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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第二章 『偽物の竜秘玉』
17/71

17.ミリカ

「シン! いる? 聞いた?」

「いるよ。……何の話だ?」


 いつものように突然店にやってきたアイシスの慌てた様子に、なだめるような静かな声で尋ねる。

 おそらくは竜秘玉の件でなんらかの進展があったのだろう。アイシスがそれについてミネヴァたちが帰った後にも情報を集めていたのはよく知っている。


「うん、それがね。ええっと、噂なんだけど……フレアワイバーンが出たらしいの」

「フレアワイバーン……? そうか、なるほど……」


 あくまで噂なので信憑性は低い、という前提で話をしているアイシスだったが、シンは納得したように頷く。

 先日、この店を訪れた貴族の話を思い出す。

 ワイバーンの討伐のために冒険者が動いているという。それもかなり慎重で大掛かりな動きだったという話だ。ただのワイバーンに対してそこまでの動きを見せるようなことはまずない。たとえば群れなどであればありえるかもしれないが、それ単体であるならばそこまで恐れるほどの相手ではないからだ。

 だが、フレアワイバーンとなるとそれも納得できる。

 フレアワイバーンは単純に上位種だからだ。その力は通常のワイバーンよりもはるかに上回り、さらに強力な炎を操る。

 そのうえ、地理的にも問題がある。そのフレアワイバーンが見つかったのはトリンキュロ山だという。

 マーガレットの森を抜けた先にあるトリンキュロ山。そこは大きな山ではないが、火山帯であり、火の元素が活性化された領域だ。ゆえに、フレアワイバーンもその恩恵を得てさらに強化されていることだろう。

 確かに、並の冒険者であればそれを討伐するのは一苦労だろう。

 だけど、それはシンにはあまり関係のない話だ。


「でも、フレアワイバーンがどうしたんだ?」


 フレアワイバーンはワイバーンの上位種だ。それから採取できる素材もそれに比例して高品質なものとなる。とは言っても、竜素材として見るならそれでも足りない。

 結局は亜竜であり、本物の竜素材と比べればどうしても劣ってしまうのだ。それでは竜秘玉は創れない。


「うん、私もそう思っていた。……でも、竜素材じゃなくて竜秘玉の素材としては? フレアワイバーンなら」

「同じだろ? あ、待てよ……そうか、そういう考えもあるのか。いや、それでも……」

「それでも、無理かもしれない。無理かもしれないけど―――」

「―――可能性が少しでもあるなら、やってみる価値はあるか」


 その言葉にアイシスも頷く。

 できないかもしれないけれどやるだけやってみればいい。できなければそのときにまた考えればいいだけだ。


「ただ、どちらにしろフレアワイバーンはなかなかの難敵だ」

「うん。準備、しないとだね」


 そして、二人の準備が終わったのは数日後。どうやらいまだ戦力が整わず討伐隊の編成は終わっていないようだった。

 さらにまた、というべきか、サナノスは不在のようだった。


「……ほんとあいつも忙しくしてるな」

「仕方ないよ。サナノスさんはこの辺りでは有名な冒険者なんだし」


 それについて尋ねてみたところ、サナノスから伝言が残されていた。

 どうやらこんなときのためにと、弟子にシンたちのことを任せていたらしい。それを聞いた二人はすぐさまサナノスの弟子であるミリカに連絡を取ることにした。


「はじめまして! ってことでいいのかな?」

「……いや、何度も顔合わせてるだろ」


 元気溌剌、といった様子で挨拶をする女性にシンは呆れたようにため息をつく。

 ミリカはシンよりも少し年上らしいが、それを知ったのはつい最近のことであり、アイシスよりは大きいものの、やや小柄な体格とその言動から自分と同じくらいだろうとずっと思っていた。

 こうして三人だけで話すのは初めてのことではあるが、間に師であるサナノスを挟んででは何度も会っている。なのではじめまして、という言葉が不適当なのは間違いない。


「あ、知ってると思うけど私に戦闘能力は期待しないでね」

「……そうなのか?」

「あれ、聞いてないの?」


 ミリカは首を傾げる。

 お互い知らない仲ではないが、こうして共に冒険に出るのは初めてのことで持っている能力についてそれほど詳しいわけではない。

 ミリカもまた、シンやアイシスがどれくらいの強さを持っているのか、どう戦うのかについてまでは知らない。ただ、それなりに戦えるということだけは聞いている。


「戦いはあれだけど案内については任せてよ。特に森の中は完璧だから」


 師であるサナノスと同じく、ミリカもまた狩人の生まれでありそういったことに慣れている。特に森の知識に限ってはサナノスをすら上回ると言ってもいい。その自信に見合うだけの実力はある。


