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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第二章 『偽物の竜秘玉』
23/71

23.褒賞

 光が収まり、流れる沈黙を破ったのは王であるフェバス・ソル・ミスラだった。


「アスナよ……」


 妃の名を呼ぶ。

 アスナはかすかに身動ぎをすると、やがてゆっくりと少しずつその目を開く。

 その様子に周囲からは安堵の息、そして緊張が流れる。


「……陛下」

「おお、目覚めたか。……体の具合はどうだ?」

「え? ああ、体、ですか?」


 そこでやっと状況に気付いたのか、目を見開いたアスナは横たわったまま手足を軽く動かして確かめる。そして、何もないことを理解して瞠目する。


「……何も、問題ありません。全て治っています」

「おお、そうか。……そうか」


 フェバスは一瞬だけ顔を綻ばせると、すぐに自身の背後に視線を送る。

 それを受けて王の背後に控えていた司祭が軽く一礼するとアスナの状態を確認する。その様子をフェバスは険しい眼差しで眺める。

 そしてしばらく経ち、司祭は緊張を解かれたように大きく息をつく。


「……呪いは完全に消えています。もう何の心配もないかと」

「そうか……それは良かった……」


 その司祭の言葉にフェバスは感嘆の息を漏らす。

 ミネヴァも喜びに笑みを浮かべ、ネリアもまたそのミネヴァに抱きつくように寄りかかる。

 やっと、母を苦しみから救うことができたのだ。

 王が指示をすると、次に医者がアスナの傍へと出る。そして、診察を終えると先程の司祭と同じように大きく息をつき、王に報告する。全て治っていると。


「ただ……」


 困惑したような表情を浮かべ医者は続ける。

 治っているのは間違いない。むしろ治りすぎているのだ。呪いによる体への悪影響のみならず、戦闘で負っていた傷までもが治っているのだから。特に、もう剣を振れないかもしれないとまで言われていた利き腕の負傷まで完全に癒えているのだ。

 それが先程使われた錬金道具によるものだとは医者も理解している。

 その凄まじいまでの回復力に恐ろしさすら感じてしまうほどに。

 もちろん、それ自体になにか問題があるわけではない。治ったのはよいことだ。それは間違いない。

 その報告を聞き、王もまた複雑な表情を浮かべる。それほどまでの力を目の当たりにして、ただ良かったと喜べるほどに能天気でもなかった。

 だが、視線を動かすと、そこには何の含みもない心からの笑みを浮かべるミネヴァの姿が目に入った。ミネヴァがただの愚かな娘でないことはフェバスにもわかっている。そのミネヴァがこのように安心した姿を見せているということは、直ちに問題が起こるようなことはないのだろうと判断する。

 きっと、これでよいのだろうと。


「それから、全て治っているとは言いましたが、体力の方はまだ戻っていませんので、しばらくは安静にする必要があります。……そこについては徐々にというのがよろしいかと」

「む? ……そうなのか?」


 医者に続けられた言葉にフェバスは首を傾げる。確かにこうして見るとアスナは今すぐに動けるといった状態ではなさそうだ。その言葉は正しいのだろう。


「そこまで回復することはできなかったのか?」


 だからフェバスはシンに尋ねる。これほどの呪いを完全に解呪することができたのだ。それができないことだとは思えなかった。


「できなくは、ないです。緊急を要する状況であればそうするのが良かったと思います。ですが、その分体への負担は大きくなります。時間に余裕があるのであれば、自然回復したほうが体にはいいと思います」

「……ふむ、そういうものなのか?」


 シンの言葉を受けてフェバスはそう呟く。それは特に誰かに尋ねたというものではなかったが、医者はそれに答える。


「はい。アスナ様のお体を考えるとその方がよろしいかと」


 王は頷くと再びシンに向き直る。


「……錬金術というのはこれほどの力を持っているのか?」

「と、おっしゃいますと?」

「錬金術を扱えるものであれば誰でもこれくらいは可能ということなのか?」

「ええと……」


 シンは言葉に詰まる。

 もちろんシンには創れない。だがさすがにシンといえども自分が極めて特殊な錬金術士であることは理解している。そして、これは天才錬金術士であるアイシスだからこそ可能であったということもわかっている。

