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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第二章 『偽物の竜秘玉』
26/71

26.向上

「ほんとに、よかったの……?」


 アイシスにそう尋ねられてシンは苦笑を漏らす。そんなシンを見てアイシスは不服そうに目を細める。


「なんで笑うの?」

「ああ、ごめん。逆になったな、と思って」


 叙勲の式典はつつがなく終わった。

 そしてその翌日、シンとアイシスの二人はミネヴァたちに挨拶をすると、手配してもらった馬車に乗りセルフェンの街へと向かっていた。

 叙勲は簡易的なものだと言われていたのは間違いではなく、ほんの僅かな時間に叩き込まれたことをそのままこなすだけでほぼ完璧に振る舞うことができた。

 もちろん、目端の利く貴族の目から見れば多少の粗もあっただろうが、それをわざわざ追求する必要がない程度には十分だった。

 ただ、褒賞を与えられる場面になり、少しばかり問題が生じた。

 王はそれなりの金か物をシンに与えるつもりだったのだが、シンはそれらのものを求めなかった。


「だって……『錬金術の周知と発展』って。シンは欲しいものとかなかったの?」

「ないよ。だからそれでいい」


 シンが王に求めたのは錬金術の周知と発展、それだけだった。国の方針として、錬金術の技術を向上させてほしいと願った。他にはなにもいらないと。

 王としてはこれを機会に錬金術を広めていくことはすでに考えていたことだ。誰にも治療することができなかったアスナを完全に回復させたことから、錬金術が極めて強い力を持っていることは理解できたし、それが国の力を強くする可能性に繋がると思えたからだ。

 だから、王にとってそれは特に褒美にもあたらなかった。

 だが、シンがそれを強く望んだことで最終的にはそれを褒賞として納得したのだ。


「でも、それじゃ……ううん、なんでもない」


 アイシスは言いかけてやめる。これ以上言っても益体もないことはわかっている。

 シンにはあまり物欲がないことは知っている。あるのは自分でいろいろなものを創り出したいという強い欲だ。

 もちろん、生きていく以上、それなりの金銭などは必要となるが、そのくらいのお金はシンも持っている。時折、貴族相手に商売をしていることがそれなりの金額になっているのだ。それほど高額で売りつけてはいないが、さすがに芸術の国の貴族はそれなりに金払いもいい。

 だから、欲しいものがないと言ったのも本当のことだろう。これ以上の追求に意味はない。

 それに、アイシスにはわかっている。その錬金術の周知と発展というのがアイシスのためのものだということに。

 そして、それを嬉しいと思ってしまったという理由もある。

 もちろん、アイシスのためにしたことが、結果としてシンに巡るということも紛れもない事実なのだ。あまり追求しすぎてアイシスのためじゃなくて自分のためだと言い切られてしまえばそれは少し悲しい。わざわざ余計なことを言うこともないだろう。


「シンがいいなら、それでいいよ」

「ああ。……この国で錬金術の研究が進めば何か俺たちの特になるものが見つかることもあるかもしれないしな。……あんまり期待しているってわけでもないけど」


 シンの思惑としてはもともとそれが狙いではない。

 錬金術というものがこの国で広まって、それが有益なものだと多くの人間に認められれば、いずれはこの国の中だけの話ではなくなる。他の国も興味を持つだろう。

 非常に強い国力を持つリオヴァルガ帝国も、強い軍事力を持つガエメニ国も、それが使えるものだと考えれば取り入れようとするだろう。

 アイシスが名乗りを上げるのはそのときでいい。あるいは、もう少し先延ばしにして錬金術が広まった後に自身の力を示すのもいいだろう。それはアイシスが決めればいい。

 それがシンの狙いだ。

 だけど、それ以外にも直接的な利益を得られる可能性がないわけではない。

 たとえば、錬金術の歴史を掘り起こした結果、過去に残された何かが見つかるかもしれない。文献や錬金道具、シンたちでも想像がつかないものが存在しないともかぎらないのだから。それに、有用な珍しい素材が手に入る可能性も上がるかもしれない。

