表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第一章 『二人の錬金術』
14/71

14.調合

「……で、今日はどういう用事だ?」


 あれから半日以上眠り続けたシンだったが、すでに疲労も抜けていつもの日々に戻っていたところ、ミネヴァとネリアの二人が店に訪れていた。

 おそらくアイシスが作業中であり手持ち無沙汰なのだろうが、それでもシンの店に来た理由が思い当たらなかった。


「よろしければ、なのですが……錬金術のことについて教えていただければと思いまして」

「錬金術について? それは……」


 シンはしばし押し黙る。

 ミネヴァはそれを意外そうにじっと待つ。いいにしろ悪いにしろ、シンはすぐに返答すると思っていたからだ。


「何か問題でもあるのですか?」

「いや、問題じゃなくてむしろ……いや、そろそろいい頃合いなのかもしれないな」


 これまでシンたちはこの街で錬金術士として様々なものを創ってきた。だけど、基本的にやってきたことはそれだけだ。困っている誰かが助けを求めてくればそれを助けるために動いたりはしていたが、あくまで受け身であり、それ以上に自分たちの存在を主張するようなことはしてこなかった。

 もちろん理由はある。

 その大きな理由としては自分たちの未熟さだ。シンもアイシスも錬金術士としては未だ途上であり、まずは自分たちの実力を高めることを優先すべきだと考えていたからだ。

 未熟だというのはもちろん今も変わらない。それでも以前とは比べ物にならないほどに腕を上げたというのも事実だ。

 そろそろ目的のための下準備に動いてもいいのかもしれない。


「この国でもまだ錬金術なんてほとんど知られてないからな」

「それは……そうですね」


 万能姫と呼ばれ様々なものに精通するミネヴァですら、これまで錬金術など名前を聞いた程度であり、何ができるものなのかも知らなかった。いや、こうして錬金術というものを目の当たりしてさえそれが何なのか理解していないのだ。

 おそらく、この国で錬金術については存在さえほとんどの人間には知られていないはずだ。


「だからとりあえず錬金術の存在くらいは広まってほしくてね。その最初の一人に姫さんがなってくれるならこっちとしても都合がいい」


 この先がどういう展開になっていくかはシンにもはっきりと予想ができているわけではない。ただ、アイシスが創った薬によってミネヴァの母が助かったとするならばその力について興味を持つ人間も出てくるはずだ。

 そのときに肝心のミネヴァが何もわからないではシンにとってもあまり都合がよくはない。


「ちょうどいろいろな素材の下準備をしていたところなんだ。時間があるなら何か創るけど見ていくかい?」

「よろしいのですか?」

「創りながら説明するよ」


 用意していた素材に最終調整を加えると、それを人間一人がすっぽりと入ってしまいそうな巨大な錬金釜に放り込む。

 金属、鉱石、そして植物、それらを入れた上で素材を混ぜ合わせるための錬金液で満たしていく。

 そして、シンはそれをゆっくりとかき混ぜる。何度も何度も。


「まず、こうして素材の因子を活性化、活動させることによって分離させるんだ」


 ミネヴァたちからの質問が来る前にその過程を話し始める。


「でも運が良かったな。錬金術で一番時間がかかるのは下準備のところだから」

「下準備、というのはどういうものなのでしょうか?」

「素材の準備……なんていうか自分と素材との波長を調和させるとでも言うか。これと、あとは魔法陣を書くのが大変かな」


 シンが顎を動かして指し示すと、部屋に敷かれている魔法陣が目に入る。

 書物では見たことがある。最終工程としてこの魔法陣を使うことで錬金道具が完成するのだ。

 錬金道具の種類ごとにこれを書かねばならず、さらにはその素材ごとに細かく調整しなければならないらしい。確かに時間と手間のかかる作業だろう。


「つまり、私たちの採ってきた素材も貴方が先日まで下準備をされていた、ということでしょうか?」

「あーそれは……そうとも言えるしそうでもないとも。うーん……」


 その質問は想定外だったのか、シンは言葉に詰まる。


「俺が創ったものが何の役にも立たない。見た目だけの虚飾にすぎないってのは前に言ったと思うんだけど」

「はい、それは」

「実際には少しだけ違う。本当に何の役にも立たないってわけじゃないんだ」


 シンが錬金術として創り出す道具。それは道具としての効能は何も持たない。それはたとえば剣のように道具そのものとして使うことができないというだけではなく、錬金道具としても何の効果もないという意味である。

 だけど、錬金術を扱えるものにとっては少し違う。

 なぜなら、何にも使えないとしてもその道具が内包している力だけは本物だからだ。

 それは錬金術としてそれを素材として使うことができることを意味する。


「つまり、俺は錬金道具は創れないけど、錬金素材を創ることはできるってことだ」


 素材を錬金して素材を創る。

 それは錬金術として難しいものではない。ただ、わざわざそれをするものは多くはない。なぜならたいして意味がないからだ。素材と素材を合わせて一つの素材にする。一見するとそれは便利なように見えるが、別にそれほどの利点があるわけではない。

