御厨麻紀
ホームズが事務所に引きこもっても捜査は続きます。
十月二十六日、水曜日。有田が三日ぶりに事務所を訪ねてみると、ホームズはパソコンに向かっている最中だった。
有田の捜査も終盤を迎え、女将殺しの容疑者になるような浮浪者や不良グループからの聞き取りもあらかた終えたため、夕方の早い時間に来ることができた。
「未明君、久しぶりね」
ちょうどマスターがコーヒーを届けに来たばかりのようで、ひと息つくように有田の方を向き、ブラウンシュガーをカップに入れた。
「久しぶりと言ったって三日ぶりなだけじゃないか」
「そうなの? まだ三日しか経っていないのね。引きこもると時間の感覚がわからなくなっちゃうわ。未明君は相当疲れているみたいだけど、捜査は順調に進んでるの?」
「ああ、こっちは足を棒にして聞き込みを続けてきたおかげで、ようやく事情聴取がひと通り終わりそうだ」
有田は腰を下ろし、ひと息ついて付け加えた。
「静岡で古谷さんから聞いた話の裏もほとんど取れた。真鍋とキノコスープがさなえから消えたのは、十六年前で間違いない」
「面白い表現ね。『さなえから真鍋さんとキノコスープが消えた』だなんて」
久しぶりの引きこもりで相当気が滅入っていたのか、些細なことで笑顔を見せた。
「それと……事件に関係あるかどうかわからないけど、女将が殺された夜、午前一時過ぎに付近を走り去る車があったとの証言が出てきた」
「それって死亡推定時刻よね」
ホームズが敏感に反応した。
「そうなんだ。ひとりのホームレスが、近所の飲食店の裏口あたりで食べ物を探そうとしていたときに、静かな音で車が走り去る音を聞いたと言うんだ。あの辺りまで車が入り込むことは珍しくて、不良グループのうるさいバイクの音に慣れているから、かえって静かな車の音が記憶に残ったと証言している」
「ふーん、急発進して走り去った車が怪しいって話は良く聞くけど、静かに走り去ったのに怪しいわけね……」
ホームズはコーヒーを置いて、パソコンにその情報を入力した。
「私の方の情報としては、ミサトさんが出会った『御厨麻紀さん』が何者なのかだいたいわかったわよ」
「名前だけでわかるものなのか」
「御厨なんて珍しい名前だし、いろんなSNSやネットに流通しているあらゆる名簿をすべて検索したのよ。麻紀さんは、本名で登録するタイプのSNSにはほとんど書き込みをしていないけど、書き込みの共通点や友達として登録している人の書き込みとか、その友達が使っている他のSNSでの友達や、そのまた友達の友達まで、片っ端から調べたら絞り込めたわよ」
有田にはさっぱり理解できないが、引きこもりホームズの真骨頂といったところか。
「出身は山口県下関市で地元大学の教育学部卒業。年齢は二十六歳で、武蔵小金井にある小学校の先生をしていて独身よ」
「そんなことまでネットでわかるものなのか」
「あら、もっと詳しくわかりそうだけど、確定したら報告するわ」
ホームズの引きこもりはまだ続くようだ。
「さなえのキノコスープもネットで見つけてくれていたら簡単に裏が取れたのにな……」
有田は何気なく愚痴を呟いてみた。
「あのね、SNSが今みたいに一般的になったのはほんの十年ちょっと前からでしょ。十六年前といえば、招待状を送ってもらわないと会員になれないタイプのSNSが、やっと知られ始めたくらいの時期なのよ。それに、あのさなえに通う常連さんがSNSに写真をアップする姿を想像できる?」
ホームズが呆れた顔で答える。
有田は肩をすくめて立ち上がると、話題を変える材料を求めて壁に貼られている写真に目を向けた。
「これらの写真って事件と関係ありそうなのかい? 見るからに何の脈略もない写真のようだけど……」
そこには、品川埠頭やそこから見える橋、彩花が行ったと思われるフィットネスクラブの写真などが無造作に貼られていた。
「関係するかどうかを今、調べているのよ」