 アイシスが天才なのは間違いない。だけど、一般的な錬金術士がどの程度までできるのかということについてはシンもあまり把握していないのだ。

 ただ、天才とはいえアイシスがこの年で成し遂げることができたものだ。それなりに長い修練を積めば一般的な能力しか持たないものであろうといずれは可能であろうとは考えられる。

 シンは助けを求めるようにアイシスに視線を送る。実際にこれを創ったのはアイシスなのだから。


「……誰でも、というのは難しいかと思います」


 アイシスは答える。


「それはどういうことだ?」

「錬金術というものは才能への依存が大きいです。それはそもそもの前提として錬金術を扱う才能が必要だというのもそうですが、そこから先にも上へ進むための才が求められます」


 とはいえそれは錬金術に限った話でもない。

 剣を使うにも魔法を使うにも、それを極めるとなれば才能が必要となる。簡単に言えばそれだけの話だ。

 それは魔法に似ているかもしれない。魔法もまた誰にでも使えるわけではない。契約を結び魔法を行使できるのはその才能を持つものだけだ。そして、その全員が上級魔法を使えるようになるわけではない。魔法を使えるものの中でさらに才あるものにのみ許される力なのだ。

 そういう意味では錬金術と同じであろう。

 だけど、現状では魔法と錬金術には大きな違いがある。

 それは数だ。

 魔法を使えるものは多い。その理由は簡単だ。魔法を使おうと考えるものが多いからだ。

 そこが錬金術とは違う。そもそも錬金術を知っている人間がほとんどいないため、その才能を持っているかどうかというところまでたどり着くものも当然少なくなる。

 だからこそ埋もれたまま消えてしまった錬金術の才能は数知れないはずだ。

 現在、錬金術を扱うもののほとんどがその才能に満ち溢れているゆえに錬金術を選んだというわけではなく、他に進むべき道を見つけることができなかったために、錬金術という分野にたどり着いたにすぎないのだ。

 それはアイシスですら同じだ。ただ、結果としてたまたまアイシスが錬金術の天才だっただけなのだ。

 ゆえに、これを創り出せるものはほとんどいないだろう。


「なるほどな……」


 何かを考えるようにフェバスは目を伏せる。そして、しばらく経ち視線をアイシスに戻す。この錬金道具を創ったアイシスへと。


「何にせよ偉業を成し遂げた貴様には褒美を取らせねばならぬな」

「いいえ。陛下のお言葉はとてもありがたきことではございますが、それを受けるべきは私ではありません」


 アイシスは首を横に振る。


「確かにこの竜秘玉を創り上げたのは私ではありますが、それは師である彼の力添えあってのこと、私はその最後の仕上げをしたにすぎません。そして、実際に妃殿下の呪いを解いたのも師によるものです。陛下の褒美を賜るのであればそれは師であるべきかと」


 そう言いながらアイシスはシンに視線を向ける。

 その動きにつられてその場にいる全員もシンをじっと見つめる。

 王もまたシンの目を見つめる。それでよいかと。

 一方のシンは困惑していた。アイシスがなぜそのようなことを言うのかわからなかったからだ。

 アイシスの言うことが間違っているわけではない。少しばかり脚色が入っているとはいえ、アイシス一人の力で成し遂げたわけでもなく、シンの力がなければ不可能であったというのは間違いない。そして、そうであるならば王からの栄誉は師であるシンに与えられるべきであるというのも筋が通っていると言える。

 だけど、そうしなければならないわけではない。

 それを創ったのがアイシスであるというのも間違いないのだから。素直にアイシスが褒美をもらって誰が困るというわけでもない。むしろ、シンとアイシスの関係を考えるのであればシンよりもアイシスがそれを受けるべきであるはずだ。

 その目的を考えればそのほうがいいはずなのだ。

 だからそれをシンに押し付ける理由がわからない。

 疑念の目を向けると、アイシスは小さく呟く。


「……まだ早いと思うから」


 納得はできなかったが、アイシスなりに考えがあるということは理解できた。

 そして、アイシスがそう言っている以上、自分が受け取らざるを得ないというのも間違いないだろう。王からの褒美を断ることなどできようはずもないのだから。

 シンは心中で大きくため息をつきながら王に向かって頭を下げる。


「―――光栄です」

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『24.目的』09/24 21:00投稿となります

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