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苦手な方はご注意ください。

三国志演義

三国志演義・暴獣追撃戦~敗戦の勝者~

作者: 霧夜シオン

董卓は何の未練もなく洛陽を焼き払い、長安へ向けて出発。

袁紹率いる反董卓連合軍は洛陽を占領するも、焦土からは何も得るものはない。

曹操は追撃を進言するが、袁紹はなかなか腰を上げようとしない。

苛立った曹操は単独での追撃を決意するのであった。


声劇台本:三国志演義・暴獣追撃戦~敗戦の勝者~


作者:霧夜シオン


所要時間:約30分


必要演者数:5~8人(5:0:0)

          (5:0:1)

          (6:0:0)

          (6:0:1)

          (7:0:0)

          (7:0:1)

          (8:0:0)


割り振り例:5人:曹操

         曹洪・呂布・連合軍兵士

         夏侯惇・袁紹・董卓軍兵士1

         董卓・董卓軍部将・ナレ

         李儒・董卓軍兵士2


      6人:曹操

         曹洪・呂布・連合軍兵士

         夏侯惇・袁紹・董卓軍兵士1

         董卓・董卓軍部将

         李儒・董卓軍兵士2

         ナレ


      7人:↑の6人の配役から、呂布&連合軍兵士か、袁紹&

         董卓軍兵士1を分離させてください。


      8人:↑の6人の配役から、呂布&連合軍兵士及び、袁紹&

         董卓軍兵士1を分離させてください。


もし、この配役割り振りでも被らずに行けるよ!と言うのを発見しました

ら教えていただければ幸いです<m(__)m>



はじめに:この一連の三国志台本は、

     故・横山光輝先生

     故・吉川英治先生

     北方健三先生

     蒼天航路

     の三国志や各種ゲーム等に加え、

     作者の想像

     を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた

     め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事

     も多々あります。

     その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです

     。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい

     ております。何卒ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします

     。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場

     合がありますので、注意してください。

     なお、性別逆転は基本的に不可とします。



●登場人物


呂布りょふ・♂:あざな奉先ほうせん

     五原郡ごげんぐん出身。

     弓馬に秀で、方天画戟ほうてんがげきを枯れ枝の如く振り回す。

     ヘイ州の刺史しし丁原ていげんの養子になっていたが、董卓とうたく配下の李粛りしゅく

     誘いを受けて赤兎馬せきとばを与えられ、丁原ていげんを裏切って殺すと董卓とうたく

     付く。三十代。


董卓とうたく・♂:あざな仲穎ちゅうえい

     涼州りょうしゅうの長官。

     黄巾こうきんの乱では大した戦功を挙げなかったが、中央に賄賂わいろを送る

     ことで地位を保つ。十常侍じゅうじょうじの乱に乗じて都・洛陽らくように乗り込み、

     専横せんおうの限りを尽くす。


李儒りじゅ・♂:あざな文優ぶんゆう

     董卓の腹心にして知恵袋。

     この主にしてこの部下あり、を地で行く。

     献帝の腹違いの兄であるべん王子と、その母である何太后かたいごうを塔の

     上から突き落として殺すなど、残虐非道の限りを尽くす。

     大体四十代。


袁紹えんしょう・♂:あざな本初ほんしょ

     漢王朝の最高の役職である三公(大尉たいい司徒しと司空しくう)を一族から

     代々輩出している、名門中の名門の末裔まつえい

     優柔不断な所もあるが、基本的には優れた人物ではある。

     周囲に推されて反董卓連合軍の総大将を務める。  


