お昼は冷やし素麺その2
少女は大きめの鍋に水を入れてコンロで沸かしはじめる。
「お素麺だけど、いいよね?」
聞くのを忘れていたという表情で、少女は僕に確認をとってくる。
「もちろん。僕も素麺の気分だから」
事実だった。何せこの暑さだ。
「つけ合わせも簡単に作るから」
そう言って少女は冷蔵庫からナスビやタマネギを取り出して、包丁で手早く切りはじめる。
ナスビは切れ目を入れて扇状に、タマネギは輪切り、ついでにピーマンを二つ取り出して、半分に切ると種を取りだしながら水で洗う。
さらに小麦粉をふるいにかけて、溶き卵を入れ、冷水を混ぜる。
さらに鍋をもう一個準備して油を並々入れてから、火をつけた。ひょっとして天ぷらでもしようというのか?
無駄な動きは一切なく、まさに流麗の一言だ。
火の近くにいるためか少女の額から汗が流れ落ちそうになるのを空いた手で拭う。
僕にはその汗がきらめく玉のよう思えた。
調理に集中している姿は凛としている。
だから思わず僕は声をかけてしまった。この姿を何とか自身の記憶に留めたかったのだ。
「あのさ。料理してるところ写真に撮ってもいいかな?」
その問いに少女はまた目を丸くする。
「私の料理してるところを?」
僕は黙ったままうなずいた。僕の表情があまりに真剣だったのだろう。少女は少したじろいでいた。
「まあ、お兄さんがいいなら……」
少女は少し照れくさそうもにょもにょとした口調になる。
「その代わり条件があります」
「うん」
当然のことだろう。約束事は必要だ。
「撮った写真は私に見せること。あとSNSに私の許可なくアップロードは禁止。これやったら伯父さん呼んで問答無用で叩きだすから」
このあたりは当然のことだろう。
「それともう一つはお昼は食べたら話すね。これはお兄さんのウデしだいだし」
最後の意味が理解しかねたが、こうして僕は少女を撮影する許可を得た。
僕は小躍りしたくなるくらいにうれしかった。
その2です。