 もしもそういったものが見つかるならば自分たちの力の向上にもつながるだろう。

 なにせ、自分たちはまだまだ未熟なのだから。


「アイシスも聞いただろ? ミネヴァのお母さん、竜秘玉じゃなくても治せてたって」

「え、うん……。それは、間違ってはないけど……」


 突然尋ねられたアイシス言葉を濁す。

 確かにその話は聞いた。

 竜秘玉は錬金術の秘奥とも言える錬金道具だ。言い伝えでは死者すら蘇らせるほどの力を持つという話すらある。実際に、そこまでの力があるのかと問われればアイシスとしても素直には頷けないが、そう言われるのも納得できるくらいには凄まじい力を秘めた道具だというのは理解している。

 だからこそ、邪竜の呪いなどという規格外の呪いを消し去ることができたのだ。

 だけど、それは竜秘玉でなければ叶わなかったかというとそういうわけでもない。他にも方法は存在する。


「間違ってはないけど、でもそれって本物の秘宝とかのことでしょ?」


 その話自体はアイシスも聞いていた。

 そして、それが実質的には不可能だということも。

 邪竜の呪いを解く方法は竜秘玉以外にもある。それも一つ二つではなくいくらも。もちろんその中には不確かなものもあり、実際にやってみなければわからないというものもあるが。

 アイシスが創った竜秘玉とは違い、それらを入手するには多大な出費や労力がかかる。やってみてできなかったでは取り返しがつかないほどの。

 その中で、おそらく確実に解呪できるだろうというものもあった。それが聖なる力の総本山とも言えるアークアリア聖国の秘宝だ。

 それはアークアリアの大教会に安置されている国宝であり、他国に持ち出すことなどまずありえない。それも、たった一人の命を救うためだけになど。

 だからどれだけ求めようともこの国がそれを手に入れることはできなかっただろう。だけど、それと同時にそれがあれば呪いを解き、アスナの命を助けることができたはずだとも考えられていた。

 だから実質的には不可能だとアイシスは言った。

 それでも、可能なのだ。

 つまり、アイシスの創り出した竜秘玉は唯一無二と言えるほどの力を持ってはいないということを意味する。


「……つまり、私がまだ未熟だってこと?」

「俺も、な。それから錬金術自体もまだまだ未熟だ。きっともっとすごいものが創れるはずだ。想像を絶するくらいのものが」


 そのくらいのものが創れなくてはならない。

 そうでなければシンの目的が果たせない。そのためにシンはアイシスの錬金術の腕を鍛えているのだから。

 それが二人の契約だ。

 お互いの目的のために。

 アイシスはアイシスの目的のために、シンはシンの目的のためにアイシスの実力を磨く必要があるのだ。

 シンには錬金道具は創れないのだから。

 それでもできることがあるならそれをするだけだ。

 アイシスだけではない。シン自身もその力を鍛えておかなければならない。たとえそれが錬金術ではない何かだとしても。

 他にもまだできることはある。

 錬金術に必要な三つの要素。工房、素材、術者。

 工房をより優れたものにすることもその一つであるし、より多くの、そしてより品質の高い素材を入手するための経路や情報を入手することもその一つだ。

 それ以外に予想もできない何かもあるかもしれない。そのための、何かあったときの準備をしておくことも必要だ。


「何にせよ、まだまだやることはいくらでもあるし、時間はいくらでもかかる。そんなに焦ることはないさ」


 そう言いながらシンは笑う。


「……うん」


 アイシスは懸念があるのか、少しだけ不安そうに頷いた。

 本当に、それだけの余裕が残されているのだろうかと。




第二章『偽物の竜秘玉』終

以上で第二章は終わりとなります。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。

次回から第三章『悲嘆のメルクーア』始まります。


次話『27.聖なる実』09/27 21:00投稿となります

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