表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

第八章 時の布の工房(旧街区)

 旧街区は道がせまく、屋根どうしがほとんど手をつなぐほど近い。糸屋と革屋の間、細い暖簾の向こうに仕立屋の作業台があった。のりの匂いと、布を切るしゃりっという音。水車の回る音が遠くでゆっくり鳴っている。


「工房で使える形にしよう」仕立屋は笑って、白い布と糸を出した。「まずは手首の紐。出立前のハイタッチ(雪巴の工房だけの合図)の前に、きゅっと結んで合図にする」


 糸をとおし、三分結びを見せる。小さな輪を作り、くるりと回して軽く留める。心の中で三つ数えて、端を引くとするりとほどける。「結ぶ→三つ数える→ほどく。切り替えの合図だ。固くしすぎないこと」


 つづいて、細い刻針で紐の内側に小さな点を三つ打つ。「ここまで進めたら一息戻る、の印。今日は三つまで。全部やろうとしない」


「持ち歩き用の道具も欲しいです」

「用意しよう」

 仕立屋は小さな板を二枚(片手大)と、赤いもどる矢印の札を十枚、布の袋に入れてくれた。板の端には○△×の小さな刻み。袋の口には、調律中の小札を結べるように細い糸が通してある。


 雪巴は手首に紐を巻き、三分結びを軽く締めた。深呼吸をひとつ。輪のゆるみが、胸のゆるみと同じ速さでほどけていく。店の外で手を合わせ、音を短く「パン」。


「明日から、その合図で始めな」仕立屋はうなずく。「困ったら、三つ戻ってからまた進めばいい」


 帰り道、雪巴はノートに一行で書いた。〈道具を軽く、小さく。合図を短く〉。袋は思ったより軽い。工房の扉までの坂を上りながら、雪巴は三つ数えた。数字と一行で道は開く。

・出立前のハイタッチ……雪巴の工房だけの内作法。心をそろえる合図(外では使わない)。

・携帯セット……片手大の板2枚/赤いもどる矢印の札/小札「調律中」。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