この世界にたった二人
晴と紗良はその小さな体で右足、左足を交互に前に出してただただ交番を目指してひたすら歩いた。
途中何度も座り込みそうになった紗良だったが
前だけを真っ直ぐ見て歩く晴の姿に背中を押され
自分も負けじと交番まで足を止めることなく
歩き続けた。
方角なんて分からない、もちろん帰り方なんて
分からない5歳の二人は道があるところを
真っ直ぐ進んだ。行き止まりになればまた戻って
道がある場所を進んでいく。
そうして辿り着いた二人だったが
明かりはついていたものの交番は無人だった。
「なんだよ!いねぇじゃんかよ!」歩き疲れていた晴は
交番のいすに座り込み、紗良もその隣に座った。
紗良「パトロールしに行ったのかな?」
晴「分かんねぇ。待ってたら帰ってくるよ!」
しばらく椅子に座って待っていた二人だったが
おまわりさんは帰ってこなかった。
「もう!こうなったら誰でもいいから誰かに
助け求めよう!」と晴は椅子から立ち上がり
歩き出したその後ろを紗良も早歩きで付いていき
晴の隣に並び二人してまた一緒に歩く。
歩いているものの何かがおかしい。
周りを見渡して晴は気付く。
そう、ちらほら明かりはついているのに
お店に人がいないのだ。
コンビニ、ファミレス、お客さんがいないのは
あり得るが店員さんもいない。
「俺達ずっとここまで歩いてきたけど、誰にも
会わなかったな」と晴がいきなり立ち止まったことにより紗良もその場に一時停止する。
晴「今だって人がいない…
歩いてる人が…俺達以外…
車だって全然走ってねぇし…」
車の一台や二台、いやもっと走っていてもいいはずなのに全く走っていなかった。
夜遅いのは確かだがそんなに遅くはない。
21時か22時といったところだろうか。
二人は時計も携帯も持っていないため
時間は分からないのだが。
紗良「あたし達二人だけってこと?
パパやママだけじゃなくて
みんないなくなっちゃったの?」
晴「今、この世界には二人だけなのかも…」
晴が世界には二人だけと言った途端「うぇぇぇーん」と紗良が泣き出してしまった。
泣き出したと同時に突然の大雨が二人を襲う。
晴「おい、泣くなよ!ってなんで雨まで!
めちゃくちゃ晴れてたのに」
紗良は大雨にも負けない大きな口を開けて
大声で泣いている。
とにかく雨に濡れない場所に行こうと考えた晴は
「おい!行くぞ!」と言って紗良の手を繋いで
走り出した。
走って飛び込んだ先は、公園にあるトンネルの
遊具だった。