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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第三章 『悲嘆のメルクーア』
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27.聖なる実

第三章『悲嘆のメルクーア』

 王都から帰還したシンとアイシス、二人はこれまでと同じような暮らしへと戻っていた。

 ただ、少しだけ変わったこともある。これまでよりも錬金術に力を入れるようになったのだ。商売をするためのものではなく、自分たちのために。


「―――これでよかった?」


 シンの工房、そこを訪れたミリカが机の上にどさりと袋を置く。

 そこまで大きなものではない。片手で持てる程度の大きさではあったものの、その中にはこぼれんばかりの木の実が詰め込まれていた。


「ああ、これでいいよ。ありがと」


 その袋の中身を確かめながらシンは礼を言う。


「……けど、何に使うの? 聖なる実なんか」


 それは聖なる実と呼ばれる特殊な実だった。その呼び名のとおり僅かではあるが聖なる属性を帯びた木の実であり、見つけることはそれなりに難しいものの、あまり使用用途がなく、需要もそれほどあるわけではない。

 だからこそ一般の人間には正式名称すら忘れられてしまい、ただ聖なる実と呼ばれているのだ。


「基本的には修行のため、かな。……少し試したいことがあってね」

「基本的には?」


 そう尋ねられて少しだけ困った表情を浮かべる。そこを説明するとなるとなかなかに難しい話になる。


「備えあれば憂いなし、って感じかな……」

「ふーん、まぁいいや。私にはあんまり関係なさそうだし」

「そうだな。ミリカに危険はないと思うよ。たぶん」


 苦笑しながらシンは答える。

 それは本当なんだろうな、とミリカも納得する。勘のようなものでなんとなくわかる。おそらくはミリカとは関係のないことなのだろう。


「何にせよ、買い取ってもらえるのはありがたいよ。それなりの稼ぎになるしね。……でも、ほんとにいいの?」

「いいよ。これくらいは」


 何が、とはシンも尋ねなかった。ミリカの言いたいことはわかっているからだ。

 聖なる実の採取は実は簡単ではない。それなりに森の奥に入らなければならず、慣れたものでなければ見つけるのにも一苦労だ。

 そのうえ、聖なる力を内包しているとはいっても、一般人にとってそれは必要なものではないため、特に需要があるわけでもない。これを必要としているのは教会くらいで、それも特別な儀式のときなどに使われるにすぎない。

 しかも、そういった儀式を行うような大きな教会にはたいていこの木が植樹されており、それほど多くではないものの、自分たちで実を入手することができるのだ。そこから必要があれば小さな教会に届けられる。

