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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第二章 『偽物の竜秘玉』
19/71

19.暗躍

 ミネヴァとネリアは王宮にてアスナを邪竜の呪いから救う手段を探しながら過ごしていた。シンたちも解決へ手を尽くすとは言っていたが、それとは別にミネヴァたちも何か方法はないかと探り続けていた。

 もちろん、シンたちを信じていないわけではない。きっと彼らに任せておけば自分たちは何もしなくてもいい。そんな気持ちも心のどこかにある。

 だけど、じっとはしていられなかった。

 ただ、それはなかなかうまくいかなかった。

 その方法が見つからなかったというのもあるが、最も重要なことはアスナの身の安全を確保することだったからだ。それを疎かにするわけにはいかないのだ。

 アイシスによって創られたスラファトの闇滴の効果はてきめんだった。それはいい意味でも悪い意味でも。確かにそれによって呪いの侵食速度は激減した。だが、同じくアスナの能力も同じく大幅に下降することになった。

 ゆえに、どうやってアスナを守るかということが問題になったのだ。

 初めは様子を見ていた。だけど、今までどおりにするのは不安が勝った。もっと護衛を増やすべきなのではないかと。

 それが良かったのか悪かったのかはわからない。ただ、結果としてそれによってアスナの様子を周りに知られることになってしまった。そうまでして守らなければならない状況なのだと。

 だからこそ二人はアスナからより目が離せなくなってしまった。アスナの命を狙って何者かが暗躍しているという気配は感じていた。まずは呪いをどうこうするよりもそちらの問題を片付けなければならない。


「いつも心配をかけますね」

「いいえ。母上を守ることが今の私の、私たちのすべきことです」


 そうミネヴァが答えるのに応じるように、ネリアも頷く。

 二人はできる限りの時間を割いた。空いている時間があればアスナを守るためにここに来た。あるいは、何か手がかりを探ろうと動いていた。

 聖騎士としての任務があるネリアも少しの時間を見つけては頻繁にここに足を運んでいた。

 そんなある日のことだった。


「―――っ!」


 反応したのは三者ほぼ同時だった。


「侵入者ですっ!」


 ミネヴァは即座にアスナを守るように動きながら大声を発する。部屋に侵入してきた三つの黒い影はその声に何の反応も見せなかった。

 それはつまり、応援が来ないと知っているということだ。

 この周囲に誰もいない時間なのか、あるいはすでにそれらを排除したのか、理由はわからないが少なくとも今自分たちでどうにかしないといけないということはわかった。

 同時に襲ってくる男たち、侵入者三人のうち、より近い相手にミネヴァとネリアはそれぞれ向かう。

 ネリアはその影が持つ小ぶりの剣を受け止めると、返す刃で一閃する。

 その戦いは一瞬だったが、それは見た目ほどに簡単な戦いではなかった。数で劣るこちらにとって時間こそが敵であり、可能な限り早く倒す必要があった。ほんの僅かの躊躇も均衡も許されない。

 だからこそ、ある意味で賭けに出たのだ。多少の傷を負ったとしても一撃で倒すと。結果として無傷で終えられたのはただの幸運だった。一撃受けただけでその影が実力者であることはわかったからだ。

 ネリアが横に目を動かしたとき、それと戦っているミネヴァの姿が目に入る。万能の力を持つ彼女ではあるが、こうした単純な近接戦闘においてはどうしてもネリアに遅れをとる。

