一軒家その1
軽トラが茅葺き屋根の一軒家の前に止まる。
近辺を見わたしてもこの一軒家以外の家屋は一切見当たらない。だから、ここがこれから自分がお世話になる家ということなのだろう。
伯父さんは僕が軽トラを降りると、自分は別の泊まり客のところに行かないといけないからと言って、少女と僕の荷物を降ろしたら、さっさとこの場を後にした。
僕は半ば放心状態だ。左手には荷物。
右手の肌と肌が触れ合いそうな距離に少女が立っている。
少女は「伯父さん、じゃあね!」と言いながら、右手を大きく振って見送っていた。
軽トラが見えなくなると僕の顔を覗きこむようにしながら、僕の右手を両手で握ってくる。
ひと肌のぬくもりに汗ばんでしっとりしたような肌ざわりだった。
「お兄さん、行こうか」
少女の声音はどこか嬉しそうで、浮かべている笑顔はニンマリと僕をからかうようだった。
僕は少女に手を引かれるまま家の玄関をくぐる。
「玄関は土間になってるんだ」
かつては米俵なんかを置いていたと聞いたことがある。入った左手には上がり口があり、右手は壁になっている。
台所は手前にある引き戸の向こうだと少女は教えてくれた。
「ホントはお客さん入れたら駄目なんだ」
そう言いながら僕を台所の中へ招いてくれる。
入る途中に少女は麦わら帽子を脱いで、取りつけてあるフックにかける。
台所から土足厳禁のようで、少女はサンダルを脱いであがると、きっちりとサンダルを揃える。僕もそれにならう。
台所はリフォームしてあるのか、調理台はもちろん。水場もあれば、ガスコンロが備えつけられていて、大型の冷蔵庫もあれば、電子レンジもある。至って近代的なものだった。
伯父さんには黙っててと少女は僕に念押しをしてくる。おそらくバレたら本当に怒られるのだろう。
「案外、台所は普通だね」
「薪を割って火をおこす的なの想像した?」
「まあね」お客さんを台所に入れてはいけない理由はそのあたりにあるのだろうと僕は思った。
一軒家の紹介がこの回含めて3回続きます。