それはティールの想定を上回っていることを意味する。


「構えろ」


 そう宣言すると、ティールは斬り掛かる。

 神速の一撃。

 シンはそれに反応すらできなかった。

 それがシンの体にぶつかる直前、なにもないはずの空間で何かにぶつかり剣が阻まれる。それは自動発動した錬金道具であり、シンの体の周囲に見えない障壁を展開するものだった。

 強烈な一撃により、硬い音を立ててその障壁に亀裂が奔る。それと同時に障壁は砕け散り、攻撃したティールの剣に強烈な反動が掛かる。

 それにより剣は弾かれるが、ティールはその勢いを利用してくるりと回転し逆から斬り掛かる。

 それをシンは籠手で受け止める。だがそれもたった一撃で砕かれてしまう。

 そして、次の瞬間にはティールの剣がシンの首元に突きつけられていた。


「……な? どうやっても三手で終わるって言っただろ」

「よく言う。それでも反撃しようとしていたのだろう?」

「そりゃ、やるだけのことはやるさ」


 ティールに比べれば遅く、どうやっても間に合わないことはわかっていた。それでも、シンの右腕にはいつの間に持っていたのか杖が握られていた。

 最後にティールはふっと笑う。


「―――やはり面白い結果にはなったじゃないか」

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『36.才能』10/06 21:00投稿となります

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