浴衣
僕は暗がりの中で少女を待っていた。
時間にしたら一〇数分。
「お待たせ」
障子戸を片方だけを開けて、少女が出てくる。
なんと少女は浴衣を着ていた。
白を基調とした青い花柄模様。
「よくよく考えたら着る機会ないなーって思って」
先ほどのお祭りの話のことだろうか。
「伯母さんがくれたんだ。似合う?」
くるりと回って、僕に見せつける。
「ああ、似合ってるよ」
これは少しストレートすぎたかもしれない。少女はえへへと照れくさそうに笑みを浮かべている。
「また、着る機会は作ろうよ」
「お、約束だよ」
「もちろん。君の浴衣姿なら、もう一度くらい見たいと思うよ」
「じゃあ、頑張ってね」
「了解だよ。それじゃあ、花火の続きをしようか」
「浴衣の着付け大変じゃなかったの?」
「これは着付けとかいらないんだ」
すぐ着れるが、その代わり着る機会もないのだとか。たしかにそうかもしれない。
「花火やってると寂しいなって思うときもあるんだ」
「どうして?」
二人で花火の火を見ながら語らう。
「夏がもう終わるような気がして」
「夏ははじまったばかりだよ?」
「そうなんだけどね」
はじまりがあれば終わることもある。
しかし、それは何を意味しているというのだろうか。
夏ははじまったばかり。それは少女と僕のここでの生活もまだはじまったばかりということではないだろうか。
「これはきっとはじまりの花火だよ。寂しくなるのはもう少し先でいいんじゃないかな?」
「そうだね」
地上に花火。夜空から月明かりが照らす。それは夜だけがくれる灯りだった。
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