エピローグ
アガベが女辺境伯となって、半年。
「それでは、アガベ=フルール女辺境伯。行ってまいります」
黄昏の丘の屋敷の前で、一人の少女がトランクを持って、玄関の前に立っていた。
茶色のチェック柄の帽子とジャケット、そしてスカート。胸には赤いリボンが施されている。
シャガだ。
もはや、彼女はメイドではない。立派な女学生であった。
そばには魔法のトランクも付いている。
あの事件を機に、新しく法律が制定され、花を携帯する事は原則禁止となった。
今、この魔法のトランクには何も入っていない。全ての花は抜きとられ、ただの自動で動くトランクとなった。
「ええ」
女辺境伯となったアガベの為に、屋敷はすっかり綺麗に生まれ変わっていた。
全てを取り壊すように、第二王子の口添えがあったようだが、アガベが「一部のみで」と断ったのだ。村の人達の恩を忘れたくなかった。
「……」
爽やかな風を受け、アガベは屋敷から周囲を見渡す。
ここにはいろんな事があった。
幽閉され、シャガに会い、自殺まがいな事をして、村人達を助け、彼らに文字を教えた。
そして、この土地の領主となった。
空気が白くなる季節が去り、今は太陽の光が強い。
まだ荒地が残る黄昏の丘だが、これからどんどん花を植え、素晴らしい土地に変えていくもりだ。
「必ず後で追いかけるわ」
セイチョウ国に留学するのは、まず子供達が先であった。
少し遅れて、数人の貴族令嬢達が旅立つ。
全員、スイメイ国の未来を背負った未来ある若者たちである。
「はい。お待ちしています」
二人はしばらく見つめ合った。
言葉にせずとも、様々な感情が溢れていく。
アガベはたまらずシャガの痩せた身体を抱き寄せた。
「行ってらっしゃい」
「……はい」
しばらく、シャガとはお別れだ。
今生の別れでもないのに、アガベにはとても寂しかった。
こうして、シャガはアガベに見送られ、馬車へと乗り込んだ。
シャガを乗せた馬車が、港へ向かって行く。
その姿をいつまでもいつまでも、アガベは見送っていた。
これより時代は大きく動き、身分制度の撤廃や、教育の平等が世界を席巻していく。
しかし、今まであった制度を失くすことは、簡単な事ではない。
実際、スイメイ国では、全ての子供に教育を受ける法律を制定するのに百年かかった。
また、身分制度の撤廃には、更に千年の時を必要としたのである。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
中編小説を書く事は初めてで、いろいろ勉強になりました。
しばらくは短編を書く予定ですが、また来年のどこかで中編か長編を書きたいと思います。




