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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第二章 『偽物の竜秘玉』
24/71

24.目的

 アスナが再び眠りに就くのを見届けると、王はミネヴァに二言三言小さく告げると医者たちと共に部屋をあとにした。

 部屋に残されたのはシンとアイシス。それにミネヴァとネリア、そして侍女が一人だった。

 ミネヴァはちらりと母であるアスナが穏やかに眠っている様を一瞥すると、小声でシンたちに提案する。


「……部屋を移しましょう。少し話すことがありますので」


 シンとアイシスは一度視線を合わせると、ミネヴァに対して頷く。それでいいと。

 ミネヴァの先導に従い、その場にいた五人は応接室を訪れた。


「―――改めてありがとうございました。母の命を救っていただいて」


 そう言って深く頭を下げるミネヴァに合わせて、ネリアと侍女も同じように頭を下げる。

 何と答えるべきかわからず、シンは助けを求めるようにアイシスに視線を向ける。アイシスは呆れたように苦笑する。


「姫様、感謝のお言葉、ありがたく存じます。私共としても殿下のお力になれたことを光栄に思います。……そして、友人としてもあなたの母君を助けられたことを嬉しく思います」

「……ありがとうございます」


 アイシスの言葉にミネヴァは安心したように微笑みを見せると、もう一度小さく頭を下げる。

 そして、侍女を残して四人が席に着くと、今後のことですが、とミネヴァがシンに切り出す。


「貴方はこれから謁見の間において陛下から叙勲を受けることになります」

「……叙勲って?」

「功績を讃えられる式典ですね。それほど仰々しいものではなく簡略化されたものになるとは思いますが」

「と、言われても……」


 どうしたものかとシンは眉を曲げる。

 言われていることはわかる。シンたちからすれば友人の母を助けたにすぎないのだが、側妃とはいえ彼女が王の妃であることは間違いない。

 そして、シンからすれば特に強く印象に残っているわけではないが、アスナは聖騎妃と呼ばれるほどの国にとって重要な騎士でもあり、ドラゴンゾンビと戦った英雄でもある。


「……俺でいいのか? アイシスじゃなくて?」

「ええ、先程そういうことで話は進みましたから」

「だよなぁ」


 シンはため息をつく。それについてはもう終わった話なのだから。

 だけど、どうしてあんなことを言ったのかは気になっていた。


「アイシスはどうして自分が受けなかったんだ? アイシスの目的を考えるとその方が良かったんじゃないのか?」


 まだ早い、という言葉の真意がわからなかった。

 確かに早いという意味は全くわからないでもない。もっと錬金術というものが広まってから、そこから名を上げるというのがアイシスの望みだということなのだろう。そういう流れの方がアイシスにとっては都合がいいのかもしれない。

 だけど、その先後が逆になったとしてどれほど問題が生じるというのだろうか。そこを考えるとどうにも首を傾げざるを得ない。


「いろいろ考えると、これが最善だと思ったの」

「……まぁアイシスがそう望むのならそれでもいいんだけどさ」


 そう言われればそう頷くしかない。

 詳しく聞けないわけではないが、それをこの場で追求するようなことでもないだろう。

 ただ、気は重い。


「では……ユフェン」

「はい」


 ミネヴァが侍女にそう呼びかけると、侍女は返事をして一歩前に出る。


「彼のことはお願いしますね」

「かしこまりました」


 ミネヴァの言った彼、というのが自分を指しているのは明らかではあるが、それが何を意味するのかわからずシンは首を傾げる。

 そんな様子を見てミネヴァは微笑みを浮かべながら説明する。

 それはもちろん謁見の間において行われる叙勲についてだ。

 付き合いが長いというわけではないが、ミネヴァはシンのことをある程度わかっている。おそらくは貴族のお嬢様であろうアイシスとは違ってシンはそういった作法を全く知らないはずだ。