「いくらなんでも、フィットネスクラブは関係ないんじゃないか」
「あら、ジムの防犯カメラ映像から見ると、彩花さんって見かけによらずハードなウエイトトレーニングをやってるのよ。相手が女性なら、押し倒すことも、ナイフを突き立てることも、さらに引き抜くこともできそう」
ホームズの棘のある言い方に有田は反応した。
「女将殺しの犯人だと言うのか? それはさすがに無理があるだろう」
「可能性を言っただけよ。刑事でも美人には甘くなるのね」
「そんなことないよ……」
有田が答えたとき、ドアをノックする音がした。
「こんにちは」
顔を覗かせたのは山科だった。今日もしっかり髪型を整えてスーツを着こなしている。
「山科さん、いらっしゃい。今日は何か御用ですか」
ホームズが顔をほころばせて山科を迎え入れた。
「用事というほどではないのですが、近くを通ったので寄ってみました。ホームズさんも有田刑事も元気そうで何よりです」
山科の社交辞令は、さすがに国会議員に立候補しようとしているだけのことはある愛想の良さだ。
「今は引きこもり中なのでここを離れたくないから、コーヒーを取り寄せましょうか。未明君も飲むわよね」
有田は『ついで』の扱いに不満の表情を浮かべ、
「どうしてもというならお付き合いしますよ」
と、精一杯の皮肉を込めて返事をした。
「私ももう一杯いただこうかな」
ホームズは、ベイカー街に電話で注文を告げた。
ほどなくして、元気に階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。
「こんにちはー」
明るい声の美里がコーヒーを三つ運んできた。
「ミサトさん、今日は早いのね。もうバイトしてるの?」
「はい。ホームズさんの引きこもりのお世話がしたくって、即行で帰ってきたんです。私にできることがあったらいつでも声をかけてくださいね、引きこもりのホームズさん」
美里はホームズが引きこもっていることすら楽しんでいるようだ。
「ミサトさんは、若さがあっていいわね」
「えーっ。私は早く大人になりたいんだけどな」
美里があまりにも純粋そうに言うので、
「大人になったからって、背は伸びないんだよ」
有田が、からかうように言った。
「わかってますよ。未明君って失礼ね」
美里は有田を睨むと、頬を膨らませた。
「ホント未明君はデリカシーがないんだから……。ところでミサトさんにとっての『大人になる』ってどういうことかしら」
「はい。私、早く十八歳になりたいんです。十八歳になったら選挙にも行けるし、いろいろと大人の仲間入りができるって期待がたくさんあるんです。実は……明後日が誕生日なんですよ。もう待ち遠しくて……」
美里は、両手を組んで祈る仕草をした。
「あら、じゃあミサトさんは明日から十八歳なのね」
「いえ、明後日なんですよ?」
美里が首を傾げながら答えた。
「あのね、誕生日の前日に満年齢は一歳増えるのよ。だから法律上は明日から堂々と『十八歳になりました』って言えるのよ」
「えーっ! そうなんですか? 私、ずっと誕生日が来たら年齢が増えるんだと思ってました」
美里は思いがけずに探し物を見つけたときのように嬉しそうな目をした。
「いいわね……私くらいになると、歳を取るのは一日でも遅い方がいいくらいだわ」
ホームズは苦笑いしている。
「俺も今まで、誕生日で年齢が増えるものだと思っていたけどな」
有田の言葉に山科も大きく頷いている。
「あら、選挙に出ようとしている山科さんは絶対知っておかなきゃいけないわ。投票日の翌日が十八歳の誕生日の人も、投票日時点で『満十八歳以上』となるから選挙権があるんですよ。貴重な一票じゃないですか」
