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第十九章 三分の教室

 見習いが十人、工房の小部屋に集まった。鐘を二回。入口には調律中の札。小机の端に小さな砂時計を置き、鐘に合わせて返す。最初にやるのは三分会議だ。三分は停止ではなく計測。静かに見て、聞いて、匂いも拾う。砂が半分落ちるころ、一行で書く。きょうの目的、一つだけの次の手、退き道の位置。それで十分だ。


 板は壁のいちばん見やすい所に。三つの数字を○△×で記す。事前相談は増えれば○。中断と再作業は減れば○。砂が落ちきったら合図し、午前が終わったら印を一つ動かす。細かい数字は日暮れにまとめる。紙が強い日でも、板の印は味方になる。


 退き道は赤いもどる矢印で示す。危ないときは矢印まで一歩さがり、ひとつ前の手順や安全な場所に戻る。そこで点検三分。見えたことを一行、次の手を一つ。罰ではない。流れを守るための、だれでも使える道だ。


 合図は外では鐘二回。うちの工房の内作法は、出立前のハイタッチだが、ここでは見学の人もいるから使わない。代わりに手首の紐をきゅっと結ぶ。気持ちの向きをそろえるための、短い仕草だ。


 では、やってみよう。入口で一言を受ける窓を開ける。工程2の束は一時的に後ろの工程4へ送る。交差点の滞留が消えるかを三分で確かめる。退き道は机の角に。板に印。午前の結果はこうだ。中断は十五から十三に。再作業は9%から8%に。事前相談は九から十二に。数字は小さいが、流れはたしかに軽くなる。


 質問が出る。「三分でたりるの?」たりる。三分は扉だ。あければ、次の一手が見える。もう一つ。「失敗したら?」戻ればいい。退き道がある。戻る自由が先にあるから、前へ出やすい。


 最後に、一行だけ持って帰ってほしい。数字と一行で道は開く。迷ったら、まず三つ数える。次に、一手だけ動く。それを繰り返せば、今日より少しだけ良い明日に届く。

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