第九章 合同発表(工房組合)
昼下がり、工房組合の集会所は人でいっぱいだった。木の床がぎしぎし鳴り、窓の外では水車がゆっくり回る。雪巴は入口の机に小さな板を置き、○△×の印を見えるように立てた。横には「調律中」の札、赤いもどる矢印。道具は少なく、言葉は短く。
工房主が挨拶し、アジェルが前に出る。「三分で何が変わるか、数字で出す。中断・再作業・事前相談の三つを午前と午後で比べた」
板に書いた結果を示す。〈中断 26→19/再作業 14%→11%/事前相談 3→7〉、翌日は〈19→23/11%→13%/7→2〉と崩れたことも添える。
客席の前列で腕を組む男が言った。「余白は浪費だ。速度を落とす理由にならない」
「止めるための余白ではありません。止めない三分=計測です」雪巴は短く答える。「手は止めず、目と耳だけを使い、一行で書いて次の一手を決める。その結果は○△×でその場に出します」
「数字は本当か?」
「板はいつでも見に来てください。事前相談は増えれば○、中断と再作業は減れば○です」アジェルが言う。「速さは、型のあとで上がる」
別の工房主が手を挙げた。「試すなら期間は?」
「まず二週間。午前のみ。呼ばれたら即停止の約束で」雪巴は言う。工房主もうなずく。「申請は私が持つ」
そのとき、組合の監督官が立ち上がった。「二週間の査察を入れる。記録は一日ごとに提出。申請書には、三分の定義、停止条件、数字の取り方を書け」
紙が強い日が来る、と雪巴は思う。けれどやることは変わらない。三分会議→一行→一手。○△×で出す。
会が終わると、窓の外の水車の音は低くそろっていた。雪巴はノートに一行書く。〈説明は短く、数字は見える所に〉。数字と一行で道は開く。
・合同発表……工房組合での説明会。結果は板で公開する。
・査察……監督官が二週間かけて様子を見ること。
・申請の三項目……三分の定義/停止条件/数字の取り方。