21.王都
宿を見つけた後、二人は改めて王宮へ向かうこととなった。
その城の門前には当然のことながら守衛の兵士があり、中に入ることはできない。何の連絡もなく訪れたのだからそれは当然のことだ。
「何用だ」
そこで止められるとシンは事情を説明する。
「王女殿下に伝言をお願いしたいのですが。……第三王女、ミネヴァ殿下に」
「伝言……? 何のつもりだ」
守衛は怪訝そうに顔をしかめる。突然現れた二人組に警戒感をあらわにする。それでも武器を構えて即座に追い払おうとするほどではなかった。あるいは、多少の混乱を覚えているのかもしれない。
「俺たちは王女様の依頼を受けていますので、そう言っていただければわかります」
「……それを信じろと言うのか? できるわけないだろう」
「ですから、それを伝えてください。それでわかりますから」
それでも守衛は渋い顔を浮かべるだけだった。
その気持ちはシンにもわからないでもない。どう判断していいかわからないのも当然だろう。
シンは少し迷いながらも、話を続ける。
「……側妃様の現状についてどの程度知っていますか?」
「なにを……」
問われ守衛は鼻白む。
不躾な問いかけに言葉に詰まる。
だが、シンはその反応で守衛がある程度の事情を理解してるということを察した。
「……命の危険が迫っていることは?」
「それは……」
シンが小声で尋ねると、守衛はまたも渋い表情を浮かべる。だが、それについて思うところがあったのか、意外にも言葉を続ける。
「聞いている。……命を狙われているらしいということも」
シンは思わず目を見開く。
こういってはなんだが、守衛がそこまで知っているとは思っていなかったからだ。ひょっとして、そこまで有名な話なのだろうかと。あるいは、この守衛が特別ということもありうるが。
だけど、それならば話は早い。
「ええ、つまり二つの派閥に別れています。側妃様の命を救おうとしている派閥と、……もう一つの派閥に」
「それが、どうした」
「俺は王女様に会います。……仮に、今話が通らなくとも、遠からず会う日が来ます」
突然話が変わったように聞こえて、守衛は不思議そうに眉を顰める。それがどう繋がるのかわからなかったのだ。
「そのときに俺は今日のことを報告することになります。……遅くなった理由を言わざるを得ませんから」
「……む」
「そのときミネヴァ様はあなたのことをどう判断するでしょうか」
二つの派閥がある。そして、どちらとも関わらなければ傍観者でいることもできるだろう。
だけど、こうしてシンと関わってしまった以上、第三者ではいられない。関わりを持ってしまった以上、自分の判断を下さなければならない。
仮に、無関係を気取ったとしても、判断するのは自分ではないのだから。
下手をすると、ミネヴァの目には母の命を狙う派閥に見えるかもしれない。だからこそシンの話を聞こうとしなかったのだと。
「そ、そんなわけないだろう。……つ、伝えるだけだからな」
「ありがとうございます。……これを」
シンは一枚の紙を手渡す。
そこに書かれているのは錬金術士アイシスの名前と、必要なものを届けに来たということ。そして、泊まっている宿だった。
それだけを説明して二人は城を後にする。
「……ちょっと脅しすぎたかな……?」
呟くようにシンが言うと、アイシスは僅かに顔を引きつらせる。
「ど、どうだろう……。そうかも……」
「そんなつもりでもなかったんだけどな。強気に行こうとしてたらこうなっちゃったよ。……なかなか難しいな」
いくらか方法は考えてはみたものの、結局はそうするのが一番早いのではないかと思ったのだ。ただ、失敗したというほどではないが、うまくいったとは言えないというのは確かだ。
そんなシンにアイシスはため息をつく。
「もっと他にいいやり方あったんじゃないの?」
「まぁそりゃ、あるだろうけどさ。……たとえば?」
「たとえば……」
言いかけて口ごもる。
すぐに浮かんだものはある。だけど、今そのやり方をするのはアイシスにとって本位ではない。
そして、それはシンもわかっている。
「……アイシスとしては、まだメルクーアの名前は使いたくないんだろ?」
「それは……そう、だけど……」
アイシスは言葉を濁しながらちらりとシンを見る。そして、少しだけ目を伏せる。
おそらくはシンもそうするのが一番簡単だというのはわかっていたのだろう。
アイシスは他国とはいえ、侯爵家の娘である。そして、ただの侯爵家ではない。メルクーアの名前は上位の貴族であれば当然知っている。もちろん、このトーラス王国においてもだ。
だけど、その名前はまだ使いたくない。
理由はいろいろあるが、最も大きな理由としてアイシスはまだ何の成果も上げていないからだ。
この件が無事に終われば、一端の錬金術士として誇れる功績を残すことになるだろう。その自信はある。その後でならば、アイシスとして名を上げた後でならばメルクーアを名乗るというのも悪くはないと考えている。
そんなアイシスの気持ちも汲んでいるからこそシンはこうして多少強引とも言えるやり方をとったのだろう。
そこに感謝と申し訳ない気持ちを覚える。
だからもう一度ため息をつく。
「ま、まぁいいじゃないか。なんとかなりそうなんだし」
「……そうだね」
「とりあえず、せっかく王都まで来たんだし、いろいろ見てみよう。珍しい素材とかもあるかもしれない」
二人は気を取り直して王都を観光することにした。シンは王都は初めてであり、アイシスは一度来たことこそあったものの、それも昔のことで記憶はほとんどなかった。
そして、二人はそれを楽しんだ後、食事を終えると宿に戻った。
動きがあったのは翌日のことだった。
ゆったりと宿で過ごしながら、今日の予定はどうするかと話し合っていた頃、二人のもとを客が訪れた。
「……まさか、君が来るとは思ってもいなかったよ」
「結局のところ、私が一番自由に動けますから」
そう言いながら苦笑しているのは王女のミネヴァだった。
早ければ今日にも誰かが訪ねて来るというのは想定していたが、まさか王女自らがここまで来るとは思ってもいなかったのだ。
ただ、ミネヴァの考えもわからなくはない。たとえば信頼できるものを向かわせるにしても、シンやアイシスのことを説明するのは簡単ではない。二人はよくわからない人間であり、城の中に招き入れるのにもひと手間かかることになる。
ミネヴァが直々に二人を連れて入ればそういった煩わしいこともなくなる。
早さを考えればこの方法も悪くないはずだ。
「それでは、ついて来てください。城まで案内しますから」
「ああ、よろしく。っと、少し待って。準備をするから」
シンとアイシスは必要な荷物を準備すると、ミネヴァの後をついていく。
道中、神妙な表情を浮かべたミネヴァが静かに尋ねる。
「……それで、必要なものはできたのでしょうか?」
平坦な声音。
おそらくは自身の期待や焦り、様々な感情を抑えているのだろう。
これまで長い間、母の命について悩んできたのだろう。思うところは少なくないはずだ。
「だいじょうぶだよ、安心して」
そんなミネヴァの気持ちをいたわるようにシンは優しく声をかける。
「ま、創ったのはアイシスだけど。アイシスだから、だいじょうぶだよ」
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次話『22.竜秘玉』09/22 21:00投稿となります




