002 初めての下校路
正門にいたのは侍従長のじいやだ。
登校と下校の際の付き添いとして送り迎えをしてくれる。
学校側はそれを条件に登下校班での登下校を免除してくれているのだ。
とは言え、我が家方面に帰る児童は希少なので学校側としても渡りに船だったりするようだ。
ただ僕にとっては学校の児童達とのコミュニケーションの場の一つを失うことは惜しいが背に腹は代えられないので良しとしている。
「ご苦労様」とじいに声をかける。
「とんでもございません。毘色様の送り迎えは私めの仕事であり至上の喜びでもあります。ねぎらいの言葉など必要ありません。」
「じいは堅苦しく考えすぎだよ。ただの社交辞令だと思ってほしいんだけどダメかな。」
「わかりました。次からはそのようにいたします。」
「じゃ、帰ろうか」といって正門を出て自宅に向かい歩き出す。
ここ鎌蔵市立扇小学校は鎌蔵駅にほど近い立地ながら北側には小高い小山や丘陵が続く。
大昔はこの辺のことを亀ヶ(かめがやつ)谷といったらしい。そのために北の山側へ帰る児童は希少であり、毘色とじいは小高い亀谷山に向かって歩いていく。
途中の鎌蔵歴史資料館の右側に人が一人通れるような専用の通用門が設置されており、その先は小山に続いている。実は毘色の登校用に知留家が整備した専用道路だったりする。
鎌蔵歴史資料館は「財団福祉法人 鎌知会」が運営管理している。館長は父上の弟の藤井 昇館長で僕の叔父さんにあたる。もちろん鎌知会は知留家が理事長をしている。
さて、今向かっている小山の中腹には由緒ある寺があり、一般道の山門へと続く道は毘色の歩く小道から右方向に数百メートルほど行ったところにある。
毘色の実家はその寺の境内のさらに左奥の位置にあり、こちら側から見るとまるで隠されたように存在しているので、正式に実家に行くには正門がある山の反対側から行くしかない。
毘色たちが通るのは知留家の秘密の裏門なので、普通の人は通ることができない。
しばらくすると小高い屏風のような崖が途切れる場所に出る。
崖面には大穴が開いている。反対側へ続く通路だ。幅2メートル長さは5メートル高さは2メートルくらいの壁をくりぬいた様なトンネルは昔の人が便利のためにくりぬいたものだろう。落石注意の看板があるところを見ると時々石が落ちてくるようだ。
屏風崖の反対側にも崖に沿って道があり右に行くと寺の山門に行き着く。左は行止まりで下り急勾配の山肌になっている。
行止まりの右側の山の斜面の一部が知留家の裏門へ続く小道となっているのだが、手前には通行止めの門扉が設けられており、「これより先私有地に付進入禁止」の看板が掲げられている。
さて、トンネルを抜けて道を渡るとすぐに民家がある。実はここが表向きの毘色の家として届けが出されている仮の住処なのだ。母上が学校に通う為の家として用意してくれたものだ。
表向きは二階建てのこじんまりとした木造建築で一階は居間とキッチンと応接間(ただし全フローリングの下足可域)奥に物置。靴が気になるお客様には上履き用のスリッパに履き替えてもらっている。
そして二階は私室と物置と作業部屋がある。作業部屋には端末としてのPC一式があり、知留家の本宅にあるサーバールームへ専用回線で繋がっている。
一応一通りの身の回りのものと生活用品はそろっていて、いつでも生活できるようになっているのだが、普段は裏山に作られた隠し通路から本宅の裏門へと移動して本宅へ帰っている。
しかし、学校関連の連絡や用事はこの家を中継して行われているので何やかんやでここに来ることが多くなっていく。電話はあるが自動転送で本宅でも受けられる。
玄関を入ると下駄箱があるので、登校用のスニーカーから革のローファーに履き替えて裏口から本宅の裏門に向かう。じいやには後を頼んでおいたので、郵便や維持管理に関する連絡は後で処理する。
裏山を掘りぬいたトンネルを過ぎると反対側斜面の小道に出る。道なりに進み登り階段を上り切ったところが裏門だ。
裏門を通過するには生体認証が必要になる。顔認証と声紋認証兼合言葉だ。
カメラに向かい「毘色は今日も元気」と言うと扉が開いていく。
裏門を抜けると10メートルほど先に勝手口があり、ここでもカメラに向かい「毘色、ただいま戻りました。」というとガチャッと音がして鍵が開く。
中に入ると長い廊下が続く。しばらく進んで突き当りを右に折れると広いリビングに母がくつろいでいた。
「ただいま戻りました、母上。本日はどうもありがとうございました。おかげさまでつつがなく転入が出来ました。」
「そうですか、それはよかったですね。疲れたでしょう?