曹操そうそう・♂:あざな孟徳もうとく

     漢の相国しょうこく曹参そうしん末裔まつえいを名乗る。人相見に「治世の能臣、乱世の奸雄」

     と評された、兵法、政治、果ては詩文にまで名を残す事になる、三国志

     版の覇王とも言うべき人物だが、この時はまだほとんど力のない状態。

     三十五歳。


夏侯惇かこうとん・♂:あざな元譲げんじょう

      曹操そうそうの旗揚げにはせ参じた将。

      かつて曹操そうそうの家に養われていたこともあり、弟の夏侯淵かこうえんと共に

      反董卓連合軍に参加する。曹操そうそうからは絶大な信頼を得ている。

      曹操そうそう軍の副将的存在。


曹洪そうこう・♂:あざな子廉しれん

     曹操そうそうの従兄。

     血気にはやる所もあるが、攻守に優れた将でよく曹操そうそうを支えて

     いる。

     曹操そうそうと共に旗揚げし、各地を転戦する事となる。

     なお、正史によれば財貨と女色を好み、吝嗇家りんしょくかとしても知られる。


連合軍兵士1・♂:反董卓連合軍に参加した各諸侯の配下の兵。


董卓軍部将・♂:↓二役を束ねる悪逆の将らしくお願いします。


董卓軍兵士1・♂:暴虐な兵らしくお願いします。


董卓軍兵士2・♂:残虐な兵らしくお願いします。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


ナレ:董卓とうたく洛陽らくようを何のしげもなく捨て、みかどや民を引き連れて西方の長安ちょうあん

   へ都を移す。

   一方、連合軍は董卓とうたくの動きと共に退き始めた汜水関しすいかん虎牢関ころうかんを破り、

   洛陽らくようへと至った。

   だがそこは既に黒煙の渦と火焔の海であり、留まっても得るものが

   何一つない地となっていた。

   その有様ありさまを眺め、歯嚙はがみしている男がいた。

   反董卓連合軍設立の立役者たてやくしゃ曹操そうそうあざな孟徳もうとくである。

   時間はそれより少し前、洛陽らくように火の手が上がる直前まで戻る。


連合軍兵士1:申し上げます。

       董卓とうたくは民達を全て長安に移す模様もようです。


曹操:長安ちょうあんへ? あの地は廃墟になっているはずだが…。

   洛陽らくようを砦として戦うつもりなのか?

   みかどだけを移すならともかく、民についてはに落ちんな…。

   !! まさか!!


連合軍兵士1:? 曹操そうそう様?


夏侯惇:我が君、どちらへ?


曹操:馬を引け! 袁紹えんしょう殿の元へ参る!


連合軍兵士1:は、ははっ!


曹操:まずい…まずいぞ!


   【三拍】


   袁紹殿!!


袁紹:おお、曹操そうそう殿、血相を変えてどうしたのだ?


曹操:ただちに全軍で犠牲をかえりみずに汜水関しすいかん虎牢関ころうかんへ総攻撃をかけて

   突破し、その勢いで洛陽らくようへ攻めるべきだ!


袁紹:な、何をやぶから棒に・・・?


曹操:董卓とうたくは民をも長安ちょうあんへ移しているという報告があった。

   おそらく洛陽らくようを焼き払う気だ!


袁紹:馬鹿な事を。

   洛陽らくよう全体を巨大な城として戦うつもりなのだろう。


曹操:ならば移るのはみかどだけで良いはずだ。

   董卓とうたく長安ちょうあんへ新たに都を建設するつもりでいるに違いない。

   民はその労働力として必要ゆえ、帰る場所を奪う意味で洛陽らくようを必ず焼

   く。


袁紹:もし仮に洛陽らくようを焼かれれば、確かに負けだ。

   我らは洛陽らくようを取り戻しに来ているわけだからな…が、しかし、そんな

   事は起きまい。民を移しているのは、董卓とうたくにも人の心があるからだろ

   う。


曹操:あのけだものにそんな良心があると思っているのか、袁紹えんしょう殿!?


袁紹:それに、汜水関しすいかん虎牢関ころうかんもまだ破っていないのだぞ。

   全軍を動かせなどと軽率けいそつな事は言うものではない。


曹操:ッ! 決断のしどころなのだ、本初ほんしょ!!


袁紹:! 血迷うな、孟徳もうとく

   洛陽らくよう後漢ごかん王朝二百年の都だぞ。

   いくら董卓とうたくでも焼くはずがあるまい!


曹操:火をつければ誰だろうと焼くことができるわ!

   ここで全軍を動かす決断ができんのなら、連合軍の盟主めいしゅなどやめてし

   まえ!!


袁紹:!!!

   …汝とは昔からの馴染なじみだ。今の言葉は忘れてやろう。

   …一度だけな…!


曹操:…くッ!!!


