第十章 通達の朝
朝一番、灰色の帽子の役人が封書を置いていった。表には「時間庁 通達」。封を切ると三つの条が太い字で並んでいる。第17条・手順の無断変更の禁止。第34条・三分間の停止は禁止。第52条・未申請の掲示物の撤去。紙が強い日が来た。
工房主が眉をひそめる。「どうする」
「言い方を紙の言葉に合わせます」雪巴はうなずき、板を拭いた。「三分会議は『停止』ではなく『点検三分』。手は止めず、目と耳だけの点検です。赤いもどる矢印は『安全標識』。入口の相談台は『提出前点検』」
まず三分会議を一回。通路の箱、紙粉の山、風見の回り。雪巴はノートに一行で書く。〈点検三分=毎時の初め/提出前点検=終わり五分〉。それから申請書を三枚に分けて作る。A「点検三分の定義」目的・対象・停止条件。B「板の運用要領」中断・再作業・事前相談の基準と○△×の付け方。C「標識と札の位置」安全標識(赤い矢印)と調律中の札の寸法と掲示時間。
アジェルが書類を指で弾く。「数字は入れろ」
「はい。きのうまでの数字を添えます。午前と午後、三日ぶん」
雪巴は板の記録から数を写す。〈中断 17→15→13/再作業 10%→9%→8%/事前相談 15→18→19〉。欄外に小さく注を入れる。〈事前相談は増えれば○、中断と再作業は減れば○〉。
昼前、時間庁の書記が回ってきた。「通達の確認に来た。掲示物は?」
「申請中です」雪巴は書類束を渡す。「三分は計測の点検です。手は止めません。数字は板で公開しています」
書記は赤い矢印を見て首をかしげた。「これは」
「安全標識です。失敗時の退き道を示します」
「掲示時間は」
「就業中は常設、閉店後は外します」
書記はうなずき、紙に印をつけた。「仮受理。監督官の査察まで、二週間はこのまま。ただし数字の提出は日ごとに」
夕方、札を拭きながら雪巴はノートに一行で書く。〈言い方を合わせれば、やることは変わらない〉。
外に出ると、水車の回る音は低くそろっていた。数字と一行で道は開く。
・点検三分……「停止」でなく「計測」。手は動かしたまま見る・聞く。
・安全標識……赤いもどる矢印など、安全のための掲示。
・申請書A/B/C……A点検三分/B板の運用/C標識と札の位置・時間。