 一つの素材にまとめずとも二つ素材を入れて錬金すればいいのだから。

 もちろん、それが必要となる場面はある。あらかじめ複数の素材を掛け合わせて新たな何かを用意しておくという手順を踏まなければならないこともあるのだ。だけど、そうしなければならないほどの物はそうそうない。だからほとんどの場合にはそのようなことはしない。

 むしろ一つにまとめる過程において素材の質が劣化してしまうこともありえる。

 だけど、シンは違う。

 シンはその素材を劣化させないどころか二つを合わせることで素材の質を高めることすらできる。

 理論上、時間と労力さえかければどこまでも品質を上げることができるはずだ。もちろん、質を高めれば高めるほどにその難易度も上がっていくが。


「だから、アイシスさんでなければ扱えないということですか?」

「ん? どういう……ああ、その話か」


 何の話をしているのかわからなかったが、すぐに思い出す。ミネヴァが他の者に任せてもいいのではと提案したのをシンがアイシスでなければ駄目だと拒否したのだ。あのときは眠気で意識が朦朧としていたためそのことをすぐには思い出すことができなかった。


「それはそうだな。いくつか理由はあるんだけど」


 まず、シンが創り出したものは素材としてかなり特殊であるということだ。言ってしまえばかなり癖がある。慣れていなければ扱うのが難しい。おそらく初見でそれを使って品質の高い錬金道具を創るというのは不可能に近いだろう。

 そして創る物自体が特殊だということもある。今アイシスが創っている錬金道具はスラファトの闇滴といって、シンによってかなり改造を施されているものだ。その変更点を理解していなければ正確な力を発揮する錬金道具を創ることはできないのだ。それについて、シンから詳しく説明を受けていなければならない。

 そして、最も大事なことがある。


「以前に君は言ったよな。俺がアイシスに天才錬金術士と名乗らせてるって」

「ええ。あなたもそうだと言いましたよね」

「それは間違いないよ。ただ、君はたぶん少し誤解してる」

「誤解、ですか?」


 ミネヴァは小さく首を傾げる。

 ミネヴァの言っていることは正しい。アイシスは自分から天才などと名乗るような性格ではない。だからこそシンが名乗らせているのだ。あえてそのようなことをしているのには色々な理由があるが、今重要なのはそこではない。

 天才、を名乗らせていることだ。


「一番重要な理由。アイシスはね、正真正銘の天才なんだよ」


 はっきりとしたその言葉にミネヴァは驚きをあらわにする。アイシスが腕が立つというのはわかっている。店に並んでいた商品を見ても一級品ばかりだったことからそれは窺える。

 だけどその控えめな性格のせいだろうか。天才という言葉とはいまいち結びつかないのだ。


「……リア、何か知っているの?」


 ミネヴァが驚いたのはもう一つある。その言葉にネリアがはっきりと頷いていたからだ。

 先日、ネリアがアイシスのもとを訪れて謝罪をした際にお互いの話を少ししたということは聞いていたが、そこまで打ち解けていたということだろうか。

 アイシスの出自について多少のことは報告を受けたが、個人的な話もしたということでその詳細までは聞き出すことはしなかった。だけどネリアはそれが納得できるような何かを知っているということなのだろう。