   【二拍】


   どうッ! 曹洪そうこう曹洪そうこうはいるか!


曹洪:我が君、いかがなされたのですか?


曹操:兵をまとめてすぐに出撃できるようにしておけ!

   董卓とうたく洛陽らくようを焼き払う気がする、が、袁紹えんしょうめはそれを聞かん!


曹洪:心得ました。すぐにかかります!


曹操:用意が出来たら声を掛けろ。

   

   【二拍】

   ……。

   落ち着け…落ち着くのだ、たった五千の兵しかないのだぞ。

   十倍近い兵力を持つ袁紹えんしょうを動かさん限り、何もできんのだぞ…!


夏侯惇:我が君、失礼いたします。


曹操:夏侯惇かこうとんか。…どうした?


夏侯惇:いつもの我が君らしくもありませんな。

    挙兵する時も、時期を狙いすましておられた。

    諸侯に対しても我が君の理にかなった言葉は、彼らをうなずかせる

    に十分でありました。

    わずか五千の兵であっても、我が君が連合軍の中で重きをなしてこ

    れたのは、その理が誰にも曲げようのないものであったからです。


曹操:…何が言いたいのだ、夏侯惇かこうとん


夏侯惇:袁紹えんしょうとの衝突は、孫堅そんけんのような荒くれ者でさえ言わない、理のない

    事でした。

    今頃は諸侯のうわさにものぼっているでしょう。


曹操:夏侯惇かこうとん、俺はな――


夏侯惇:【↑の語尾に被せて】

    良いのです。

    そういう我が君も悪くありません。

    挙兵に従って、それがしは良かったと思っているほどです。

    理を忘れてしまわれる時がある。

    そういう我が君で良かった。


曹操:…俺は、とんでもない事をしでかすかもしれんぞ。


夏侯惇:大いに結構です。

    ご存分におやりください。

    それがしはついて行きます。


曹操:良いのか?


夏侯惇:理だけでは、天下に号令は掛けられませんからな。


曹操:ふ…そうか、わかった。

   これからも頼むぞ、夏侯惇かこうとん


夏侯惇:ははっ。


ナレ:曹操そうそうの予見通り、洛陽らくようの空が黒煙におおわれ始めたのは午後だった。

   汜水関しすいかん虎牢関ころうかんを挟んでその煙が見えるという事は、よほど大きな火

   であるという証拠であり、前線で敵と対陣している公孫瓚こうそんさん孫堅そんけんを除

   いた諸侯が、本陣に集まった。    


連合軍兵士1:申し上げます!

       董卓とうたく洛陽らくように火を放ちました!

       おそらく長安ちょうあんへ向かうものと思われます!


曹操:ただちに全軍で追撃すべきだ!

   おそらく関の敵軍も撤退し始めている。

   追いついて董卓とうたくを討ち果たすのだ!

   それが忠義を旗印はたじるしとして立ちあがった我らが為すべきことだろう!


袁紹:前線では公孫瓚こうそんさん殿と孫堅そんけん殿が敵とすでに交戦中だ。我らも続くぞ!


袁紹・ナレ役以外全員:おうッ!!【SE代用可】


ナレ:前線にいた公孫瓚こうそんさん孫堅そんけんの奮戦もあり、ついに汜水関しすいかん虎牢関ころうかん陥落かんらく

   した。

   その勢いで連合軍は洛陽らくようの城に至り、消火活動と逃げ遅れた者の保護

   を始める。

   二日、三日と経ち、そのまま動く気配を見せない袁紹えんしょう曹操そうそうは再び

   いらだちを覚えると詰め寄った。


曹操:袁紹えんしょう殿! ここで足を止めていて何になる!

   速やかにこのまま董卓とうたくを追撃するべきだ!


袁紹:いや、一ヶ月に渡る連戦で兵も馬も疲れている。

   すでに洛陽らくようを占領したのだから、あと数日休養しても良かろう。


曹操:焼け野原を手に入れて、何を誇ることがあるものか!

   こんな所に腰をえている間にも兵達の士気はゆるんでくる。

   今すぐに董卓とうたくを追うべきだ!