ホームズの説明によると、『年齢計算に関する法律』ってやつで、「年齢の計算方法は、民法の期間計算を準用する」となっていて、その民法では「期間の計算は、起算日に相当する日の前日で満了する」ようになっているらしい。だから「誕生日の前日になった時点で満年齢は加算される」という。さすがに法学部首席だっただけのことはある理路整然とした説明だ。
「ホームズさんって本当に何でも詳しいから大好き。私も早くホームズさんみたいな大人になりたいな」
美里がそう言い、空になっていたカップを持って出ていくまで、山科は黙って美里の顔を見つめていた。美里は山科を初めて見るようだったが、明らかに山科には「見覚えがある」という感じだった。
美里が帰ると、ようやく山科が口を開いた。
「選挙権年齢が十八歳に引き下げられたのは知っていましたが、投票日が誕生日までの人だと思っていました。長いこと秘書をやっているのに面目ない」
頭を掻きながら言う山科は、本当に知らなかったようだ。
「山科さんは先日のお話から察するに、身の回りを警護する秘書さんだったのではありませんか? 選挙プロの秘書さんが議員会館にいらっしゃるでしょうから、そんな小さなことは知らなくても大丈夫なんですよね」
ホームズが微笑みかけながらコーヒーを勧めた。
山科がコーヒーを飲もうとして、テーブルの上にシュガーポットを見つけた。
「あれ? ここにもベイカー街と同じシュガーを置いているのですね」
シュガーポットの中には、ベイカー街のものと同じ一センチ四方程度のブロック形で、いかにも手作りっぽい不揃いな形をしたブラウンシュガーが入っている。
「はい。マスターにお願いして同じものを分けてもらっているんです。私はこれを入れたコーヒーが大好きなんですよ」
ホームズがにこやかに答えながら、ブラウンシュガーを二個カップに入れた。
「せっかくの美味しいコーヒーの味が損なわれませんか」
山科も有田と同じことを思ったようだ。
「あら、マスターのコーヒーには、このブランシュガーが合うように淹れられているようで、本当にベストマッチなんですよ」
また、ホームズがブラウンシュガー自慢をしているが、本当はコーヒーの苦みが嫌いなお子様なんじゃないかと有田は思い始めていた。
「そういえば、ウチにいらしたときもコーヒーにシュガーを入れていましたね」
山科が笑いながら壁に目を移したとき、一瞬表情が変わったことに有田は気づいた。目を見開くというほどではないが、何かを見つけた表情だった。
「そうそう、ホームズさん。『引きこもり中』って何ですか。探偵さんが引きこもっていて大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫ですよ。私は中学生の頃、苛められていて引きこもりには慣れているんです」
ホームズの「大丈夫」は相変わらずピントがずれている。
有田は以前、ホームズが引きこもりしていた頃の話を聞いたことがある。小学生の頃から苛められていて、中学でとうとう登校拒否になった。苛められるようになったきっかけが、『毎日綺麗な洋服を着てくるお嬢様』に対するやっかみだったらしく、小学三年生の夏に綺麗な洋服を泥だらけに汚され、おまけに土まで食べさせられた。それ以来『白いブラウスにジーンズ』というワンパターンな服装しかしなくなったらしい。しかし、その事件がきっかけで土の味に興味を持ち、色んな土を味見することが楽しみになったようで、今では、「土の味を教えてくれたお友達に感謝したいわ」と、信じられないくらい明るい思い出として話してくれた。
引きこもりになってからは、読書とパソコンを毎日やっていたらしい。文字どおり寝食を忘れて一日に二十時間くらい費やしていたとのことだ。興味を持てばとことん追究するのは今も変わっていないが、毒物に興味を持つようになった理由は聞いていない。聞くのが恐ろしい気もするが、ホームズに限って犯罪や自傷目的ではないだろう。
