第五話「その花の名前は「アガベ」。花言葉は「気高い貴婦人」」
私は、昔から本を読むのが好きでした。
小説はもちろん、エッセイ、歴史、経済学、生物学……文字を読み、その世界に没頭し、知らない事を知る事が好きだったのです。
特に、大好きなのは、「魔法学」の本でした。
デルフィニウム教授が発表した『花と魔力の相互関係』は、本当に面白かった。分からないところはお父様に聞いて、自分でも言葉の意味を調べて読みました。
「咲いている花の種類が多ければ多い程、その土地の領主の魔力は強い」
この学説は、衝撃的でしたわ。つい、花の種類や花言葉まで勉強したものです。
でも、十二歳のある日。
私は持っている本を捨てました。
夜、弟を身ごもっていたお母様が、お父様に泣いてすがっている姿を見てしまったからです。
「あの子はおかしいって、皆様おっしゃるのよ。女なのに、本ばかり読んで……。小説ならまだわかりますけど、あの子、経済や歴史といったものまで読むでしょう? まるで男のようだ、私の教育がなっていないって、皆様、悪いように言いますの」
「今だけだよ。すぐに飽きる」
「大丈夫かしら? 本を読む女は嫌がられるわ。大人になった時、嫁ぎ先があればいいけれど……」
「大丈夫。あの子はいい子だから。きっといい嫁ぎ先が決まるよ」
ショックでした。
自分が本を読んではいけない存在である事も。
それによって、大好きなお父様もお母様も傷つけている事も。
だから、本を捨てました。
だから、皆が望む女になりました。
だから、自分を殺しました。
どうしても衝動が抑えられなくなった時は、図書館でこっそり本を借り、私室で月明りの中、読んでいたのです。
おかげで、自分より爵位の高い侯爵令息との婚約に至り、お父様とお母様も安心させる事ができました。
悲劇のヒロイン?
冗談じゃありませんわ。
不幸である事を周囲のせいにするほど、私、落ちぶれてはおりませんの。
私の名前はアガベ。過酷な環境の中でも、一度だけ花を咲かせる植物の名前が由来。その通り、どんな状況であっても、私は花を咲かせてみせますわ!!