袁紹:私を総大将に推したのは君達だろう。

   規律は守ってもらいたい。

   追撃する時は、あらためて命令する。


曹操:しかし、戦には戦機せんきというものがある。

   それを逃しては勝利はありえない。


袁紹:いいや、今はここで兵達を休ませるほうが先だ。


曹操:くっ…!

   本初ほんしょ! なんじ、共に語るに足らぬわ!

   ならば我らだけで追撃する!

   たとえ五千の兵であろうと、断じて董卓とうたくを追い詰めて討ち取る!

   はッ!



袁紹:ま、待て孟徳もうとく


   【三拍】


曹操:進軍ッ! 進軍だッ!

   董卓とうたくを追いまくるのだ!


夏侯惇:ははっ!

    者ども、続けッ!!


曹洪:遅れるなよ!

   董卓とうたくを何としても討つのだ!


ナレ:曹操そうそうとその部隊は、飛ぶがごとく追撃を開始した。

   一方、洛陽らくようの西・長安ちょうあんを目指す董卓とうたくは、日が暮れた為、ケイようの城

   で休息していた。


董卓軍兵士1:ご注進ちゅうしん、ご注進! 一大事でございます!!


董卓:この夜中に何事じゃ!


董卓軍兵士1:曹操そうそうの軍が追って参ります!

       その数およそ五千!


董卓:なにい!? ええい曹操そうそうめ!

   目を掛けてやった恩も忘れ、あまつさえ追っ手の先陣になるとはな!

   李儒りじゅ李儒りじゅはおるか!


李儒:はっ、おん前に。


董卓:何か策はあるか?


李儒:ご安心なされませ。まずはこちらへ。


   【二拍】


   このケイようの地は兵を隠すに絶好の地形です。

   あの山岳をご覧なされませ。

   ここに兵を伏せて不意を撃てば、曹操そうそうと言えどひとたまりもありませ

   ぬ。


董卓:ふむ、ふむ…なるほどな…言われてみればここは天然の要害の地であ

   ったわ。


李儒:ましてや、勝ちいくさにのっている時は周りが見えなくなりやすいもので

   す。

   必ず深追いして参りましょう。


董卓:そこをおびき寄せて仕留しとめるか。

   我が知恵袋たるそちと呂布りょふの武勇があれば、何も恐れるものは無いわ

   、ははははは!


李儒:さ、相国しょうこくは今のうちに長安ちょうあんへ向けて出発なされませ。

   後から追い付いてくる呂布りょふ殿、そしてここケイよう太守たいしゅ徐栄じょえい殿とで

   、曹操そうそうに目にものを見せてやりますゆえ。


董卓:うむ、では任せたぞ。

   残りの者は出発じゃ!

   民どもを叩き起こせい!


董卓軍兵士1:起きろォ! 出発だ!!

       急いで城を出ろ!

       ぐずぐずするな!!


董卓軍兵士2:足手まといになる奴はこの場で斬り殺すぞ!!

       さっさと歩けェ!


ナレ:一時、ケイようの城は急な出発の騒ぎで上下を問わず混乱に落ちる。

   やがて董卓とうたく達が出発すると、残った者達は防戦の用意にかかった。


李儒:城門は閉じよ!

   城の守りは一部の兵だけでよい!

   残りは山へ伏兵となって潜むのだ!


董卓軍兵士1:あっ、あれは!?

       敵だ! 敵襲ー!!


董卓軍部将:ぬうう、早くも曹操軍が来たか!

      者ども、矢を放てェ!!


董卓軍兵士2:野郎ォ、これでもくらえッ!


ナレ:城壁を守備していた董卓とうたく軍の兵は、眼前に迫る兵馬の影を見て慌てて

   矢を一斉に射かけた。

   それより少し前、董卓とうたく達に一足遅れて呂布りょふの部隊が、ケイよう城へ接近

   しつつあった。

   だが城へ近づくと、いきなり矢の雨が降り注いできたのである。


呂布:ぬうう、ケイよう太守たいしゅ徐栄じょえい董相国とうしょうこくの為に道を開き、

   ここでしんがりを務めると聞いたゆえ安心していたが…

   さては裏切ったか!

   おのれ、ならば踏みつぶして通るまでだ!