その頃から毎日パソコンを使っていたおかげで、ITエキスパートレベルの技術と知識を身に着けた。しかも単に自宅に引きこもっていただけでなく、ネットを使った独学で名門高校に優秀な成績で合格した。高校では、苛められないようにと他人の心理を読み取ることが得意となり、それが高じて心理学の研究に興味を持ったとのことだった。
法学部に首席で合格したり、理系も得意だったりとまさにスーパーウーマンなホームズは、「引きこもりによって誕生した」ともいえるのだ。
探偵になった後もこうして引きこもることがあるので、有田はホームズの本名に掛けて密かに『巣ごもり』と呼んでいる。
「探偵といっても外に出て探し物するだけじゃなくって、今はパソコンで世界中の出来事を探し回ることができるんですよ」
ホームズが得意げに言う。
「へえ、世界中の……」
山科は首を傾げて、理解しかねるという顔をした。
「たとえば、ホームセンターやコンビニの防犯カメラにハッキングして、怪しい人物を探すとか……。そんな犯罪すれすれのこともできます。だから私が引きこもると、警察庁のスーパーコンピュータ以上の働きをするんですよ」
ホームズはにこやかな顔でさらっと言ったが、
「それは怖いですね。僕の個人情報もホームズさんにかかれば素っ裸にされそうだ」
山科の笑顔は少し引きつっていた。
それからひとしきり、有田には意味不明なタニラー同士の話で盛り上がった後、山科は満足気に帰って行った。
山科が帰った後に有田が立ち上がって確認すると、山科が見て反応していたのは一枚の写真だった。それは品川埠頭でホームズが撮影していた雑草の写真で、有田には何の変哲もない『ただのクサ』にしか見えない。
「この写真の何が引っかかったんだろう……」
「その写真がどうかしたの?」
「さっき、山科さんがこの写真を見て目を輝かせていたんだ」
「ふーん、やっぱりね」
さも『タニラーなら当然ね』と言いたそうに頷いた。
「さっき、私と山科さんが多肉植物の話で盛り上がっているときに、未明君は手帳を開いて何か書いていたでしょ?」
「うん。御厨麻紀さんのことを忘れないうちに書いておこうとしたけど、それが何か?」
「そのときに、山科さんがテーブルの上にあるペン立てから赤いサインペンを一本だけそっと胸ポケットに入れたのよ。別に私が後ろを向いていたわけじゃなくて、窓辺の多肉をふたりで見ながら話していたのよね……。別にサインペンくらい無くなっても困らないからいいんだけど……」
ホームズは首をすくめて、それらをパソコンに入力していたが、有田は別の可能性を考えていた。
超奥手の有田にも同じような経験があった。「好きな娘の持ち物を共有したい」と、中学生の頃、密かに憧れていた同じクラスの女子が捨てた『ちびた鉛筆』を持ち帰ったことがある。「よくわからないけど、あれと同じかな?」と思い、パソコン入力しているホームズの横顔を見ていた。
翌日、有田がホームズの事務所に着いたのは夕方六時過ぎだった。
前日にも増して、テーブルの上の資料はうず高く積まれ、壁の写真やメモ書きも増えていた。ホームズ本人ですら何を調べているのかわからなくなるのではと心配になる。それでもテーブルの一角にコーヒーカップとサンドイッチの皿を置けるスペースが確保されているのは、コーヒーを運んできた際に、美里がかいがいしく片づけているのだろうと想像できた。
「ホルモン焼き『チエちゃん』をやっていた大将の証言が取れたんだけどな……」
相変わらずパソコンに向かっているホームズに話しかけた。
「静岡の古谷さんが話してた、鳥やすの所にあった以前のお店ね」
ホームズはパソコンに向かったまま答える。
「烏丸幸次さんもチエちゃんの常連だったようで、烏丸さんが亡くなった日のことはよく覚えていたんだ。あの日の夜七時頃、チエちゃんの前まで男が車でやって来て、かなり慌てた様子で路地の奥へ走って行ったらしい」
「さなえの方にってことね」
