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第十五章 断絶の儀

 査問を終え、雪巴は工人証を胸にしまった。首都ルクスナの坂は白く、風は少し冷たい。宿に荷を置き、水を一杯。窓を少し開け、〈時の布〉を指で押す。戻る速さに合わせて息を三つ。胸の中の波が静かになったところで、ノートに一行ずつ書く。〈目的=断絶の儀を済ませる/困りごと=書式が多い/一手=一枚ずつ進める〉。赤いもどる矢印も描いた。


 役所へ上ると、石だたみが足裏に冷たい。受付で札を受け取り、ベンチで点検三分。紙が強い日こそ、三分は計測。数字と一行で道は開く。


 壁の掲示に小さく説明があった。〈断絶の儀=養い手や旧所属が持つ「名」と「時間台帳」の管理を、本人に戻す手続き。家族との訣別を法のうえで確かめる儀〉。手順は三つ。ひとつ、名の宣言(通称と読みも記す)。ふたつ、時間台帳の開設(働いた分・学んだ分・休んだ分を自分で記録し、誰が見られるかを決める)。みっつ、連絡人の登録(任意。境界線を守る人を一人。血縁でなくてよい/距離を守る合図役)。効力は本日から。旧所属へは通知が送られ、親の印は以後不要。名札と台帳番号は役所の印で結ばれる――とある。


 書記が声をかけた。「一号の書式から。筆で、ゆっくりどうぞ」。雪巴は焦らず、一枚ずつ記入する。もし書き間違えたら深呼吸をひとつ、三つ数えてから最初の欄へ戻る。二号へ、三号へ。行列がのびそうなら先に事前にひと言だけ相談する。あとでやり直さなくてすむからだ。


 途中で字がにじんだ。布をそっと押し、戻る速さに合わせて息をすう、止める、吐く。三つでいい。指先のふるえが止まり、角の時計の小さな音が四角い部屋に溶けた。


 最後の印を押すと、書記が細い板を差し出した。新しい名札だ。刻まれた文字ははっきりしている。役所の印と、さっき受け取った工人証の番号が小さく並んでいた。


「これで手続きは完了です。今日から、その時間はあなたのものです」


 薄い通知紙が一枚、役所から旧所属へ送られる。〈名と時間台帳は本人が持つ〉。親の印は、もういらない。雪巴は静かにうなずき、深く息をして三つ数えた。手首の紐をそっと結び直し、窓の風を一口だけ吸った。


 雪巴は深く礼をして役所を出る。坂を一つ下れば、職人工房の看板が並ぶ通りだ。三分で戻り、三分で進む。明日は、工房の門をたたく見習いとして、正式に立つ。

・断絶の儀……名と時間台帳の管理を本人へ戻す手続き。家族との訣別を法で確かめる儀。

・時間台帳……働いた・学んだ・休んだ時間を自分で記録し、見られる相手も自分で決める。

・名札……役所の印で台帳番号と結ばれた板札。

・連絡人(境界線を守る人)……任意で一人登録。血縁でなくてよい。適切な距離を守る役。

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