董卓軍兵士1:はぁ、はぁ、どうだ、曹操そうそう軍め!


董卓軍兵士2:おい、ぼーっとしてないでどんどん射ろ!


董卓軍部将:いや、待て! 少しおかしいぞ…。

      うっ、あ、あれは味方ではないか!

      り、呂布りょふ将軍だ!

      撃ち方やめッ!やめェッ!!


李儒:馬鹿者! 敵か味方か見分けてから撃たんか!!

   呂布りょふ将軍、申し訳ない!

   兵が敵と見間違みまちがえたようだ!!


呂布:むっ、その声は…李儒りじゅ殿か!


李儒:いま城門を開ける!

   しばし待たれよ!

   おい、さっさと門を開けんか!!


董卓軍部将:は、ははァッ!!

      門を開けよ!

      急いで味方を迎え入れろ!


呂布:敵と間違えたという話だったが…もしや追っ手か?


李儒:うむ。

   曹操そうそうが五千の兵を率いてこちらにせまっているとの話だ。


呂布:そうか。

   して、相国しょうこくは?


李儒:先ほどこの城を出られて長安ちょうあんへ向かわれた。

   おお見られよ、まだあそこに行列が見える。


呂布:確かに…。

   だが李儒りじゅ殿。この城は規模も小さく守るには足らん。

   貴公はここで曹操そうそう軍を迎え撃つつもりか?


李儒:いや、この城はわざと敵に与えておごり高ぶらせるために使う。

   しんがりの大半は全て、背後の山に伏兵としてひそめてあるのだ。


呂布:やけに守備の兵が少ないとは思っていたが、そういうことであったか

   。


李儒:呂布りょふ殿も山へ向かってもらいたい。

   ここにいては曹操そうそう呂布りょふありと大事だいじをとってしまい、かえって誘い込

   むのが難しくなるゆえな。


呂布:なるほどな、心得た。


ナレ:すでに罠が張られつつある事などつゆ知らず、曹操そうそう軍はやがてケイよう

   へ殺到する。

   そしてまたたく間に城を突破し、逃げる敵を追って山へと足を踏み入れた

   。


曹操:このぶんなら、董卓とうたくみかどに追い付くのもさほどかかるまい!

   しんがりの武者どもを蹴散らして追え、追いまくるのだ!!


曹操役以外全員:【喚声・SE代用可】


曹操:うッ!? こ、これは!?


夏侯惇:いかん、敵の伏兵のようです!


曹洪:それも四方から…従兄上あにうえ、これはまずい!


曹操:くっ、ひるむな! 突破するのだ!


夏侯惇:駄目です! 兵の数が違いすぎます!

    それに敵の奇襲で味方が動揺しています!


曹洪:支えきれません!

   ここはいったん退きましょう!


曹操:く、くそっ、不案内な山道がある時点で気付くべきだった…不覚!

   だが、まだあきらめん!


   夏侯淵かこうえん! 曹仁そうじん! 兵をまとめろ!


夏侯惇:うっ、今度は左の山手から伏兵が!

    五千はいるか…!!


曹洪:!! 従兄上あにうえ、右の谷からも!


曹操:ぬ、ぬうう…皆、みんなやられていく…!


   【二拍】


   !? 曹洪そうこう! 夏侯惇かこうとん! いかん、はぐれたか…!


董卓軍兵士1:曹操そうそうを討ち取れェ!!


董卓軍兵士2:曹操そうそうを逃がすなァ!!


董卓軍部将:奴はこの乱の首謀者だ、包囲しろッ!


曹操:ぬううッ! たやすくやられてなるか!!

   ッ! あそこにいるのは…!


呂布:おう、曹操そうそうッ!

   長年の野望も夢も、いま覚めたであろう!


李儒:笑止しょうしや、董相国とうしょうこくに受けた恩も忘れてそむいた天罰、思い知るがいい!!


曹操:お、おのれ…あれは確かに呂布りょふ李儒りじゅ


李儒:それっ者ども、曹操そうそうを生けれッ!


呂布:奴らは完全に袋のねずみだ! かかれッ!!


曹操:くっ、もはやこれまでか…!?

   いや、まだだ! こんな所で死ねるか!


董卓軍部将:おおっ、曹操そうそうが逃げるぞ!

