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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第三章 『悲嘆のメルクーア』
28/71

28.剣

 聖なる実の代金についての精算を終えると、ミリカはゆっくりと店を出ようとする。


「―――何か悩みでもあるのか?」


 その背に向けてシンは問いかける。

 その声にぴくりと体を震わせると、そのまま顔を伏せて表情を歪める。

 ミリカ自身にその意識はなかったが、改めて考えてみればまるでそれを催促したような振る舞いだったことに気付いたからだ。

 諦めたように大きく息をつくと、シンの方に振り返る。


「たいしたことじゃないんだけどね。……最近、ちょっと自分の弱さが気になっててね」


 森の中へ入ることで困ることはあまりない。知り尽くしている森で危険な目に合うこともほとんどない。

 それは逆に言うと森に入ってばかりで他へ目を向けていないということなのだ。自分はずっとここにいるだけ、そのままどこへも行けない。

 それは別にここが嫌なわけじゃない。どこかへ行きたいと積極的に思っているわけでもない。だけど、行けないのと行かないのは違う。

 自分に力があって、それでも今のこの場所を選ぶのであればそれでもいい。だけど無力なままでは選択もできない。


「……みたいな話をしたんだよねぇ」


 先日、師と手合わせをしているときにそんな話になった。

 あまり鍛錬に身を入れていないミリカのことが気になったのだろう、独り立ちさせることを考えればこのままではいけないとサナノスも考えたのかもしれない。

 それでもミリカはどうにもできない。自身に戦闘の才能がないことは理解しているつもりだ。時間をかければ多少はましになるかもしれないが、その多少のために時間や労力、様々なものを費やすことを考えるとやはり二の足を踏んでしまう。

 何か踏み出すためのきっかけや道筋が見えればと期待しているが、何が起こるわけでもない。


「何かやりたいことがあるってわけじゃないんだけど、何もできないってのはちょっとね……」


 シンは難しい表情を浮かべる。

 言いたいことはわかるが、そこまで卑下すべきことでもないように思う。

 きっと自信がないのだろう。

 つまりはそういう話なのだ。自身の弱さが劣等感のようなものになり、そこから不安が生まれての悪循環。

 そこまで考えてシンの中に不思議な感情があることに気づいた。

 そのミリカの気持ちがよくわかるような気がするのだ。

 それがなぜかはわからない。確かに、シンも自分がそれほど優れた存在だと思っているわけではないし、天才であるアイシスと比べたならば自分が劣っていることは理解している。

 劣等感のようなものがないかと言われればそんなこともない。

 だけど、そこについてさほど思い悩んだことはない。理由はわからない。それがアイシスの性質によるものなのか、二人の関係によるものなのか。

 あるいは、シンがそういう性格なのか。だけど、なぜだかそれは違う気がした。


「―――シン?」

「あ、ああ。……なんでもない」


 自分の言葉に深く考え込んでいる様子のシンにミリカが不思議そうに尋ねると、シンは思い出したように顔を上げる。

 気まずそうに目を彷徨わせるミリカが目に入る。


「それで、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんだ?」

「ええっと、ね。……剣を作ってもらえないかな? シンの剣があれば少しは自信が持てるような気がするんだ。昔は作ってたよね?」


 シンは僅かに顔を歪める。

 本当は盛大にため息つきたいところだったが、さすがにそれをするとミリカが気に病むことになる。


「昔は、な。今はもう剣……武器の類は売ったりしないことにしてるんだ」


 ミリカは昔のシンに詳しいわけではない。

 シンたちがここに店を出したということも当時はすぐに知ったわけでもないし、知ってからもその詳細についてはよくわからないままだった。おもちゃ屋のようなものだと思っていたくらいだ。

 だけどある日、シンたちが貴族相手に商売をしているということを噂で聞いた。その商品は美術品のようなものだと。そして、その美術品の中に剣や槍などの武器のようなものも含まれているらしいと。