「行くの山だぞ」

「いいの! 途中までは森だから」

「まぁ、それはそうなんだけど……」


 目的地はトリンキュロ山であるが、その途中にあるマーガレットの森を抜けなければならない。通る場所は森の浅い部分であり、以前にアイシスがミネヴァたちと行ったほどに森の奥まで潜るわけではないが、それでもそれなりに森の中を進むことになる。

 それについてミリカの案内や誘導があれば助かるというのは間違いない。


「はい、頼りにしてます。よろしくお願いします」

「うーん、アイシスちゃんはわかってるね。任せてよ!」


 三人は情報を交換し準備を整えると、トリンキュロ山へ向けて森の中に入っていった。

 そして、しばらく進んだ先でミリカがシンに指示する。


「あ、その分かれ道は右ね」

「……どうしてだ?」


 ミリカの判断にシンは尋ねる。

 それ自体に不満があるわけではない。距離を考えれば左の方が近いはずだが、それでも理由があるのであれば遠回りで構わない。

 ただ、シンの目から見てその違いがわからなかったから尋ねてみただけだ。


「……あっちの葉っぱ見える? あのかじり方はリーフビーだね。リーフビーの蜂蜜はあんまり美味しくないんだけど、魔獣からの評判はよくてね」

「なるほど、その分危険が大きいということか」


 納得したとシンは頷く。

 ただ、それはそう聞いてわかったうえで目を凝らしてやっと見える程度でしかない。やはりその実力は本物なのだと感心していた。


「たいしたもんだ」

「でしょ? ……でも二人もけっこうすごいと思うよ」


 ここまでの道中、ミリカは一度も戦闘していない。戦えないと自分で言うだけあって、戦いは全て二人に任せっきりだ。

 ミリカにとってもそれはいつものことだったが、それらの経験から比べても二人の実力は見事なものだった。

 だけど、シンの戦い方にはミリカは首をひねる。


「でもなんで杖? アイシスちゃんは剣を使ってるのに」

「錬金術士ってのは杖で戦うものなんだよ」

「……そうなの?」


 錬金術士であるシンは魔法を使えない。だから杖を使う意味はあまりないはずだと。杖とは本来魔道士が魔法をより効率的に扱うためのものなのだから。

 そう言いたいのはシンにもわかる。だが、魔法こそ使えないものの、意味がないわけではない。シンは魔法ではなく魔力そのもので戦っているのだ。そのために杖を使うというのは正しいとも言える。

 もちろん、そのような魔力の使い方は魔法に比べれば威力も低く効率も悪い。だけど、それなりの魔力を持っているものであれば誰にでも扱いやすいという利点もある。

 使っている杖も錬金術によって創られた特別製。錬金術士が扱うためのものであるため相性もよく、その力を十全に発揮することができる。

 ただ、そのような戦い方をする人間をミリカは見たことがなかった。

 アイシスに視線を送ると、わからないというように首を横に振っていた。


「……私は剣しか使えないので、そういうことはよくわかりません」


 アイシスはそう言うが、実際には少し違う。

 家の事情もあり、経験として様々な武器を扱う練習をしたことがある。だから他のものも使えないことはない。

 槍も弓も、そして暗器のようなものも使うだけであればそれなりに使うことができる。ただ、その中で慣れていることもあり、最も剣が使いやすいというだけだ。特に、こういった森の中を進むのであれば。

 どれも一流というには程遠い。だからこそ慣れているものを選んでいるにすぎないのだ。

 それに、アイシスにとって剣は補助武器のようなものだ。アイシスの本当の戦い方は剣で身を守りつつ強力な錬金道具を使うというものだ。

 その威力は剣など比べ物にならないのだから。


「―――そろそろだよ」


 そのミリカの声には緊張が多分に含まれていた。

 森の中は彼女の本領であるものの、山となると勝手が違う。それに、フレアワイバーンなどという大物はミリカにとってやはり恐ろしい存在なのだから。


「大丈夫だよ。戦いについては任せといてくれ」


 安心させるようにシンが言うと、それに合わせてアイシスも優しく微笑んだ。

 そんな二人に、ミリカはそっと安堵の息を漏らした。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『18.トリンキュロ山』09/18 21:00投稿となります

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