一軒家その3
「ここが露天風呂だよ」
縁側へ出て、丁度真ん中にある石段を降りるとすぐ脱衣所に繋がっている。
脱衣所は2〜3人くらいがせいぜい入れるくらいの広さながら、屋根付きでしっかりした造りだ。
脱衣所を抜けるとたしかに露天風呂だった。周囲はコンクリートの壁なので、景観を楽しむというものではない。
しかし、洗い場と風呂場は屋根付きなっており、天候に左右されずにこれならお風呂に入れるだろう。
「なかなかいいでしょ。コンクリートの壁はそのうち何とかするって伯父さんが言ってたよ」
おそらくその頃に僕はいないだろうな。そんな風に僕は感じた。
「これで部屋の案内はざっくりしたけど、わからないこととかある?」
少女が訊ねてくる。
「伯父さんというかオーナーはまた戻ってくるの?」
少女は僕の質問が不思議だったようで、首をかしげている。それからしばらくして合点がいったようで「そっかそっか」と何度もうなずく。
「伯父さんはオーナーなんだけど、他の宿泊所も管理してるんだよ。しかもいま夏休みで繁忙期だから……」
こちらにはほとんど顔を出す暇がないということらしい。
「任せてよ。お兄さんのお世話は全部、私が引き受けたから」
料理も得意なんだからと少女は胸を張ってみせる。
「君がずっといるわけじゃないよね?」
少女は首を横に振る。
「私、お兄さんのお世話を頼まれてるから。私もここで寝泊まりするよ?」
当然でしょという口調に僕は驚く。
「庭はコンクリートで仕切ってあって外から覗けないし、出入りは玄関と勝手口だけで、他の窓は格子入れてるし、すりガラスでやっぱり覗けないようになってるし、警備も入ってるから、下手な一軒家よりプライバシーは確保されてると思うよ。あー、あとネットもちゃんと繋がってるし」
営業トークのようにこの家のセキュリティが語られる。思ったよりハイテクなんだと僕は目を丸くする。
「お風呂とかお手洗いは私と共用だからね。覗かないでよ、お兄さん」
少女は白い歯を見せてニンマリと笑みを浮かべて僕に向かってウインクをする。
僕は気恥ずかしくなって、頬をかいた。
少女との実質一つ屋根の下生活がたったいまはじまるのだった。
3話目になります。