 そのまましばらく経ち、シンと関わりを持つ頃にはもう剣を売ってはいなかった。


「どうしてやめたの? 剣とか貴族好きそうじゃない?」

「まあ、な。……評判は悪くなかったよ」


 むしろ良かった。

 美術品としてのシンの剣の評判は高かった。

 その当時はそれほど名が知られているわけではなかったが、それでもどこからかその評判を聞きつけた貴族がこっそりと買いに来ることがあった。

 そんなある日、一人の冒険者を名乗る男が店を訪れた。

 その男は腕の立つ冒険者だった。能力的には言うなれば中級と上級のちょうど狭間といったところのなかなかに優秀な冒険者。

 もっと強くなり優秀な冒険者になりたいという野心を持ちつつも、自分の立ち位置はこれくらいが分相応だという諦観も持っていた一般的な冒険者でもあった。

 そんな彼がシンの剣を求めてやってきたのだ。

 当然、シンは断った。シンの創る剣は武器ではない。あくまでもただ眺めるための用途でしかないのだから。そんな剣を持ったところで冒険者として強くなれるわけでもない。むしろ、危険を招く可能性の方が高い。

 だけど、男の目的は違った。

 男には冒険者として生きていく上でもう一つの目的のようなものがあった。それは武器の蒐集だ。あるいは趣味と言ってもよかったのかもしれない。ただ珍しい武器を集めるということに喜びを感じていた。

 その珍しい武器、というところでシンの剣が目に留まったのだ。

 最初は渋っていたシンだったが、何度も説得された結果、絶対に誰にも見せたりなどはしないからと言われ、そうまで言うならとその頼みを受け入れた。結局のところ、それは貴族が美しい芸術品を集めることとそう変わらないからだ。

 その約束を男はしっかりと守っていた。そのはずだった。だけど、それが自然の摂理なのか、どこからか密かに噂は広まった。男が何か強力な武器を持っているらしいと。

 その男すら知らなかった噂はある冒険者の一団に届いていた。その一団は男より少し格上の冒険者たちだった。そしてその噂を聞きつけ、その男を仲間に迎え入れようとしたのだ。

 幸か不幸か、男にはそれなりの実力があった。その一団にぎりぎりついていけるだけの力を持っていたのだ。だから気付くことができなかった。自分の実力のみが認められたのだと思ってしまった。

 そしてその一団の仲間入りをした男は任務の途中で命を落とした。

 特別難しい仕事だったわけではない。男が別段冷遇されていたわけでも、無理なことをやらされたわけでもない。

 ただ、死という冒険者であれば誰にでも起きうる結果が訪れただけだ。


「……それは、しょうがないんじゃ? 別にシンの責任ではないでしょ」

「まぁ、そうだな。……別に俺のせいだなんて言わないよ」


 無関係だとは思わない。だけど、選択をしたのは彼らだ。その責を負うほどにシンの剣が重要な要素を担ったと思っているわけではない。


「それで終わりじゃないんだ」


 話は続く。

 男が死んだのは任務の途中だった。だから、男が欠けたとしてもその一団の任務は続いていた。

 そして、その一団のうちの一人が男の荷物を漁ったのだ。それは単に我欲というわけでもない。男が持つというその強力な武器があれば状況がもっと楽になるはずだと判断したのだ。自分のためにも仲間のためにもそれが一番いいはずだと。

 それはすぐに見つかった。一際異彩を放つシンの剣は強力な力を内包しているように見えるため、ひと目でこれだとわかったのだ。

 そして、それを手にすると魔獣に斬りかかった。

 その瞬間、シンの剣は軽い音を立てて砕け散り、返り討ちにあったのだ。


「―――結局、俺の剣が関わって二人が死んだ」

「それは……」


 言いかけてミリカは口を噤む。

 シンが悪くないというのは簡単だ。だけど、そんなことを言ったとしても意味はない。そんなことはシンだってわかっているはずだ。

 冒険者たち自身の決断について、シンがどうこう言えることはないのだから。彼らが自分で決めた結果についてシンが責任を負うなどおこがましいことではある。

 それでも、ただ割り切れない。それだけの話だった。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『29.強さ』09/29 21:00投稿となります

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