      追えっ、追えッ者どもォォ!


董卓軍部将・ナレ役以外全員:【喚声・SE代用可】


ナレ:曹操そうそう軍は完膚かんぷなきまでに壊滅させられた。

   多くの犠牲を払い、曹操そうそうはからくも逃げのびる。

   だが董卓とうたく軍の追撃は執拗しつようをきわめていた。


曹操:はぁ、はぁ……お…沢だ、水を…。


   【二拍】


   急がねば…ッ!?

   うぐっ! ッッ矢が!? うわああッぐッ!


   【二拍】


   う、うう…まずい、馬に、アバラをやられた…。


董卓軍兵士1:やった、当たったぞ!


董卓軍兵士2:身分の高そうな鎧を着てやがるが、誰だ…?


董卓軍部将:おお! あれこそまさしく曹操そうそうだ! 縛りあげろ!


董卓軍兵士1:おら、おとなしくしろォ!


董卓軍兵士2:へへへ、こいつはついてるぜェ!


曹操:うっ、ぐっ、くそ、む、無念だ…!


董卓軍部将:よォし、これでたんまり褒美ほうびがもらえるぞ! 引っ立てろ!


曹洪:!? 向こうにいるのは敵兵か…うっ!? あ、あれは従兄上(あにうえ)!!

   いかん!!


   【二拍】


   どけィ、下郎(げろう)ども! 従兄上あにうえから離れろ!! でやぁッ!


董卓軍兵士1:ギャッ!?


曹洪:命が惜しかったら消えろ!はあッ!!


董卓軍部将:うぐあッ!!


董卓軍兵士2:ひ、ひいいい、助けてくれえぇ!!


曹洪:従兄上あにうえ従兄上あにうえ! 曹洪そうこうです! お気を確かに!!


曹操:う…曹洪そうこうか…?


曹洪:おお、お気がつかれましたか! 


曹操:軍は…味方はどうなった?


曹洪:あちこちで董卓(とうたく)軍の伏兵にあってずたずたに分断され、

   ほとんど壊滅状態です。

   さあ、私につかまってお立ち下さい。

   いま逃げた兵が援軍を呼んでくるに違いありません。


曹操:だ、駄目だ…矢傷(やきず)を負ったうえに、馬に踏まれた胸も苦しい…。

   俺を捨てて行け。お前だけでも早く落ち延びろ。


曹洪:何を弱気な! 矢傷(やきず)など大したことはありませぬ。

   この天下の大乱(たいらん)曹洪(そうこう)は無くとも、曹操孟徳(そうそうもうとく)は無くてはなりません!

   一日でも長く生きるのは、従兄上(あにうえ)が天から受けている使命です!

   何とか(ふもと)まで逃げれば…ああっ!?


曹操:う…大河にはばまれたか…。

   後からは敵兵が(せま)ってくる…曹洪(そうこう)、我らの運命は(きわ)まったようだな…

   降ろしてくれ、敵の来ないうちに自害する。


曹洪:何を言われます!

   自害などと、いつもの従兄上(あにうえ)に似合わぬ事を!

   最後の一瞬まで生きる努力をするのです!


曹操:し、しかし、この怪我では…大河をとても渡りきれん。


曹洪:私が背負って泳ぎます。

   少しでも身を軽くする為に、鎧を脱ぎましょう。

   さ、急いで!


曹操:わ、わかった。


曹洪:さあ、しっかり(つか)まってください。

   行きますぞ!

   ッッ!


ナレ:物窮(ものきわ)まれば通ず。

   曹操(そうそう)兄弟はからくも轟々(ごうごう)と渦巻く大河を泳ぎ切る事に成功

   する。

   だが、天はあくまで彼らを試そうとするのか、渡った先には董卓(とうたく)軍の

   旗がひるがえっていた。


曹洪:はぁ、はぁ…うっ!? あれはケイ陽城太守(じょうたいしゅ)徐栄(じょえい)の旗か!?


曹操:はぁ、はぁ、いかん、敵の手がもうここにまで回っていたのか…!


董卓軍兵士1:!? そこにいるのは誰だ!!


曹洪:し、しまった!


