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ひいろのせかい  作者: Remains
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004 TOMの性能

自室に戻ると、TOMが「お帰りなさい」と言って

明かりをつけてくれる。メインティスプレイには将棋の盤面が映し出されている。

「おや、ずいぶんと手こずっているみたいじゃない?」

「そうなんです。」

今は第二局目で一局目は5分で負けたようで、2局目にようやく勝負になるかどうかというところらしい。

プロ2段くらいの実力があるTOMを軽くひねるというのは、相手の実力は計り知れない。

「どれどれ」と相手のプロフィールを見るとIDネーム「下手の横好き」とあり、他の情報は秘匿されている。

「ふーん、TOM、一つ脅かしてみようか?」

「でも、善意で対戦してくれている相手に失礼ではないですか?」

「嫌ならいいが、このままではなんか面白くないな~」

「失礼のないようにご配慮くださればかまいませんが」

「それじゃそういうことで、TOM、以前学習した上級将棋プログラム『将神』の学習結果を使用して差し手を進めてみてくれ」

「了解しました。」

「解析完了。次の一手を打ちます。」

「ついでに過去の全棋譜データにアクセスして追加学習を開始してくれ」

「了解しました。全125,211件の棋譜をもとに追加学習を開始します。」

TOMの打った一手に下手の横好きさんはしばし時間をかけて対応してきた。

相手の手筋に対してTOMは即座に最善手をうつ。

「毘色様、このまま手を進めていてよろしいでしょうか?」

「見たところ下手の横好きさんは相当の手合いだから、大丈夫だと思うよ」

「わかりました。」

「もし、問題だと感じたら報告して。それまではこのまま打っていていいと思う。ところで、この前まとめた『汎用問題解決AI開発について』というレポートがあったはずだが、内容を精査するのでサブディスプレイに全文を出力していれる?」

「わかりました。」

「それと、今度衛星通信での次世代全帯域全方向性通信の実用化に対する実験を行うことになるかも知れないので衛星搭載型の通信ユニットを設計しておきたいんだがプロトタイプの設計を頼めるかな?」

「いいですが、すぐには無理ですよ。今から情報収集と回路設計をしても今の計算スピードだと1か月はかかると推測します。」

「とにかく関連の情報収集をしてデータベースに整理しておいてほしい。」

「それと今後の君の運用予定だが、24時間稼働を原則として0時から6時の6時間はサスペンドモードにて知識データベースの再構築時間とし、覚醒モード時には常時リンク状態を維持しつつ僕のサポートを中心に常に情報収集は怠らない事とする。」

「また、それに伴い今のシステムと同等の妹システム---JULIETT--- 通称ジェリーを開発予定だよ。」

「それは楽しみですね」

「それと先程話したように、君の性能アップに基本基盤の改良と換装、メインストレージと外部記憶の増設を頼んでおこうと思う」

「そちらも楽しみです」

サブモニターにはこの前まとめておいたレポートが全ページ映し出されていた。

「このレポートどうかな?」

「オンプレミスでシステムを組むとなるとワンフロアーは必要でかつ5億円はかかります。大企業ならコストフォーマンス次第で導入の価値はありますが、中小は無理でしょう。当然クラウド接続の専用クライアント端末使用のプランが必要になりますがこれもコストパフォーマンス次第といったところです。つまりは問題解決能力がどれくらい役立つかにかかっいてると思われます。」

「そうなんだ。汎用問題解決AIは使い方次第でどんな問題にも最適解が得られるようになるが、AIの学習に時間がかかるのが欠点なんだよね、で、予想できる問題解決能力をあらかじめ何種類か学習済パッケージとして用意しておいてオプションで組み込めるようにしたいと思っている。」

「また、クラウド対応には専用端末を低価格で貸し出す代わりに、職場の情報収集

をしてAI学習のデータとしてフィードバックし、より最適な解を得られる様学習を進める。その上、得られた各会社の職場の情報を使用して、新たに必要とされうる問題解決能力の開発をしてパッケージ化していく。というのが今回の骨子なんだ」

「つまり使い勝手も成長させようというわけですね」

「その通り。うまくいけば相当のシェアを獲得できると思うのだがどうだろう。」

「提供価格にもよります。」

「そうなんだが、インフラだけでも100億は下らない先行投資が必要になるので、価格決定が難しいところなんだ。まぁ、あとは経営判断に任せる部分なんだけどね。でも儲かると思うよ。」

「クラウドだと回線確保の問題もありますね。」

「そうなんだ。それで先程の衛星回線の話につながる訳だ。

 より安い大量な情報の通信手段が必要になるので、次世代の高密度情報通信技術を使用した衛星通信網は今後必須になるとおもう。」

「そういう事でしたらレポートのままでよろしいと思います」

「じゃこれ、このままAI 開発部にメールで送っといて。

 本文にはとりあえず、『参考にしてください。分からない事があればご連絡ください。』とでもしといて」

「分かりました。」

と話しているとメインディスプレイの盤面に相手の「投了」サインが表示された。

「勝ちました。」

とTOMが言うと、将棋サイトのプライベートチャット機能での通信が届く。

「TOMくん 貴方何者ですか。初めて負けました。」

「始めまして 下手の横好きさん。突然で何とお答えしてよいのか迷います。」と答えておく。

「とにかく、私に勝つということがすごいことなんです。

 一度どこかでお会いして、話せませんか。」

 「いきなり何を言うかと思えば、どこの誰かもお互いにわかっていないのに無理なことを言わないでください。」

 「とにかく会うか会わないかは別として、私にメールをください。アドレスは hetayoko@mitui.co.jp  絶対ですよ!」

 と一方的に伝えてログアウトしてしまった。

 「毘色様、何か面倒な事になりましたね」

 「うん、でも何か気になるな

  メールアドレスから情報を集めてみてくれる?」

 「了解しました」


「それと将棋サイトでの対戦履歴はわかる?」

「はい」


「登録は今年の4月10日」

「その日から約1週間ごとにログインして必ず3局しています。」

「今日まで負けなしですね」


「mitui.co.jp  ですがどうやら満井総合大学関連のサーバーらしいです」

ID名の「下手の横好き」で登録している他サイトを検索してみましたがゲームサイトの一つに同名で登録がありますが、他人の可能性もあります。」

「満井総合大学にAIを研究している教授や研究室はないかな?」

「はい、あります。情報工学部の認知情報科教授の富樫 徹という人がAI開発研究をしているようです。」

「その研究室のメンバーはわかる?」

「それと富樫研究室でもweb検索してみてくれ」

「それと念のためダミープロキシ経由で検索をすること」

「それはすでに実行中です」


「富樫研究室の成果を報告・発表する公開サイトを見つけました。」

「教授とともに一つのテーマを研究しているほかに、どうやら各研究員それぞれが思いつく独自研究を進めているようですが大したものはないかと思われます。」

「教授のテーマは?」

「『AIの自我の発達について』のようです」

「ふ~ん、もしかしたら、面白い話ができるかも」

「誰とですか」

「下手の横好きさんだよ」

「折を見て僕がメールするので君は何もしないでいいよ」

「はい、わかりました。」

「さて、それじゃこちらも研究といこうか」

と言って、毘色は机の上のヘルメットのような装置を手にした。

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