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ひいろのせかい  作者: Remains
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005 毘色の能力

知留家には代々伝わる遺伝的な能力があるのだが隔世遺伝らしく母にはその能力はなかった。父は婿養子で経営の才能と人脈を生かし知留家を支えいてくれるが、母には頭が上がらないようだ。

知留 毘色 には生まれながら「さきよみ」の才が備わっていた。しかし、それだけではなかった。

生後半年で言葉を理解し話し始めたと思ったら一才になると文字の読み書きができるようになる。ただし運動機能の発達は通常児とかわらなかった。

この新たな能力とはつまり「思考操作」能力であり、思考の加速や体感時間の圧縮ができたのである。自覚なしに思考の加速を使用したおかげで、実時間では短時間で言葉や文字を理解できるように学習したのだ。

ただし本人にとっては通常の理解速度と変わらない時間を過ごしていた。つまり、周りからは一瞬でも本人は何十倍もの時間を過ごし考えていたということである。

この能力は現実の時間を操作するのではなくあくまで自分の体感時間を変化させるものであり、現実への物理的影響力は皆無だ。

この能力は言ってみれば考える時間を何十倍にも拡張できる能力であり「さきよみ」の能力もこの力の延長上にあるのかもしれない。


さて、この能力便利なようでそうでもない。

見たり聞いたり動いたりという物理現象のスピードは変化しないのだから、いくら早く考えられても、それに対応するスピードで行動することができないのだ。

毘色は体を鍛えることでこのギャップを埋めようと考えたが、すぐに限界を悟り今は新たな方法を研究していた。

「実時間思考通信理論」というのがそれだ。人が思考すると神経インパルスが発生し脳波が検出されるのはご存知の通りだが、この神経インパルスの発生を力場として観測し、言語化しようという理論だ。

つまりMRIのようにどの神経節がどのタイミングで活性化したのかをすべての脳の神経節立体構成図を作って突き止めていくのだ。

こう考えたときはこのバターンで活性化するなどの情報を無限に蓄積していくことで思考内容を推測していく。

気の遠くなる作業が必要だが毘色の脳マッピングは大方終わり思考パターンの収集も膨大な量になっている。

とはいえ、身体能力の強化は怠っていない。いざという時は体が頼りだから。

しかし、一方で物理的なスピードを強化できないか、つまり空間強化とか、空間移動とかの能力を開発できないかもづっと研究し続けている。


さて、TOM(TOMTEC10000)の演算能力は、このデータの解析をするためにほぼ毎日費やされているのだが、それでも今まで数か月かかって学習を進めた結果ようやく実用化のレベルにまでたどり着いていた。ただし毘色専用の通信装置だが。


毘色は思考通信専用ヘッドギアをかぶりベッドに横になる。「思考通信開始」と告げるとヘッドギアが点滅して作動を開始する。

頭の中でTOMに話しかける。

「TOM  聞いているかい」

「はい、よく聞こえます」

「それでは、今から思考加速実験を開始する」

「思考加速開始」

「今30倍加速ぐらいだと思うが聞こえるかい」

「はい、問題ありません」

「それでは、このスピードに合わせて動画データを送ってみてくれ。今日のニュースを抜粋してお願いするよ」

すると、直接脳にイメージが音付きで流れ込んでくる。

「うん、しっかり理解できる」

「続いて60倍に上げてみるのでよろしく頼む」

「はい」

しばらくするとイメージが流れてくるが、早くなったり遅くなったりして安定しないので、「スピードが安定していないようだよ」と告げると

「今いただいた言葉の思考速度に調整しますので少しお待ちください」

しばらくしてイメージが安定してきた。

「うん、これならいけそうだ」

「次は120倍、はじめに言葉をかけるからその速度で調整してみてくれ」

「TOM イメージを流してくれ」

すると問題なくイメージが流れ難なく理解できる。

「それじゃ、この状態で、最近のニュースをお願い」

「はい」

今日の出来事をまとめたニュース映像が体感で一時間ほど流れる。

「一般のニュースはこれくらいにして、経政経済の目立った情報をお願い」

すると政財界の裏情報が映像と文字データで提示されてくる。

ページに区切られてデータは送られてくるので見終わったら「次へ」と言って次のデータを表示させる。しばらく閲覧したのち、「今度は経済情報を頼む」というとすぐにデータが送られてきた。

しばらく閲覧して、「最後に高校一年の数学の講義の映像を頼む」

この講義映像はオンライン受講者用に作られたもので、学校の授業内容と同じものだ。1回の講義で約一時間、教科書の内容をすべて終えるには120時間程度かかる。

はじめの第1回を見終わったところで「今はここまでとする、思考通信終了」

というとヘッドギアの点滅がなくなり停止する。


「ふう、疲れた」と時計を見ると2分くらいしか経過していない。

「この倍率で加速を続けると脳がもたないな」確かに実時間は2分間だが実際に4時間程度の量の脳内の活発な活動が行われたのだから、疲れはとても大きい。

とは言え、脳内イメージによる学習なので通常使用する視覚や聴覚の脳野には負担がかからない一方で、主に前頭前野の特定の部分に負担が集中している。

「これからは思考加速学習を毎日続けるのでよろしくね」と言って

ベッドから起き上がり、冷蔵庫を開ける。そこには丸知印の特性ドリンク「脳筋」が所狭しと並んでいた。一本取りだして飲み干すと、タンスから取り出したトレーニングウェアに着替え「筋トレルームに行ってくる。そのあとまた思考加速学習を再開するから」と言って部屋を出て向かいの筋トレ室に入る。