 そこに一瞬気を取られてしまったせいだろうか、ほんの僅かにネリアの反応が遅れる。


「母上っ!」


 ミネヴァは敵を斬りつけると同時に叫ぶがもはや間に合わない。

 すでに三人目の敵はアスナのすぐ傍にまでたどり着いていた。

 ネリアはとっさに懐から短剣を取り出し、その影に向けて投擲する。

 それを見てぎょっとしたように目を見開いたのはその男だった。ネリアが投げた少し小さめの短剣のようなもの。それが秘めている力を見抜いたからだ。

 それはこのような狭い室内で使うようなものではない。仮にそれによって敵を倒せたとしても、その込められた力によって味方ごと巻き込んでしまうのは必然だろう。

 男にはネリアの意図がわからず混乱するが、それでも即座に魔力による障壁を張り、自分の身を守ることを優先する。

 いや、優先してしまった。

 男の障壁にネリアが投げた短剣がぶつかると、その短剣は軽い音を立てて跳ね飛ばされる。

 再び男の目が驚愕に見開かれる。あまりの手応えのなさに。

 その一瞬生まれた思考の空白、その隙が埋まるよりも早くネリアは飛び込むと、その障壁ごと一撃で断ち斬る。

 それとほぼ同時に、ミネヴァも刺客の一人を撃破していた。

 三人を倒した後、敵の増援がないのを見届けると二人は安堵の息を漏らす。


「―――おそらくは、帝国でしょうね」


 二人がこの刺客が何者だろうかと誰何していると、アスナがそう告げる。


「リアの方は一瞬で倒してしまったからわからないけど、ミナが打ち合っていた相手の剣術は帝国式のものに見えたわ」


 その言葉に二人はゆっくりと頷く。

 二人とも、これがこの国の人間ではないことはなんとなくわかっていた。だからその言葉を聞いてそう言われればそうかもしれないと思ったのだ。

 そして、もう一つ理解していることもある。こんなことになった原因だ。

 翌日、ネリアは王宮内の廊下を歩いていた。それは何の意図のないもの、ただ聖騎士としての任務終わりに足を急がせていただけだ。

 そこで、一人の男とすれ違う。

 それは第三騎士団団長であるカマーゾだった。

 剣の腕も一流であるが、それに加えて賢しい立ち回りをすることで若くして団長にまで上り詰めた優秀な騎士である。

 カマーゾは鼻を鳴らすとネリアを一瞥し、そのまま足を進める。


「―――次は許さない」


 すれ違いざま、ネリアが呟くように発した言葉にカマーゾの足が止まる。


「何の話をしているのかな? 私には見当もつかないが?」

「次に同じようなことをしたら、お前を殺す」


 カマーゾは大げさに嘆息すると、首を横に振る。


「何を言い出すかと思えば、くだらない言いがかりだな。私が何をしたというのか」

「目を瞑った」

「……」


 確かにカマーゾは何もしていない。ただ、すべきこともしなかったのだ。

 今回のアスナの暗殺事件に直接関与したわけではない。侵入者に対して直接手引きするようなことはなかった。

 一部の場所の警備が緩んだことを見過ごしたにすぎない。わかっていて見ないふりをした。

 だけどそれだけだ。

 カマーゾは何もしていないのだから、せいぜいが軽く警告を受ける程度だろう。監督者として次はこのようなことにならないようにと言われるだけだ。

 そもそも、証拠も何もないはずだ。


「まるで私がわざと協力したとでも言いたげだな。証拠もあるまいに」

「証拠? 必要ない。……裁判をするわけでもない」

「ふん、であればなおさら何の意味もない話だ。貴様のたわごとに何の意味がある」


 カマーゾにはネリアの言葉は響かない。

 証拠がない自信がある、という話もあるが、端的に言うとネリアが舐められているのだ。

 それはカマーゾに限ったことではない。

 ネリアの腕が立つというのは多くのものが知っている。聖騎士としての剣の実力も、カマーゾを遥かに上回っているというのもわかっている。

 だけど、それだけだ。

 単に力があるだけ。他には何もない。

 その見た目もある。小さな身体に幼い顔つき。そして言葉少なに自分の主張をすることはない。

 聖騎士の任務以外ではいつでも幼馴染みの王女の後ろに隠れて、黙ってついていくだけの存在。万能姫の威を借るだけの小娘だと。

 そんな娘に何ができるというのか。


「言ったはず。わたしが決めた。殺すと」

「……っ」


 カマーゾはそのときやっと気付いた。ネリアが本気なのだと。

 その言葉に気圧されて、自身の体が無意識のうちに僅かに距離をとろうとしていたのを感じた。

 背中に汗が滲むのを感じる。


「アスナ様に何かあれば、お前を殺すと決めた」

「ま、待て。私は何もするつもりはない。いや、今後何も関係するつもりもない」


 確かに今回のことに限っては自分は完全に無関係とは言えない。だけど、今後はもう何もするつもりもないというのも本当だ。さきに言ったような目を瞑るようなことすらするつもりはない。

 アスナを狙う人間は少なくない。自分には関係ないもの、自分の知らないものも多くいる。

 それらの罪を自分になすりつけられたのではたまったものではない。

 恐る恐る、ネリアの目を覗き込むとその目は言っていた。それこそ関係ないと。


「わ、わかったわかった。アスナ様を守るのに私も手を貸す。それでいいだろう?」

「……感謝する」


 それでもう用は終わったのか、もうなにもないとでも言うようにネリアは平然と去っていった。

 後に残されたカマーゾは大きく息をつく。

 おそらくそれしかない。ネリアの後ろ盾にミネヴァやアスナがいるのは間違いない。二人の影響力を考えてもこちらが何かされるほどとは考え難いが、裏から手を回してネリアを処分することも難しいだろう。かといって実力で排除するのもおよそ不可能だ。

 少なくともこちらの被害も甚大なものになるだろう。そこまでして敵対する価値があるとも思えない。

 であれば自分の安全のためには形だけでも味方するのが最も良いはずだ。

 別に帝国に対して義理があるわけでもない。ならばここは善人をやるのもいいだろう。

 敵に回るよりも、恩の一つでも売っておくのが正解のはずだ。


「それにしても、恐ろしい娘だ」


 そこでやっと理解した。彼女の立ち位置を。

 これまで彼女がそれほどの意思を見せたことはない。それは、ネリアの何かが不足していたからではない。見せる必要がなかったからにすぎないのだ。

 ネリアはずっとミネヴァの後ろをついて回っていたのではない。ただ、大切な幼馴染みを見守っていたのだと。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『20.アトリエ』09/20 21:00投稿となります

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