董卓軍兵士2:怪しい奴らだ、ひっ捕らえろ!!


曹操:見つかってしまったか…曹洪(そうこう)、これでは逃げきれん。


曹洪:この上は敵の(かばね)を山と積み、曹家(そうけ)の兄弟が最期として人に笑われぬ

   死にざまを見せましょう。


曹操:おう、よくぞ申した。


董卓軍部将:聞いたか、曹家(そうけ)の兄弟と言ったぞ! 曹操(そうそう)曹洪(そうこう)に違いない!

      思いがけない大将首、何としても討ち取るのだ!!


曹操:ふん、たやすくとれると思うなよ…!

   ん!? あれは!


夏侯惇:そこにいるのは味方と見た!

    皆、救えぇッ!


夏侯惇・曹洪役以外全員:【喚声・SE代用可】


曹洪:従兄上(あにうえ)! 味方です! 援軍ですぞ!


曹操:おお、夏侯惇(かこうとん)だ…! 曹仁(そうじん)楽進(がくしん)李典(りてん)もいるぞ!

   天は…我らを見捨てなかった!

   夏侯惇(かこうとん)! ここだ!


夏侯惇:我が君ーーーッッ! ご無事でしたか!

    さあ、この馬へ!


    よし、撤退だ!


ナレ:明け方から彼を探し回っていた味方に救いだされ、

   曹操(そうそう)万死(ばんし)一生(いっしょう)を得た。

   ようやく安全な所で味方を数えたが、五百あるか無しかだった。

   ほぼ全滅的な敗北を喫したのである。


曹操:五千いた兵が、生き残ったのはこれだけか…。

   夏侯惇(かこうとん)


夏侯惇:はっ。


曹操:負けたな。


夏侯惇:何の、我が君はこうして生きておられます。

    命ある限り、まことの男に敗北などありませぬ。


曹操:生きている。

   そうだな、生きている。


夏侯惇:天は我が君を生かしました。

    生きて闘えという事です。


曹洪:そうです。

   従兄上(あにうえ)、ごらん下さい。

   皆がこうして喜んでいるのは、従兄上(あにうえ)が生きてこの場に立っておられ

   るからなのです。


曹操:そうか…。

   自分が間違っていた。

   仮にも将たる者が、死を(かろ)んじるべきではない。

   もし自害などしていたら、皆をどれほど悲しませたことか。

   良い教訓になった。戦にも負けてみるがいい。

   敗れて初めてさとり得るものがある。


夏侯惇:我らも得がたい体験でありました。

    これからどうなさいますか?


曹操:一旦は洛陽らくようへ戻る。

   だが、そこにとどまるつもりはない。

   河内郡(かだいぐん)再起さいき(はか)ることにする。


曹洪:それが良いでしょう。


夏侯惇:皆、聞け。

    袁紹(えんしょう)の本陣まで行く間、諸侯の陣を通る事になる。

    だが、胸を張れよ。我らは正義の戦をしたのだ。

    この結果は、断じて恥ではない!

    むしろ、誇ってさえよいことなのだ。


曹操:その通りだ。

   味方を多く失ったが、決して負けではない!


夏侯惇:我が君、失ったものばかりではありませぬぞ。

    我が君は稀代(きだい)の勇将として人の口にのぼる事でしょう。

    どういう結果になる事も恐れなかった、これは無形(むけい)の財産です。


曹操:そうだな。


   かつて人相見の許邵(きょしょう)が言った。

   お前は治世ちせい能臣のうしん乱世らんせ奸雄かんゆうだと。

   その言葉に満足して起ちあがった。

   よろしい、天よ! 我に百難(ひゃくなん)を与えよ!

   乱世らんせ奸雄かんゆうならずとも、天下の一方の(ゆう)にはなってみせる!!


ナレ:かくして曹操(そうそう)は敗残の軍を引き連れ、連合軍本陣まで引き上げていっ

   た。

   しかし、袁紹(えんしょう)や他の諸侯に見切りをつけていた彼の眼は、

   すでに絶え間ない革新(かくしん)の英気をたたえて、明日へと向いていたのであ

   る。



END




虎牢関の戦いのすぐ後のお話になります。

楽しんでいただけたなら幸いです。

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