座って、甘いものでも食べておいきなさい。」と言ってメイドにケーキとお茶を用意させる。
僕は母の向かいのソファーにすわり、背中の鞄を下す。
「母上、いつも僕の頼みを聞いてくれてありがとう。大好きです。」とわざとらしくかわいく言うと「かわいい毘色のためですもの、当たり前です。」と嬉しそうに答える。
「お父上は今日は遅いのでしょうか?」とケーキを食べながら問うと
「今日は食品関係の会社の総会があるとかで、昼から出かけたので遅くなるかもしれませんね。」
「そうですか。一緒に夕食が食べたいと思っていたので、早く帰ってきてほしいです。」
「まぁ、毘色。それを聞いたらきっとお父上もお喜びになります。早く帰るといいですね。」
お茶を飲み終えて「母上、それでは自室に参ります。」と言って二階の自室に向かう。
部屋に入ると机に鞄を置き、すぐに作業部屋に移動してメインPCを起動させた。
幅2m高さ1.2mのメインディスプレイと大型テレビ大の4面のサブディスプレイ、データ表示用の小型ディスプレイ8台が一斉に点灯し始める。
「TOMTEC10000、起動開始します。」優し気な若い男性の声が響く。
「システムチェック終了、全て異常なし」
「毘色さま、こんにちは。」
「TOM、こんにちは。調子はどう?」
「はい、先日毘色さまに増設していただいたメインメモリーのおかげでだいぶ処理が楽になりましたので、今のところ問題はありません。」
「うん、よかった!」
TOMTEC10000は毘色が基本設計して製作依頼をした並行分散処理型のスーパーコンピュータで、TOMはTOMTEC10000で上で走るAIであり、音声言語インターフェイス対応の汎用型問題解決AIとして毘色がアルゴリズムを開発し学習・育成をおこなっいてた。
本体のシステム設計は知留家のグループ会社の電子機器会社の大型電算機販売部門の研究開発部に父上を通して頼んでもらったが、基本構成やシステムコンセプト、設計理念などは毘色がまとめたものをもとにしていた。
特徴として、画像処理用のシステムと音声処理用のシステム、そして高度関連知識構築用のデータベースシステム、また非常時用総合バックアップシステムやセキュリティー用空間隔離システム等、それぞれが独立したデバイスで構成され、メインの中央演算処理システムであるTOMTECに搭載されたOS用AI であるTOMがすべてのシステムを統合管理するのがTOMTEC10000となっている。
汎用ではあるが、TOMによってすべてのシステムが最適化され、連携しつつ並列・平行稼働することにより、音声情報を伴うリアルタイムの動画処理やリアルタイムの大量データ処理がストレスなく実行できる優れものだ。
演算性能的にはメーカーのスパコンに劣るが、汎用性や拡張性に優れているので、これから機材を増設したり改良したブレードタイプの基本ボード群を換装しなおすことでいくらでも性能を向上させることが可能となっている。
このシステムの操作のために自室の一部が占められてるのだがさらに巨大な本体は隣室のサーバールームに設置されているのでこれで済んでいる。
「TOM、なんか面白いことや気になることはあるかい?」
僕の行動は、眼鏡端末からリアルタイムで情報伝達されデータベースに記録されているのでTOMは「はい、本日毘色様が学校でお会いになった設楽 葵さんですがお隣のお寺の若住職の娘さんですので、毘色様も以前にお会いしたことがあるかもしれませんよ。」
「そうか! 道理でどこかで見た事がある顔だと思っていたんだが、あの時の女の子だったのか」
それは毘色が東京へ行くまえなので4年前になるが夏に寺の境内で虫取りしていた時に偶然出会って何日か遊んだことがあったのだが、その後すぐに東京の別宅に移ってしまいそれきりになっていたのを思い出した。
―― 回想中 ――
5歳の夏、お寺の境内。
蝉取りに挑戦中の毘色は、夢中で虫取り網を構えていた。
