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なんでも創れる虚飾の錬金術士と本物の賢者の石  作者: 荒雪柳
第一章 『二人の錬金術』
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11.回復

 シンの家に素材を届けに行ってから数日、ミネヴァとネリアの二人はアイシスの看病や世話に勤しんでいた。

 シンに聞いていたとおり、薬が切れたアイシスは森から帰ってきたときに比べてその症状は深刻なものとなっており、命の危機があるというようなものではなかったが、それでもろくに動くことすらできない状態になっていた。

 そういったこともあり、二人は心配して様子を見ることにしたのだ。

 とくにネリアはアイシスが自分を庇って負傷したことに責任を感じていたからだ。

 確かにアイシスは自分に落ち度があったと言っていたが、それでも一瞬動きを止めてしまったのは事実であり、むしろ騎士であり庇うべき自分が逆に庇われることになった結果は素直に受け入れることはできなかった。


「―――いらっしゃいますか?」


 そしてある日、二人が泊まっている宿に訪れたのは修道女のブライデだった。

 予想もしていなかった来客に少しの驚きを見せるが、二人は素直に部屋に招き入れようとする。

 だがブライデはただ言伝に来ただけだとでそこまでのことではないと断った。


「シンくんから店に来るようにとのことです」

「なるほど、もう準備ができたということでしょうか」

「それは……もう少しで、と言っていたのでおそらくはもう終わっていることかと」


 それから三人はすぐにシンの店に向かうことにした。


「ああ、いらっしゃい。……ブライデもありがとうな」

「このくらいのことは気にしないで」


 疲れた顔でまず礼を言うシンにブライデは笑顔を浮かべる。


「で、これなんだけど……」


 あいさつもそこそこにと、シンはいくつかの物を机の上に並べる。


「これなんだけど……あー、調合の素材ってことでアイシスに渡してくれる?」

「えっ? それは、構いませんが……アイシスさんは」


 シンの言葉にミネヴァは怪訝そうに言葉につまる。

 それ自体は当然のことだろう。以前に説明を聞いているようにシンには錬金道具を作成することができない。だから、それらをアイシスに渡して作ってもらうというのはわかる。

 ただ、今のアイシスには無理だ。そんなことができるような状態ではない。

 それはシンにも伝えていたはずなのだ。


「あー、うん。それでこれね。この薬をアイシスに飲ませて上げて」

「この薬は……どういうものでしょうか?」

「それは……アイシスに渡せばわかるから」


 億劫そうに答えるシンにネリアは眉を顰める。

 ミネヴァもまた、その対応に戸惑いを覚えるが、その態度を見た上で一つ尋ねる。


「……これを使って他の錬金術師に作ってもらうことはできないのでしょうか?」


 ミネヴァはシンに渡された素材を指し尋ねる。

 シンが言ったスラファトの闇滴という錬金道具。それがどういうものかミネヴァにははっきりとわかっているわけではない。ただ、それを作るために集めた素材にはそれほど希少なものはなかった。

 その中で強い力を持っていたのはせいぜいブラックドッグの牙くらいのものだ。であるならばその作成はそれほど難しいものではないのではと思ったのだ。

 だから、他の者に任せることができるなら動けないアイシスに無理をさせる必要はないはずだ。


「あー……それはたぶん、無理だな」

「それは、どうしてなのでしょうか?」

「それを説明すると長くなるんだよなぁ……。また今度でいいかな」

「……わかりました」


 そう言われるとミネヴァも強くは言えなかった。


「じゃあ後は、ブライデお願い」

「はいはい。でも片付けたらすぐ帰るわよ」

「それでいいよ、ありがとう。……俺はもう寝る」


 それだけを言うとシンはあっさりと奥の部屋へと消えていった。

 あっけにとられてぽかんとするミネヴァにブライデは苦笑を浮かべる。


「そういうことですので、それをアイシスさんのところに持っていっていただけますか?」


 そう言ってブライデは深く頭を下げる。これでもう終わりと言うように。

 ミネヴァとネリアはなんとも言えない気持ちを抱きながらもその言葉に従いシンの店を後にする。

 そして、そのままアイシスのもとへと向かう。


「―――さぁ、アイシスさん、こちらを」


 シンから持たされた薬をアイシスに渡すと、アイシスは素直にその薬を飲み干す。

 どうやらシンに言われたとおりそれを渡しただけでどういうものか理解したようだった。

 その薬はすぐに効果を発揮し、アイシスを蝕んでいたブラックドッグの呪いを完全に浄化した。


「なるほど、これをシンが……」

「ええ、渡せばわかると言っていました」

「はい、だいじょうぶです」


 アイシスはすぐにそれを使って作業に取り掛かろうとするが、起き上がろうとしたときによろめいてしまう。

 呪いそのものはなくなったものの、体力はまだ戻っていないということに気付き、少し恥ずかしそうにはにかむ。


「すみません、まだ体力が……。申し訳ありませんが少し眠らせてもらいます。起きたらすぐに取り掛かりますので」


 とりあえず今の状態で作業に取り掛かるのは無理だと判断した。無理をして道具の質が落ちてしまっては本末転倒だ。ひとまず体を休めて呪いによる疲労を回復することが優先だ。


「ええ、構いません。……私が言えることではありませんが、どうかお体を労ってください」

「……ありがとうございます。二、三日でできると思います」


 アイシスが安心したように息をつく。

 ただ、ネリアだけは不服そうに僅かに顔を歪めていた。


「リア? どうかしたの?」


 だがネリアはなんと言うべきかわからなかったのか、しばし考え込んだ後、なんでもないと首を横に振る。

 だが、もう一度ミネヴァに促されると、言葉を選ぶようにゆっくりと口に出す。


「……結局一度も見舞いに来なかった。薄情な男」


 ネリアはそれがずっと不服だった。

 心配している素振りがないわけではなかった。だけど、結局シンは何もしなかった。ここでアイシスが苦しんでいることはわかっていたはずなのに。

 せめて顔を見せるくらいはすべきではないのかと。

 その思いはミネヴァにもあったのか、そのネリアの言い分を否定はできなかった。ただ、違和感はあった。本当に何もしなかったのかと。

 だけどはっきりとした確信はなかった。だからそこで何も言えなかったのだ。


「……」


 ミネヴァはちらりと視線をアイシスに向ける。

 だが、アイシスが動く気配はなかった。何も言おうとはしなかった。

 ただ、感情の籠もらない瞳でネリアを見つめていた。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。楽しかったと思ってもらえたなら幸いです。

よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。


次話『12.偶然』09/12 21:00投稿となります

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