表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

第七章 灰の季節・四

 翌日。板の○△×を拭き、入口に札を掛ける前に、雪巴は短く提案を書いた。〈一日の枠=毎時の初め三分は観察/終わり五分は相談〉。止めるためではなく、流れを整えるための枠だと、一行で添える。

 

 工房主は腕を組み、扉の張り紙「余白は浪費」をちらりと見てから言った。

「止めない三分なら、試していい。終わりの五分は、客の列が切れたらで調整だ」

 アジェルが鼻で笑う。「三分で何が見える」

「水車の音と、通路の詰まり。赤いもどる矢印の位置も」

「……仕方ねーな。午前で数字を出せ」


 毎時の鐘が鳴る。初めの三分、手は止めず、目と耳だけを動かす。断裁のシャク、打ちのトン、紙束のしゃりっ。通路の交わりで一瞬だけ人がかさなる。雪巴は一行で書く。〈交差点に紙箱が置きっぱなし〉。終わりの五分、入口で提出前の相談を受ける。順番を紙に○△×で付け、迷いはそこで吐き出す。


 午前の数字。板に記す(事前相談は増えれば○)。〈中断 17→15/再作業 10%→9%/事前相談 15→18〉。工房主が「少し軽い」と言い、交差点の箱を壁際へ移動させた。赤いもどる矢印は各工程の目に入る高さに貼り直す。


 午後、張り紙を見て眉をひそめた帳簿係が立ち寄り、「余白は浪費だぞ」と言った。雪巴はうなずき、板を示す。「止めるための余白ではなく、計測の三分です。通路の交差が減りました」アジェルが短く付け足す。「速い。音が低い」


 終業前。数字はもう一段だけ動いた。〈中断 15→13/再作業 9%→8%/事前相談 18→19〉。通路の声は短く、風見はゆっくり回る。雪巴はノートに一行書く。〈時間を返す=誰のために何分を使うか決め直す〉。工房主が頷く。「札と板はこのまま常設だ。終わりの五分は、混む日は三分まで。客が多い日は鐘を二回にする」


 外に出ると、橋の骨が低く鳴った。水車の回る音も静かだ。雪巴は深呼吸をして三つ数える。数字と一行で道は開く。明日は、他の工房にも見に来てもらおう。

・今日の枠……毎時「初めの3分=点検/終わり5分=提出前点検」。止めるためでなく整えるため。

・紙が強い日の言いかえ……言葉を合わせると通りやすい(例:三分会議→点検三分)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