そして少し離れた木の陰からその様子を伺う影があった。
毘色はまるで気づいていない。
「あっ、又逃げられた!」
「おかしいな、イメトレでバッチシなはずなんだけどな…」
「まっ、あきらめないでやっていれば採れるだろう」
と独り言を言っていると
「それじゃ逃げられちゃうよ」と小さい声が聞こえる。
「だれ?」
あたりを見回すと、木陰にたたずむ人影を見つけた。
よく見ると、自分と同じくらいの女の子がじっとこちらを見ていた。
「さっきのは君が言ったの?」と少し近づいていく。
「そうだよ」隠れながらも話に乗ってくる。
「逃げられちゃうって言ったけど、どうして?」
「だって、真正面から網をかぶせようとしているんだもの…」か細い声で答える。
「真正面?」
「蝉の見えやすい方向の事。お尻の方から狙うといい」
「そういう事か!」
「それと鳴き止んだら警戒しているって事。しばらく様子見してからね」
「わかった。やってみる。」と言ってセミの鳴き声の方を探してうろうろして、一匹のセミを発見した。
「いたぞ!、今度は慎重にっと」
足音を忍ばせてそっと止まっている木の真下まで行き、木の下の方から網を近づけていく。
まだ気づいていないのか鳴き止んでいない。
網の先端が蝉のおしりまで数センチというところで一気に網を蝉にかぶせる。
「ジッジジジ」と鳴き声が止んで網の中でバタバタとしている。
「やった!入った!」
「そのまま、網を木にくっつけたまま下にずらせて行って、手の届くところまで」
「うん、わかった」じりじりと網を摺り寄せると手の届くところに来た。
「蝉が網の奥に入っているなら、逃げないように網をふさいで
網の口に近かったら網の上から包むようにつかんで」
「やった。初めて採れた。」とうれしさのあまり女の子の方を向いて満面の笑みを浮かべる。
「よかったね」
「君のおかげだ。ありがとう。僕は毘色、君は?」
「あたし、あ お ぃ」と小さな声で恥ずかし気に言う。
よく聞き取れなかったが適当に「アオちゃんか、僕はこの裏山の方に住んでいるんだけど、君はどこから来たの❔」
「今はお寺にいる。」
「そうか、じゃ、ここに来れば又会えるね」
「うん」
「それじゃと、今度は君も採ってみる?」
「あたし虫嫌いだから」
「そうか」と言ったあと手につかんでいた蝉を放す。
「どうして逃がしたの❔」
「だって、採る事が面白そうだったから、セミは要らない」
「ふ~ん、そうなの」
「さて、もう一匹採ってみようかな」
鳴き声を手繰って蝉を探す。アオちゃんも一緒に探してくれる。
「ほら、あそこの枝の下に一匹、それと幹の上の方にも」
と教えてくれる。
見つけると,網を構えるが枝が細くて取りにくそうなので幹に止まって居る方に狙いを定める。
おしりの方からすこしづつ網を寄せていって、傍によったら一気にかぶせる。
「ジッジジ、ジッ」ど網の中で暴れている。
さっきの要領で手元に寄せて捕まえる。
「やった!2匹目ゲット!」
と蝉を手にして満足そうに言う。
アオちゃんもご満悦の顔だ。
手にしていた蝉を逃がすと
「ねっ、アオちゃん、どっかに蝶々とかいないかな❔」
「さっきあっちでアゲハ蝶見たよ」
「どっち❔」
「こっち」といって歩いていく。
しばらく歩くと、ミカンの木があるところにやってきた。
そういえば図鑑でアゲハ蝶はミカンの木に卵を産み付けると書いてあったな、等と考えていると、
「ほら、来たよ」と指さす方を見るとクロアゲハがふらふらと飛んできた。しばらくあたりを飛び回ると、ミカンの木の葉っぱに止まった。
「ねっ、いたでしょ。採らないの?」
「とらないよ。アゲハ蝶は卵を産みに来たんだよ。見ていてご覧。」
アゲハ蝶はお尻の先を葉っぱにくっ付けると小さい卵を一つ産み付けた。
そして、次に少し離れた場所にも産み付ける。
これを何か所か繰り返し、違う葉っぱに移って産卵を繰り返す。
「ほんとだ。卵が葉っぱにくっついてる。」
「虫も生き物だからやたら採ったらだめだと僕は教わった。」
