食後
気がつけば素麺と天ぷらは二人で平らげてしまった。
満腹になった僕は民畳に寝そべりたい衝動に駆られるが、少女は皿洗いをしている最中で何だか申し訳ない気持ちが勝っていた。
「お兄さん、ゆっくりしてていいんだよ」
お客さんなんだからと彼女は言ってくれる。
少女は皿洗いはもう終わったようで、エプロンは外していた。
素足でスタスタと歩いていきて、当然のように僕と方が接するくらいの距離の所で、ぺたりと座る。
「お兄さん、さっきの約束覚えてる? 写真見せてほしいんだけど」
少女は僕の顔を覗きこんでくる。思わず体を引きそうになるが、かろうじてそのままの姿勢を保ち平静を装う。
「いいよ」
僕は自分の声が震えていることに気がついた。情けないことだ。
僕はスマホを取り出して、先ほど撮影した画像を見せた。
少女を撮影したのはもちろん。実はこの家も少し撮影していた。
「お兄さん、写真撮るのうまいね」
少女は食い入るように僕のスマホの画像を見ていた。
少女は気づいているのだろうか。
すでに僕の二の腕が接していることを。
「ねえ。これからも私の写真撮ってくれていいから、ここで生活する写真も撮ってよ。実は伯父さんにそういう仕事も任されてて……」
一人でやるのはとても大変だというのだ。
たしかに一人で、この家を切り盛りしつつ、僕の世話までするというのは大変だろう。
これくらいの協力なら僕としては問題ない。
「僕でよければ」
「ありがとう。日当も何もでないけど」
あははと少女は少し気まずそうに笑った。
「写真は趣味みたいなものだから、頼まれなくてもやるよ」
「そう言ってもらえるなら嬉しいな」
そう言って少女は自分のスマホを取り出す。
「じゃあ、交換しよ。連絡先」
僕は少女にまた一本取られた。
そんな気がした昼下がりだった。
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