 そのミネヴァの予想は当たっていた。

 アイシスがメルクーアだと知っているネリアにとっては、天才という言葉は素直に受け入れられるものだった。


「口止めされたわけじゃないけど……友達として聞いたことだから」


 その言葉にミネヴァはもう一度驚きをあらわにする。

 ずっと自分と一緒にいたこと、聖騎士として若すぎることなどからミネヴァの知る限りネリアには友達と呼べるような親しい人間はいなかった。

 だからそれを素直に嬉しく思った。


「……えーっと、話を戻すけど、つまり、かなり質の高い道具だからね。そのくらいの才覚がなければ扱えないんだよ」


 同じように驚いていたシンだったが、すぐに気を取り直し話を続ける。


「っと、で、ここからが次の工程」


 ずっとかき混ぜ続けていたシンの手が止まる。

 次はその釜の上に手をかざし、魔力を集中させる。


「これは何を?」

「とりあえず必要な要素を分離することができたから、これからその力を固定して形成する」


 現状では素材が持っていた力が活動状態になり溶け出して、拡散しているような状態だ。それをもう一度形にする必要がある。

 シンは魔力を流し込むことで、その中に含まれている力を固めていく。


「……そういえば、少し話は変わりますが、気になっていたことがあります」

「なんだい?」

「貴方の錬金道具に刻まれているものなのですが」


 ミネヴァが祖父に見せられた剣に刻まれていた文字、それと同じものがここにある道具にも刻まれていた。

 ただ、それはミネヴァには読めない。様々な書物に目を通してきたミネヴァですら見たことのない文字だからだ。


「それは偽物の証だね」

「偽物の、ですか?」

「そう。その文字が刻まれているものは見る者が見ればひと目で偽物だとわかるだろ? 俺が創ったものなんだから」


 それは安全のためのものだ。

 シンの創ったものは出来が良い。正確には出来がよく見える。その中身がまがい物の虚飾であろうとも、見た目だけは一流の逸品だ。

 だからこそその見た目に騙されるものが出てくるかもしれない。

 だけどその文字が刻まれていることで悪用がしにくくなるということだ。


「何と書いてあるのでしょうか? ……貴方の名前ですか?」

「……」


 ミネヴァが尋ねるも、シンはすぐには答えなかった。

 表情こそ変わらなかったものの、ミネヴァにはそれが逡巡のように見えた。


「名前、じゃないな。……俺の国で創られたもの、って書いてある」

「ということは、これは貴方の国の文字なのでしょうか?」


 言いながらそこで初めて気がついた。

 話に聞いているのはシンとアイシスの二人がこの街に流れてきたということだ。そして、アイシスはガエメニから来たということは知っている。

 だから、直接聞いたわけではないがシンも同じなのだろうと思いこんでいた。

 だけど、シンが別の国からガエメニに来たというのは十分に有り得る話なのだ。


「……いや、実はそれも違うんだよな。なんて言ったらいいか難しいんだが、俺の国の文字でもない」

「そう、なのですか……」


 一応の納得はするものの、ミネヴァは怪訝そうに眉を顰める。

 もう少し深く聞いてみたいとは思うものの、言いづらそうにしているにしているシンに対してそれ以上聞くことはしなかった。

 ただ、言いづらそうにはしていたものの、言いたくないという雰囲気ではなかったのは救いだろうか。


「さて、それじゃあ最後な」


 シンが両腕を鍋の上に差し出して魔力を込めると、ふわふわと淡い光の玉が浮かび上がってくる。シンはこぶし大よりやや大きめのそれをそっと手のひらにのせるように持ち運ぶ。

 そして、魔法陣の上にそっと下ろす。

 魔法陣に両手を添えるとそこに魔力を注ぎ込む。


「これで魔法陣を発動させる。後は魔法陣に書かれているとおりに道具が創造される」


 魔法陣に魔力が流れると、その床が光り輝く。

 やがてその光が収まると、その中心には短剣のようなものが出来上がっていた。


「これは……投擲用の短剣、でしょうか?」


 それは短剣の柄がなく、その刃だけで構成されているような形状をしていた。ミネヴァの知らない物であったが、見ておそらくそうだろうと予想をつける。

 シンは、その短剣にいつものように文字を刻み込む。


「そんな感じの。……これを二人にあげるよ」

「……よろしいのですか?」

「アイシスがお世話になったみたいだしね。そのお礼だと思って」


 頭を下げてそれを受け取ると、そのうちの一つをネリアに渡す。

 遠目に見ると、それなりの力を持った短剣に見えたものの、実際に手に取った感触ではその見た目とは裏腹に少し安っぽく感じた。


「実際そうだよ。あんまりちゃんとしたものを創るといろいろとあれだからね。いい意味で手を抜かせてもらった」


 ちょっとした贈り物の範囲で済ませられる程度に品質を調整したのだ。

 あまりにも出来が良いものだともらうにも遠慮が出てしまうし、何より気軽に携帯することもできない。それでは意味がない。

 このくらいの品質であればそこそこ腕のいい鍛冶師であれば同じような物を用意することができる。もちろん、それは見た目だけではなく実際に使えるようなものをだ。


「だけど、約束してほしいことがある。それは、自分の身を守るためだけに使ってほしい」


 ミネヴァたちの性格や性質を考えれば悪用するようなことはしないだろうが、それでも注意事項として告げる。

 シンの創る物は見た目だけはいいものであるため、それらを他人に渡すときは必ず告げるようにしているのだ。

 二人はもちろんだと頷く。


「錬金術は、こんなものまで作れるのですね」

「ああ、なんでも創れるよ。錬金術に創れないものはないからね。……と、錬金術はこんな感じ。だいたいわかった?」

「はい、参考になりました。ありがとうございます」


 礼を言うと、受け取った短剣を仕舞う。

 見た目とは違い軽いものであるため持ち運びは簡単だ。


「……これは本当にただの興味本位なのですが」

「なんだい?」

「この文字はどう読むのでしょうか?」

「ああ、それはね……」


 ミネヴァに尋ねられたシンは、少しだけ寂しそうに苦笑を浮かべる。


「―――メイドインジャパン、だよ」




第一章『二人の錬金術』終

以上で第一章は終わりとなります。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。

次回から第二章『偽物の竜秘玉』始まります。


次話『15.帰還』09/15 21:00投稿となります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