まずは満遍なくストレッチを行い、腹筋・背金・両則筋をそして大腿筋・脹脛と進み前腕筋とウェートトレーニングしたのち、ランニングマシーンで5キロ走り込みする。

息を整えた後、太極拳の呼吸法とヨガのポーズでクールダウンして、最後にストレッチして筋肉をほぐす。ここまで1時間強。シャワーを浴びてタオルを巻いた姿で自室に戻り、着替える。


冷蔵庫の「脳筋Ⅱ」を一本のみ、ドライヤーで髪を乾かした後、「TOM 再開するよ」と言ってヘッドギアをかぶりベッドに横になる。


「思考通信開始」の言葉にヘッドギアが点滅する。

「120倍加速に調整して」と言い、続けて

「先程の高校数学講座の第2回目から大5回目まで続けて流してくれ」

「了解」

講義を聞き終わり、小テストを受ける。

小テストとは、5つの講義ごとの理解度を図るために設けられた簡単なテストで、1つの講義が20点で×5講義で100点の配点、80%以上の正答率かつ、一つの講義ごとに10点以上の得点をとる事が条件だ、つまり各講義16点平均で合格できるが、一つの講義でも9点以下をとると他が満点でも不合格となる。

このテストに合格すると第6講義以降が受けられる。

「じゃ小テスト開始!」

毘色は第一回の問題から第五回の問題まで一気に回答していった。

回答を見直すこともせずに「採点」に進む。

即座に採点が表示される。

「98点 合格です」

どこが間違ったのかを確認して、正解を見つける。

「焦って凡ミスしたか」とつぶやく。

「TOM 今日は終わりにするよ」と言って

ヘッドギアを脱ぐと、冷蔵庫から「脳筋Ⅲ」を出して飲む。

「さて、下手の横好きさんにメールで連絡しとくか」と言って

「メール作成。宛先は下手の横好きさん。題名は将棋の勝負は時の運」

「本文 下手の横好きさん先日はお手合わせいただきありがとうございました。

 当方、幸運に恵まれ、勝ちを拾わせていただき、驚いております。

 つきましては、ご指定のとおりご連絡を差し上げましたが

 いきなりお会いするわけにはまいりませんので

 まずは、貴方に勝利する事がどういった意味があるのかということを

 ご説明頂けると幸いです。

 当方訳があって、うかつに世間に姿を見せることができない境遇です。

 以上よろしくご検討の上、ご返信ください。

 」

 「差出人は、TOM メールアドレスは、登録してあるcoocleメールを使用」

 「じゃ頼むね」

 「さて、TOMの増設のお願いをPC販売会社の研究部門に打診しておかないとな」と言って他のメールの手配をするのだった。


 現在はTOMが思考加速の補助をして高速で学習できるようになったが、以前は大変な苦労をして高速学習をしていた。

 加速するのは思考だけなので、本を読むにしろPCを見るにしろ、物理的身体スピードでしか、本をめくったりキーボードを叩いたりができないのだ。

 それでもはたから見れば驚異的な速度で本読みができるし、ディスプレイの内容を一瞬で把握して次の画面に進むを繰り返せるのだから、閲覧スピードは半端がなく早い。

 しかし入力作業は物理スピードに依存するので限界がある。いくら早くても人のできる速さ以上にはならない。

 そんな制約の中でも、毘色は学習を続けてきた。膨大な本や資料、論文を読み

 様々な理論を学び理解してきた。それこそ一般人の数十倍の量の書籍を読み込み理解してきたのだ。

 知識レベルなら大の大人と変わらないかそれ以上にあるのだが、実戦経験がないので、現実の世界で力を発揮するために必要だったのがTOMTEC10000と汎用AIのTOMだ。

 まずこれらを開発するための勉強から始めて、実際に小規模なシステム開発にこぎつけるまで3年を要した。

 システムが稼働できるようになって、AI開発に取り組む。

 自分の求める能力をAIに獲得させるにはどんなデータをどのように学習させたらいいのか、試行錯誤を繰り返し専用のAIを作り、最適なデータを収集加工する専用AIを作り、それらのAIを統合管理して目標に近づけるための学習の最適化AIを作り、そうしてTOMのプロトタイプができると、それをベースに育成プログラムを作って教育をし続けて成長させる。

 結果として求める能力が発現したのは、タイプ23の104周期めのTOMにだった。これが新プロトタイプとなって今のTOMに成長する。ここまで2年が費やされた。

 この間にも毘色は日夜学習に励みつつ、TOMTEC10000の改良と拡張を続けていた。当然この時期は、学修院の初等科に通うのが非常に負担だった。

 これからの毘色には自分で自由にできる時間と環境が絶対に必要だった。そしてそれが今の学校に通うようになる理由の一つであった。

 

 TOMTEC10000の性能拡張とTOMの能力向上が今までの毘色にとっては最重要だった。それが今実現し、毘色は思考加速の恩恵を余すことなく享受できるようになった。

 これ以後、あらゆる能力の強化や学習が短時間で実行可能になり、PC並みの思考策度をもってして常識を超えた発明や理論が次々と考案されていく事になる。

 これでようやくかねてから思い描いていた夢に向かい歩を進め始めることができるようになったのだが、ここはほんの始まりに過ぎなかった。

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