 そして、そういった知識どころか一般的な常識とも言える知識ですらところどころ欠けていることも。

 だから謁見の作法について侍女のユフェンにその教育を任せようという話だ。


「付け焼き刃にはなるでしょうが、簡易的なものでしょうしそれで十分だと思います」

「……まぁ、そりゃ、助かるけど」


 シンは苦笑しながら肩を竦める。

 この状況になってしまったこともあるが、ここに至るまでこうなることに気が付かなかった自分にも。

 今になって考えてみればそういうこともあるのは当然だと理解している。こういったところは確かに常識がないのだろう。ミネヴァの言うとおりだ。


「こちらへどうぞ」

「ああ、ありがとう」


 ユフェンの案内に従い部屋を出ようとしたところ、後ろから声がかかる。


「―――ユフェン」

「はい」


 そのミネヴァの声色にシンは思わず振り返る。これまでに聞いたことのない圧力があったからだ。


「彼は貴族ではありません。知らないことも多いでしょう。ですが、敬意を払いなさい。彼は大切な客人であり恩人です」

「無論、承知しております。そのお言葉をしかと心に留めておきます」

「ええ、よしなに。……ただ、敬意を忘れなければどれだけ厳しくしても構いませんから」

「かしこまりました」

「おい」


 思わずシンが口を挟むと、ミネヴァはふふっと笑う。

 どうやらからかわれたのだと気づいて、シンは思わず顔をしかめる。そして、諦めたようにため息をつき、ユフェンの後に従い部屋を出る。

 それを見送った三人は顔を見合わせると軽く笑い合う。


「これでよろしかったのですか?」


 先ほどまでの話から、アイシスはこれで納得しているということを理解しながら、それでも確認のためにとミネヴァは尋ねる。

 こうなってしまえば師匠であるシンはともかく、アイシスは何も得ることができないのだから。

 それに対してアイシスは頷く。これでいいと。

 ところで、とミネヴァは切り出す。


「聞いていいのかはわかりませんが、お二人の『目的』とはなんなのでしょうか?」


 それは単純な興味ということもあったが、何かできることがあれば力になりたいと考えたからだ。

 その質問にどう答えたものかとアイシスは考え込む。もちろん、話せないわけではない。だけど、自分のことについてはともかく、シンについてどこまで話したものかと考える必要があるのだ。

 勝手に話すことも憚られるが、それだけでもない。アイシスもシンの考えを完全に把握しているわけではないからだ。


「……まず、私とシンでは目的は違います」

「そうなのですか?」


 ミネヴァは意外そうに首を傾げる。

 二人は常に協力している印象があり、その目的も深く結びついているものだと思っていたのだ。

 だが、考えてみればそうなのかもしれない。二人が極めて親しい仲だというのは間違いないだろうが、あの街では違う店を出していたのだ。それにどういう理由があるのかはわからないが、二人の目的が違うというのであればそれも納得がいく。


「私の目的は……現状で一番大きなものはやはり家のことでしょうか」


 そう言いながらアイシスはネリアに視線を送るが、ネリアは首を横に振る。


「ミナ様にはアイシスのことは何も話してない」

「……律儀ですね」


 アイシスは苦笑する。

 確かにあれはアイシスとネリアの二人だけでの私的な話ではあったが、それを主であるミネヴァに伝えたとしてもアイシスは別におかしいことだとは思わない。何かあったときのためにも情報を共有しておくほうが主を守るためにも妥当なはずだ。

 だからそうであったとしてもアイシスは何とも思わなかっただろう。

 だけど、ネリアはそうしなかった。

 それはネリアがアイシスのことを友人と思っているからというだけではなく、ネリアにとってミネヴァとアイシスもまた友人だからだ。だからこそ勝手にアイシスの素性を話すべきではないと考えたのだ。アイシスから伝えるべきことだと。

 アイシスはゆっくりと席を立つと、ミネヴァに向かって丁寧に一礼する。


「―――改めまして、私はアイシス・フォン・メルクーアと申します。隣国ガエメニ国のメルクーア侯爵家の末妹となります」

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『25.悲嘆』09/25 21:00投稿となります

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