「そうなんだ。置きっ放しにするのか気になっていたら車はスグに発進したんで、誰かが送って来たんだなと、そのときは気にも止めなかったらしい」
「運転していた人の顔は見てないの?」
「ああ、どっちの顔も見えなかったけど、両方とも男だったのは間違いないそうだ」
「よく十六年も前のことを覚えてたわね」
「翌日に他の常連から烏丸さんが事故で亡くなった話を聞いて、前夜の車は烏丸さんだったんじゃないかとずっと思っていたらしい」
「当時の警察には話したのかしら」
ホームズがパソコンの手を止めて有田を見た。
「いや……当時の警察はあの辺りまで聞き込みには行ってないそうで……大将もわざわざ警察に行くほどのものでもないと思ったらしい……」
有田の奥歯に物が挟まったような言い方に、ホームズが核心を突いてぼそりと呟く。
「その大将も警察が嫌いなんでしょ?」
「ああ、聞かれもしないのにわざわざ警察に協力する気はさらさらないそうだ」
有田は大袈裟に肩をすくめた。
「ホームズの方は何か新しい発見があったのかい?」
「そうね、その烏丸さんだけど、単なる事故死なのか疑わしい点が出てきたわね」
「どんな点が疑わしいんだい?」
「まず、事故現場なんだけど、北アルプスの中腹を走る林道を夜間に運転していて、谷に転落したみたい。大きくは載ってないけど、長野県の地方新聞に小さく載っているわ」
「夜間の慣れない山道でハンドル操作を誤ったんだろ?」
「ところが同じ頃の倉見代議士は汚職疑惑の渦中にいたという記録がたくさん残っているのよね。そんな大変な時期に私設秘書が奥さんと、こんな山奥に行くと思う?」
「それは少し不自然だな……」
「もっと詳しく調べてみたら、事故現場の先には烏丸香織さんの育った実家があるってわかったわ」
ホームズがさっきからパソコンと向き合っているのは、まさにこのことを調べている最中だったようだ。
「でも、今回の事件と関係あるのかな」
「今はまだわからないけど、『十六年前』っていうキーワードが気になるのよ」
「確かに十六年前ってのは、真鍋がさなえに通っていたのや、キノコスープがメニューから消えた時期と同じだけど、今回の事件と関係しているのか、さっぱりわからないよ」
「関係ないかもしれないけど、一旦気にかかりだしたらどうにも止まらなくなってしまったの……」
「ずっとパソコンばかり見ていたら疲れるだろう。たまには出歩かないか? 一緒にベイカー街で夕食でも食べようよ」
「そうね。もう四日も部屋から出てないし、外の世界を味わってみようかしら」
引きこもり中のホームズにしては珍しく出かけるようだ。出かけるといっても二階から一階に下りるだけだが、これまでにない行動パターンに有田は少し驚いた。
ベイカー街のドアを開けると、
「あっ、ホームズさん。もう引きこもりは終わりですか」
美里が目を輝かせて、とびきりの笑顔で出迎えた。
「まだ終わってないけど、たまにはお店で食べようかなと思ってね」
ホームズは、いつものカウンター席に腰を下ろしてたまごサンドを注文した。
有田はベイカー街名物のドライカレーを注文した。
「山科さんとは、お会いになりましたか」
マスターがおしぼりとスプーンをカウンターに置きながら話しかけてきた。
「いえ、今日は会っていませんよ」
ホームズが怪訝そうに首を傾げた。
「そうですか……さっきまで奥のテーブル席に座ってコーヒーを飲んでいたから、てっきり有田さんかホームズさんを待っているのかと思っていました」
「そうそう、ホームズさんがいつも座る席にひとりで座って、手帳に何かを書き込んでいました。二十分くらい居たんですよ」
美里も付け加えた。
「そうなの……」
せっかくのたまごサンドを味わっているようでもなく、ホームズはそう呟いて何かを考えていた。
ホームズが、山科に会えなかったのを残念に思っているのではないかと想像し、心の乱れを読み取られないよう黙り込む有田だった。