 この街の教会でも、ほとんど使うようなことはないが、必要になったときには大きな教会から援助を受けているらしい。

 だから、この実を手に入れたとしても使い道がない。そのため買い取り価格はその珍しさに比べてかなり低いことになる。

 その実を、シンは相場のおよそ倍の値段でミリカから買い取っているのだ。


「お金には余裕があるし、それに、必要なものだからな」


 申し訳なさそうにするミリカにシンはそう答える。

 ミリカからすれば森に入ったついでに採ってきただけであり、少し遠回りをする程度でさほどの労力もなく、これだけの利益を得られて困惑すらしていた。

 だけど、それはミリカからすれば、という話であってシンから見れば少し事情は異なる。

 実際の問題として、そもそもミリカに頼らなければ、シンはこれだけ大量の聖なる実を入手することができないのだから。


「ふーん、私は助かるからいいんだけどさ。じゃあ、また森に入ることがあったらそのときは実を集めておくよ」

「頼む。たぶん必要な期間はそんなに長くはないと思うけど」


 ミリカは頷く。

 シンが何のために実を集めているのかはわからないが、その何かが終わればもう実は必要なくなるだろうことはわかる。

 なら今のうちに稼がせてもらおう。


「けど、品質はだいじょうぶなの?」

「ん? 問題ないけど……どうして?」

「前に言ってたじゃない? 物の品質と錬金素材としての品質は違うって」

「ああ、それか。……間違ってはないんだけど、全く違うってわけでもないんだよなぁ」


 シンは少し考え込むと、袋の中から実を二つ取り出してミリカの前に並べる。


「この二つはどっちが品質がいいかわかる?」

「えーっと、それはこっちかな?」


 ミリカがその片方を指差すと、シンは頷く。


「じゃあ錬金素材としてはどうだと思う?」

「それは……わからないよ」


 ミリカは首を横に振る。

 ミリカの目には錬金術に何が求められているのかわからないからだ。そういった部分においてこの二つにどのような差があるのか見当もつかない。


「実は錬金素材としても同じなんだ」

「……そうなの?」

「絶対、ってわけでもないけど、大抵の場合は品質が良くて採れたてのものであれば、錬金素材としての品質も自然と高くなるものなんだ」


 もちろん、何においてもそうというわけではないし、いつもそういうわけでもない。

 錬金素材としてはそれに込められている魔力や元素、その他の要素も関わってくるため、あくまでそういう傾向にあるという話だ。

 だけど、そういう傾向にある以上、ミリカがその目で品質を見定めて採ってきたものは、それなりの品質を持っているのだ。


「ただ、物によっては品質の意味がだいぶ異なってくるからな。……この実の場合はそうだけど、なんでもそうってわけじゃない」


 腑に落ちない、といった表情のミリカを見て、シンは話を続ける。


「そうだな……たとえば食べ物で考えてもらえればわかると思うけど、おいしい食べ物って品質が高いと思う?」

「え? そりゃ……そうなんじゃないの?」

「ところがそういうわけでもない」


 当たり前の話だが、食べ物というのは基本的には調理するものだ。つまり、そのままの物と焼いて調理した物、おいしいのはどちらかと問われたならば大抵は調理した方だろう。だけど、錬金素材として考えれば何も加工していない方が品質は高いのだ。

 なるほど、とミリカは頷く。

 確かに焼いて余計なものを付着すれば質が低くなると考えればそれはすんなり腑に落ちる。


「食べ物で考えると、その基準が人間の舌になるんだ。……よく言うだろ? 腐りかけのものがおいしいとか」

「あーあるね。そりゃそうか。確かにそういうものが錬金素材として品質が高いとは思えないね」

「一概には言えないけどさ。錬金素材とするなら、基本的にはやっぱり新鮮であればあるほど品質は高いわけだ。……もちろん、詳しく言うとそれだけの話じゃないけど」


 ミリカはこくこくと頷く。

 そういった意味で言うならば確かにこれらは品質的に悪くはないのだろう。ミリカの目から見てそれなりに新鮮で綺麗なものを採ってきたつもりだ。そのミリカの目が確かである以上、素材としての質も悪くはないということになる。


「……じゃあこんなに採ってきていいの? 新鮮な方がいいなら必要な分を必要なだけこまめに持ってきた方がいいんじゃないの?」

「もちろん、最善を考えればそれはそのとおりなんだけど。さすがにそこはある程度の妥協が必要だろう。あまりそこに気を取られすぎても本末転倒だからな」


 必要なときに採れたてを使う。最高の結果を目指すのであればそうするべきだろうが、それではどうしても効率が悪すぎる。多少の素材の劣化には目を瞑らなければ、ろくに錬金もできないということになる。

 特に、今の目的は最高品質の錬金道具を仕上げるということでもない。ある程度の品質を確保したうえで、腕を磨くこととそれなりの数を創り上げることが目的だ。


「完全に、ってのは難しいけど品質の劣化を防ぐことはできるからな。この袋もそうだし」

「ああ、そういう効果もあるんだ」


 木の実の詰まった袋。これもシンがミリカに持たせたものなのだ。見た目以上の広さと素材の劣化を防ぐという効果を持った錬金道具。


「ってことで気にせず採ったら持ってきてくれてかまわない」

「わかった。そういうことなら小遣い稼ぎに利用させてもらうよ」

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『28.剣』09/28 21:00投稿となります

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