お昼は冷やし素麺その3
ちゃぶ台には大皿に素麺が並々と盛られている。
もう一つの皿には野菜の天ぷら。どれもきれいなきつね色に揚がっている。
「素麺のつけ合わせはやっぱり天ぷらだよね。あ、天ぷらは塩をかける派?」
それともめんつゆ派? と少女は続ける。そんな派閥があるのか。
「僕は塩でいただこうかな」
「りょうか〜い」
僕に取り皿を渡すとき、ついでに味塩を僕の手が届くところに置いてくれる。
「それじゃあ、いただいちゃおうか」
僕は少女に合わせて合掌する。
素麺をつゆにつけてずるずるとすする。それからタマネギの天ぷらを口に入れる。衣のさくりとした感触とタマネギ甘みが口に広がる。
ピーマンの天ぷらも苦味が利いていてアクセントになっている。ナスビもいわずもなが。
「おいしいよ」
「私もそう思う」
少女は素直に褒められたのが嬉しかったのだろう。彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「本当はお客さんの食事する部屋は隣りの八畳間なんだ」
「夕食は隣ってこと?」
「どうしよっかなあって。お客さんはお兄さん一人だし。一人だとちょっと寂しい感じなんだよね。それに私も一人で食べるよりお兄さんと食べるほうが楽しいし」
少女は僕の顔色を伺うように目配せをしてくる。きっとお兄さん次第だと言うことなのだろう。どちらがいいかは僕に委ねられたということだ。
「僕も一緒に食べたほうが楽しいよ。いま実際そうだし。感想も直接届けられるし」
「ホント? じゃあご飯はここで食べるってことでいいかな? 私もそのほうが運んだりするの楽だし」
あっと少女は思わず漏れた本音に口を慌てておさえるが、時すでに遅し。
僕がクスリと笑うと少女は口をとがらせる。
「もう。笑わないでよ」
談笑しながらの昼食は楽しかった。
3話はこれで終わります。