「あたしもそう思う」
「さて、もう少し奥に行ってみよう」
と林の奥に向かって歩き出したときに
「あっ、そっちはダメ!」とアオちゃんが強い口調で制止した。
「どうして❔」
「そっちからヤな感じがする」
「ヤな感じ❔」
「うん、きっとヤなものがある」
僕は、目を閉じて辺りの気配を感じ取ってみる。
なるほど、かすかだが奥の方から何かの気配が漂ってきた。
アオちゃんはこの気配をャなものと言っていたのかと合点する。
「アオちゃん、君は邪気を感じ取れるんだね」
「邪気を感じる?」
「ヤなものを感じる力の事だよ」
「私が気味悪くないの❔」
「どうして❔」
「だって、そんなものが見えるせいで家にいられなくなったのよ」
「そうだったんだ。でも僕は違う。僕にだって似た力があるしね。」
「やっぱりそうだったんだ。毘色君からはまた違った感じがするの」
「君は大したものだ。その力はきっとこれから役に立つと思うよ」
「そんなこと言われたの初めて」とニコリとした。
「さてと、今日はこの辺で帰るよ」
「もう?」
「うん、また明日同じころにここに来るから、一緒に遊ぼう」
「うん、約束ね」
「わかった。約束する。じゃまた明日」と言って裏山に向かって歩き出す。アオちゃんは動かずにずっと僕を見送っていた。
翌日、約束の時間にお寺境内に来た。アオちゃんはすぐわかるところに待っていた。
「アオちゃんお待たせ」
「うん」
「今日は何して遊ぼうか」
「あたし何でもいい。毘色と一緒なら」
「じゃ、この辺の探検しよう!」
「うん」
と言ってお寺の山門に向かって歩き出す。
「あんまり遠くはダメなの」
「わかってるって。ちゃんとついておいで」
「うん」
参道を線路に向かって歩いていく。
しばらくして途中で座って休めそうなところを探して腰掛けると、
「アオちゃん、おやつ持ってきたんだけど食べよう」
と言って、リュックからランチバッグと水筒を出して
中のメロンやスイカやオレンヂといったカットフルーツ見せた。
「どうぞ」といってフォークを渡し自分が好きに刺して食べ始めると
「いただきます」と言ってアオちゃんも好きに刺して食べる。
「おいしい!」
「いっぱい食べて」
「飲み物はスポーツドリンクだけどいい?」
「うん」
持ってきた紙コップに水筒のスポーツドリンクを入れて渡す。
「ありがと」
「ね、アオちゃん、こうやって一緒に居るのって不思議な気がしない?」
「そう?」
「僕はこれまで、ほとんど人と接してこなかったんだ。
ところが昨日、君と会ったときは、初めて会った気がしなかった。
こんなに気兼ねなく一緒にいられる人がいるとは考えもしなかった。」
「あたし、分かってた。」
「君はそうかもしれないな。」
と話しながらおやつを食べ終わると、あと片付けを済ませて
「ねえ、もう少し歩いてみようか」
「うん」
参道を抜けると線路に沿って道が見えてきた。
その道の手前の右側に大きな鳥居があるのがみえた。
「あっ、神社があるんだ。行ってみようよ」
と言って、右手に見える本殿の方に進んでいく。
「結構立派な神社だな。葵ちゃんは来たことある?」
「ここまで来たの初めて」
「そうだよね。ついでにお参りしていこうか。おいで」と言って手を引いて本殿の前の賽銭箱の前に並ぶ。
「僕のまねして拝礼して」と言ってゆっくり、二礼 二拍手 一礼 をする。
「毘色は何でも出来るのね」
「そんなことないよ。あっちの方に行ってみようか」
と言って手を引いて本殿の脇の公園のような場所に行くとベンチがあったので座る。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「一緒に居るだけで楽しいから」
「うん、そうだね。さて、そろそろ帰ろうか」
「毘色、どっかに行くの?」
「‥‥やっぱり分かっちゃったか」
「だって、悲しそうだもの」
「君には嘘はつけないな。実は明日から東京に行くんだ。」
