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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第二章 『偽物の竜秘玉』
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22.竜秘玉

 ミネヴァの案内に従い、シンとアイシスは王宮を進む。

 やがて、たどり着いたのはミネヴァの母、アスナの私室だった。

 そこにいたのはミネヴァの騎士であるネリア。そして、そのすぐ傍で横たわり眠りにつくアスナ。今は薬で眠りについていると聞いている。

 その部屋をぐるりと眺めると、大きいなとシンは思った。

 こういうものに疎いシンにとって、王宮がどのようなものか、王族の私室がどのようなものか知らない。これまで想像したこともなかった。だからこれが大きいものなのかも実際にはわかっているわけではない。

 だけど、それでも立派な部屋だと思った。

 部屋を飾り付ける家財もさることながら、綺麗に手入れされている様子を見るに、きっと大切にされている人間なのだろうと。

 シンの勝手な印象ではあるが、ミネヴァの母は側妃だと聞いていたため、あまり大切に扱われていないのではないかと思っていた。このような事態になってしまい、切り捨てられる可能性もあると聞いていたのもその理由の一つだ。

 だから勝手に思っていたのだ。どこか肩身の狭い生活を強いられているのかもしれないと。

 それは間違いだったのだろう。切り捨てられるというのは国のため、国民のための苦肉の策だったのだろう。


「リア、少し二人の相手を頼むわね」

「うん、わかった」


 ミネヴァがそう言うとネリアは頷く。

 そして、ミネヴァは部屋をあとにする。

 その間際、振り返ると思い出したようにシンに告げる。


「……これから陛下をお呼びしてきます。ですので、以降は私にも敬語を使うようにお願いします」

「あー、なるほど。わかった。……わかりました」


 言いながらシンは頭を下げる。

 その仕草が正しいかどうかはわからなかったが、とりあえず敬意を表すとしたらこんな感じだろうかとやってみたのだ。

 ミネヴァの言っていることは理解している。ミネヴァがシンの態度を気にすることはないが、さすがに国王の前でその娘である王女に対して無礼な物言いをするのはまずいのだろう。だからミネヴァにも敬語を使うようにと言ったのだ。

 その言い分に異はない。だからシンも素直に従うことにした。

 ただ、その正しいやり方については全く自信はなかったが。


「……で、いちおう状況を聞かせてもらっても?」

「うん」


 シンはネリアに尋ねる。

 おおよそのことはわかっているものの、アスナの現在の体調を含めて予想外のことが起こっているという可能性も否定はできない。一応はたいていの状況であれば対応できる自信はあるが、想定外の何かがあればまた別の方法を検討しなければならない。

 ネリアはこれまでのいきさつを説明する。改めてアスナが呪いによって倒れた日のことや、アイシスに創ってもらったスラファトの闇滴を使った後のこと。

 シンとアイシスは頷きながらそれを聞く。聞いている限り何か問題が起こっているようなことはないようだ。全て予定どおりと言っていい。


「それで、治療についてなんだけど……」


 話を聞き終えたシンは提案する。二つの方法について。


「簡単に一瞬で終わらせる方法と、少し時間がかかる方法があるんだけど。……どっちにする?」

「……時間ってどれくらい?」

「そんなにはかからない。……まぁ一時間くらいかな」


 それくらいなら、とネリアは頷く。そして、その二つに何の違いがあるのかを尋ねる。


「当たり前のことだけど、いざというときのことを考えてね。誰でも使える道具を創って来たんだ」


 現状ではこうしてシンとアイシスが共にここに来ることができたため、結果としてその心配はなかったが、ここに二人が入ることができないという事態も考えられた。

 その場合には竜秘玉だけをミネヴァかネリアに渡して使用を任せることになる予定だった。そのため、錬金術士ではない者でも使えるように調整をしていたのだ。その使用方法は簡単で、一瞬で終わることになる。

 シンたちの見込みではその方法でも十分に成功できると考えていた。だからそれで不足があるわけではない。そのやり方でいいとネリアが言うのならばそれでいい。

 だけど、その失敗の可能性をほんの僅かでも減らしたいというのであれば、この場で少しばかり調整を施すことになる。その場合には多少の時間がかかる。


「時間がかかるほうで」


 聞いてネリアは即答する。

 ミネヴァに聞くまでもなくそう選択する。少しでもアスナが助かる可能性が上がるのであればそれを拒否する理由があるはずがないのだ。

 シンもネリアがそう言うのはわかっていたのか、その選択をすぐに受け入れる。


「ねぇ、シン」

「どうした?」

「竜秘玉はシンが使って」


 アイシスのその提案にシンは眉を顰める。

 もちろんそれ自体に問題があるわけではない。結論としてはどちらでもいい。アイシスが使おうとシンが使おうとほとんど違いはない。

 だけど、あらかじめそれについては簡単に打ち合わせをしておいた。アイシスが創ったものなのだから当然アイシスが使うものだと。それについてシンは特に深く考えることはなかった。どちらでもいいのだから。

 だからこそアイシスの意図がわからなかった。特に難しい作業をするわけでもなく、自信がないということもないはずだ。

 ただ、特段拒否する理由も見当たらなかった。


「……アイシスがその方がいいって言うならそれでかまわないけど」

「うん、ありがとう」


 やがて、ミネヴァが部屋へと戻ってきた。

 すぐ後ろにいる豪華な衣装を身にまとった男を見て、シンは彼が国王なのだろうと当たりをつける。さすがに王冠のようなものを被っているようなことはないが、その衣装を見るに間違いないだろう。

