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1 ガブリエラ=ナイトハルト

 アルゼリオン帝国領ペルギルス王国にあるグランベール学院は、帝国をはじめとする帝国領の貴族師弟が、学問や剣術を学ぶ由緒正しき学び舎である。


 そのグランベール学院の術科訓練場の倉庫で事件は起こった。


 生徒の死体が発見されたのだ。


「また〝傷なし死体〟ですか……。ガブリエラさん、彼の身元は分かりますか?」


 リディアは死体の前で片膝を付くガブリエラに言った。


 金糸の髪を掬い上げて耳に掛けたガブリエラは、生徒の胸ポケットから取り出した生徒手帳を開く。


「はい、リディア委員長、死亡したのは中等科に所属するアルス=ディーノのようです」


「ディーノ子爵家の嫡男ですね。今年度に入ってもうこれで三人目です、いったいこの学院で何が起こっているのでしょうか……。こんなことはグランベール学院はじまって以来、前代未聞ですの」とリディアは大きく溜め息を付く。


 ガブリエラが遺体に触れようとしたそのとき、「またお前らか!」と背後から怒号が轟いた。


 振り返ったガブリエラの視線の先にいたのは、この地域を担当する髭面の衛兵隊長と部下の衛兵たちである。


「素人が勝手に現場を荒らすんじゃねぇ! 何度言ったら分かるんだ!」


 ガブリエラの肩を掴もうと伸ばしてきた衛兵隊長の手をかわした彼女は、衛兵たちをキッと睨みつける。

 こちらとしても何度やめろと言われても答えは変わらない。その意思をはっきりと彼らに伝えておく必要がある。


 立ち上がったガブリエラは、頭一つ以上身長差がある衛兵隊長と向かい合い対峙する。


「ここはグランベール学院の敷地であり、わたくしたちは風紀委員会レガートです。この学院の風紀を護る責務があります」


「あのなぁ、お嬢ちゃん……これは遊びじゃないんだ」


「遊び? わたくしは風紀委員としては元より、この学院の秩序の維持をお兄様から任されているのです。遊びなどいう浮ついた気持ちは一縷もありませんわ」


「はぁ? お兄様だぁ? これ以上邪魔をするなら逮捕するぞ」


 隊長が剣の柄を掴んで威嚇するような仕草を見せると、後ろに控えていた衛兵が「たいちょー、もしも大貴族の娘とかだったらヤバイっすよ」と耳打ちした。


「ふん……、参考までにお嬢ちゃんの名前を聞いておこうか」


 胸に手を当てたガブリエラは凛とした瞳を向けて名乗りを上げる。


「わたくしはガブリエラ、ナイトハルト流剣術が当主ダリア=ナイトハルトの娘にして、次期勇者ロイ=ナイトハルトの妹、ガブリエラ=ナイトハルトですわ」


 その名を聞いた衛兵たちの間にざわめきが起こる。


「ナ、ナイトハルトだと……、じゃあ、準勇者グランジスタ殿の血縁者?」


 かつて準勇者だったグランジスタの名前が轟いているのは当然だが、敬愛する兄の名に男たちがひれ伏せなかったことがガブリエラにはせなかった。


「だ、だがな、たとえグランジスタ殿の親族であろうと学生であることには変わらない。犯人捜しは我々に任せて独自の捜査は控え、学業に専念していただきたい」


「いいえ、何度言われようと――」


 頑として引こうとしないガブリエラにリディアが「ガブリエラさん」と声を掛ける。


「私たちが争っても仕方がありません。レガートとしても早期に事件を解決することの方が大事ですの。今は引いて彼らにお任せしましょう」


「わかりました……」


 ガブリエラはグッと拳を握りしめた。


「それでは、ごきげんよう」


 足を交差したリディアは両手でプリーツスカートの裾を摘まみ上げる。膝を曲げて優雅に挨拶してから歩き出した。その彼女の背中を追ってガブリエラも倉庫を後にする。






本作は拙作『アルデラの魔導書』のスピンオフ作品です。宜しければ下記より本編もお楽しみいただけますと幸いです。

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