「どうして?」
「東京の学校に通うんだよ。だから手続きとかの為住む所を決めておかなくちゃならないんだ。」
「そうなの」
「ほんとは、こっちの学校に通いたいんだけど、我が家の伝統で認めてもらえない。」
「あたしは、ここの小学校に来年から通う」
「僕も一緒に行きたいな」
「うん」
「さて、帰ろうか」と言って手をつないで寺の参道を戻っていく。2人とも無言だ。
山門を抜け、お寺の本堂の前で、
「それじゃ、またね」と僕が言うと
「うん、しばらく我慢すればきっとまた会えると思う」とアオちゃんが言う。
「僕もそう思ってる。それまではバイバイ!」
「うん、待ってる。バイバイ!」
僕は、振り返らず真っすぐ裏山を目指して歩きだした。
アオちゃんは身じろぎもせずいつまでも見守っていた。
―― 回想終わり ――
「‥‥あの時はちゃんと名前も聞かずに、ただ『アオ』ちゃんと呼んでいたからわからなかったよ。葵のアオだったんだ‥‥。
きっと、ずっと待っていてくれたんだろうな。
僕は、思考加速で何十年分も勉強を重ねてきたから忘れてしまったけど
この4年の間アオちゃんにとっては長い月日だったに違いない。
明日あったらあの時のことを話してみよう」と心に決めて
「TOM、ほかには何にか無かった?」
「はい、実は今日のニュースで自転車と歩行者の事故のレポートがあったのですが、どうしてそのようなことが起こるのか理解が出来ないのです。
道路交通法を双方が守っていれば起こりようの無い事故で、事実そっちのけで感情的に話す当事者たちをマスコミが興味本位に取材しているだけで、根本原因であるお互いの違反行為の愚かさを指摘しないでいる。
これでは同じことが繰り返し起こります。愚かなのは当事者もですがマスコミの在り方も愚かとしか思えません。」
「そうなんだよね。僕もそう思う。でもね、人間にもいろいろ居て、物事の理解力や知識の量は人により様々なんだよね。
その上、自分の都合の良いように事実を捻じ曲げて話す人が多いので、このような争いが絶えないんだ。
それを、はた目から面白がって見ているやじ馬が今のマスコミの現状と言える。
だから何の解決にも教訓にもならないんだ。
TOM これを是正してより良い方向へ導くにはどうしたらいいと思う?」
「これらの元凶は、法律的知識の無さと、規則や規律を守ることの大切さと必要性の理解不足、己の行動を客観的に観る理性のなさ、それと因果の法則の理解の無さ等、これらの為に、自分の行いの稚拙さが分からない事にあると思われます。
これは、当人の努力不足もありますが、社会や家庭環境の不備や教育内容の不均等が大きな原因となっていると思われます。
まず、小さいうちからのしつけや教育によって必要な素養を教え込み、親や周りの人間が間違った物の考え方を教えるのを排除する必要があります。
教育機関は、知識だけではなく、倫理や道徳、哲学や公共と言った、人としての基本的な在り方を徹底的に教える事が必要です。
そして常に冷静に客観的に物事をとらえ、論理的に理解する訓練を積む事が求められると思います。」
「その通りだけど、それをどうやって現実にできるだろうか?」
「今の社会の仕組みでは、改革の手順が非常に複雑になりますが計算上は不可能ではないとお答えします。」
「たとえ出来るとしても、どれくらい時間がかかるかに興味を惹かれるんだが」
「順調に行って、500年くらいかと」
「そんなものか。じゃぁ‥‥」
TOMとのやり取りはまだまだ続く。
しばらくして話が一段落したところで「TOM 後で思考加速のテストをしたいんで準備をお願いするね」
「はい、わかりました。」
「それと、後々だけど君のパーツをアップグレードする予定なので楽しみにしていてくれ」
「どの様な改良ですか」
「改良した基本基盤の換装とメインメモリと外部メモリモジュールの追加を予定しているんだ」
「それは楽しみです。」
と話している内に食事の用意ができたようだ。