 ただ、芸術の国の王ということでもう少し柔らかい感じの人間を想像していたが、やはり国王と言うべきか、思っていたよりもいかめしい顔に威圧感のある佇まいを見て、シンは思わず感心する思いだった。


「……いや、緊張している、のか……」


 いかめしさの中にどこか強張った表情を浮かべる王を見て、シンは思い直した。

 ちらりとアスナの方に視線を動かす。

 あるいはシンが思う以上に彼女は王に愛されているのかもしれない。


「貴様が錬金術師とやらか」

「はい」


 さらに後ろに何人か引き連れて部屋へ入ってきた王に尋ねられ、シンは簡単に返答する。

 何か言うべきかとも思ったが、それ以上に何をどう言えばいいかわからなかった。

 それについて王が何か言うことはなかった。あらかじめミネヴァがそういった話をしていたのかもしれない。もしくは、そもそも庶民の相手をすることに慣れているのかもしれない。ここは芸術の国だからそういった職人と触れ合う機会もあるのだろう。

 シンはちらりと王の背後に視線を動かす。


「こちらは医者と司祭です。母の体調を確認するために来てもらいました」


 その視線を見てミネヴァが紹介する。さらにその後ろに控えている侍従らしき者たちについての説明はなかったが、そういうものなのだろうとシンも納得する。


「……それでは、早速ですが解呪に入らせてもらってもよろしいでしょうか?」

「ああ、無論だ」


 あまり話をしてもぼろが出ると考えて、シンは王に窺いをたてる。

 王が頷くのを見届けると、シンはアイシスに視線で促す。

 アイシスは一つの錬金道具を取り出すとそれを行使する。シンはその間に竜秘玉の調整に取り掛かる。

 それについて何をしているのか、と王が視線で尋ねる。


「ええと、彼女は、この部屋の環境を操作しています。そして、私はこの……道具を使うための準備を」

「……ところで、竜の素材はどうしたのでしょうか? ドラゴンが出たという情報は入っていないのですが」


 シンが答えづらそうにしているのを見かねてか、ミネヴァが横からシンに話しかける。

 もちろん、理由はそれだけではなく、純粋に疑問だったということもある。

 竜素材がなければ竜秘玉は創れないとシンもアイシスもあれだけ言っていたのだ。なのにこうして竜秘玉があるというのがどういう仕組なのかわからなかった。

 そういった質問をされることは想定していたため、シンはすぐに答える。


「四元素というのはご存知ですよね?」

「ええ、もちろん」


 ミネヴァは頷く。

 四元素とはこの世界を構成するとされる概念である。火、地、風、水の四つの元素こそが万物の根源であるという考え方。

 それは一般的な話でもあるが、特にミネヴァなどの魔法を使えるものにとっては身近で密接な概念である。魔法を使うにあたってそれを深く認識する必要があるからだ。

 そしてそれは錬金術も同じである。錬金術を行使する際、物を創る場合にも、その道具を使う場合にもその概念が極めて重要となる。


「たとえば一般的な傷薬といえば、どういった元素、属性を持つかわかりますか?」

「……水、いえ、地の元素でしょうか?」


 シンの問いにミネヴァは答える。

 薬と聞いて最初は飲み薬のようなものを想定し、水の元素を持つものだと考えたが、その原料を考えれば一般的には薬草などであることから地の元素だと考え直した。


「そう、薬というのはたいてい水や地の力によって構成されています。……では、竜秘玉ならどうでしょう」

「それは……」


 ミネヴァには想像がつかなかった。それは竜秘玉がどういうものかわからないというのが大きい。

 そして、どんなもので創られているのかも。

 わかっているのは竜素材を使うということくらいだ。


「竜……ということは、火でしょうか?」

「ええ。竜素材、ドラゴンというのは竜の因子だけでなく強い火と風の元素を持ちます」

「……なるほど」


 ドラゴンが持つ力。その実物こそ見たことはないがどんな存在であるかなんとなくは知っている。口からは強力な炎を吐き、そしてその翼で空を舞う。つまり、火と風だ。

 そう言われれば納得がいく。だが、それがどう繋がるのかはわからなかった。


「ドラゴンは見つけることができませんでした。……だから、フレアワイバーンを使いました」

「……代わりになるのでしょうか?」


 フレアワイバーンは高位の亜竜と言ってよい。普通のワイバーンと比べても上位の存在だ。本物の竜にかなり近い力を持っている。

 それでも、本物の竜には及ばない。所詮は亜竜にすぎないのだ。


「普通のやり方では無理ですね。ですが、フレアワイバーンは竜の因子こそ薄いものの、その火の力と風の力には目を見張るものがあります。それを特殊なやり方でうまく利用しました」


 シンはその手の中にあるそれを掲げる。

 それは玉というには少しばかり歪な形をしており、その輝きこそ凄まじいものの、形状は石のようなものだ。


「ですので、これは正確には竜秘玉ではありません。同じような効果を持った別物……偽物にすぎません」

「そう、なのですか……? ですが、効果が確かならば」

「ええ。効果があればそれでいいのです」


 それからはしばらくの沈黙が続いた。作業に集中しているシンに対しての配慮だったのか、その場の緊張感にそうせざるを得なかったのかはわからないが、あまり口を開くのを良しとしなかったのだろう。

 やがて、シンは顔を上げると視線をアイシスに向ける。

 それを受けてアイシスは頷く。準備が整ったのだ。


「―――では、始めます」


 シンは横たわり眠りに就いているアスナに近づくと、その胸の上に竜秘玉を乗せる。そして、シンが力を込めるとその石は激しく輝き出す。

 その眩さに全員が目をつむる。

 次の瞬間には、その石は輝きとともに消え去った。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『23.褒賞』09/23 21:00投稿となります

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